表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/159

回顧と優しさ


 悲しいお話です。


 お兄様の姿を見ていると、前世の記憶が蘇ってくる。


 私は前世では結婚していた。コミュニケーションなんて絶望的な私が結婚出来るなんてびっくりしたけど、結婚できてしまった。

 理由は一つ、押しに押されて根負けしたからだ。私と真逆のタイプの人と。旦那は手を抜けるところはとことん抜いて、ギリギリ低空飛行、とにかく楽をして合格スレスレを目指している様な人だった。

 

 何故彼が私に好意を持ったのかわからない。そうゆう所はあまり語らない人だった。分からないから、最初は怖くて全力で逃げた。だって別世界の人だと思ったから。

 お母様の時は必死で目を合わせていたけど、本来の私は目を合わすのも物凄く苦手だ。目が合いそうならそれとなく逸らしてしまう。相手に対してとても失礼なのは重々承知しているが、反射的に逸らしてしまうのだ。直そうと思うが、そう思えば思うほど条件反射の様に目線を逸らしてしまう。それくらいの人見知りでもある。

 それでもなんだかんだあって、付き合い始め、結婚して、子供にも恵まれた。

 

 ……そう、子供だ。私の人生の中で1番重たい責任は子供だったと思う。妊娠した時とても嬉しかった。

 最初は女の子。女の子の名前を沢山考えてはあーでもない、こーでもないと言うのは楽しかった。

 妊娠中もいろいろ勉強して、万全にしていたと思った。けれど最初の子が生まれてから、全てが予定通りにいかず毎日あたふたしてた。段取り通りに行くことの方が少ない。

 頭で考えていたことと実際の生活とは大きな乖離があった。

 それはもう、しっかり歩ける様になるまでは兎に角大変だった。

 それでも子はかすがい。一歳半を過ぎると、自分で歩くことが増え、落ち着いた様に思えた。

 子供は2人いたら良いなと、漠然と考えていた。

 年齢的にもあまりあけられないなと思ったいたところ、少し落ち着いたタイミングで2人目を妊娠した。

 2人目の男の子を無事出産したは良いけれど、上の子は赤ちゃんに母親をとられると思ったのか癇癪が酷くなり荒れる様になった。赤ちゃん返りと少し遅めのイヤイヤ期にはいったのだ。

 勿論、下の子は泣くのが仕事……。2人育児も全然うまくいかなくて、要領の悪い私は家事もサボり気味で何もかも中途半端で本当にこの子達を育てていけるのかとても不安になった。

 寝不足も重なり、体調も崩し気味なった。


 もともと友人を作るのには時間がかかるのに、2人目の出産を機に旦那の転勤で全く知らない土地に行ったのも大きかった。誰にも頼ることが出来ず、続いて大規模な感染症流行も重なって、育児の公共施設も軒並み閉鎖。

 一時保育等もなくなり、何処にも頼る事ができず、ワンオペ育児をしていた。それでも何とか頑張って、子供がママって言ってくれた時は嬉しかったなぁ…。


 あれ……私の最期の記憶はいつだっけ?どうだったのだろう。……うまく思い出せない。けど、子供達はまだまだ幼かったはずだ。何で異世界転生なんかしてしまったのだろう。子供達をおいて……。


    …………本当にごめんなさい。


◇◇◇


 ギュッとお母様に抱きついていたお兄様は少しだけ首を捻り、私の方を向いた。その眼差しは、抱きしめられて嬉しくて勝ち誇るわけでも、私に嫉妬して睨みつけるでもなく、ただ淡々と私を見つめていた。ただただ見つめられてるだけ……けれど、前世を思い出していた私にとっては何故かとても責められている様に感じた。


 いつもならすぐに目を逸らしてしまってただろう私だが、今は時が止まったかの様に体が動かない。……あぁ小心者の私には人並みの幸せを望むのは間違っていたのだろうか。お兄様を見ながら、今はもう何もしてあげることの出来ない前世の子供達を思うと自然と涙が出てきた。


  本当にごめんなさい……。


 自分ではどうする事も出来ず、涙がホロリと流れ落ちた。


 赤ちゃんなんだから泣くのは当たり前な筈だけれど、お兄様はそれを見て、驚いた様に目を見張った。感情をあまり表わさないお兄様には珍しい表情だった。

 お兄様はお母様との抱擁をといて、ベビーベッドに近づいてきた。こんなに近づいてきたのは初めての事だ。

 ベビーベッドの柵の隙間から小さな手伸ばして、私の頭に触ろうとするが、……届かない。

 お兄様は仕方なく、私の手を握ってくれた。

 「……だいじょうぶだよ」


 いたわるように握った手と、優しい呟きに、更に涙が溢れでた。



 あの日からお兄様は、以前よりもよく部屋を訪れてくれるようになった。勿論、お兄様の用事の大半はお母様なのだが、そのついでに私にも声をかけてくれたり、撫でてくれる。私は恥ずかしくて、よく寝たふりをしてるけど、優しく撫でる手からお兄様の気持ちが伝わってくるような気がする。優しいお兄様……。

 前世ではお姉ちゃんがいたけど……ふぅ……思い出したくない。


 お兄様は高位魔法使いのランクで、侯爵家の跡取りに相応しい資質を持っている。私はお兄様の足枷にならないようひっそりと、人前に出ず生活し、ある程度大きくなれば、神殿に入るつもりだ。それが私に出来る事だと思う。お兄様の汚点にはなりたくない。

 本来、フィリアの意思に関係なく、勝手に異世界転生したので、フィリアには罪はないはずですが、責任感が強いので、この様なかたちになってます。決してフィリアは悪くありません。けれどとても無念だと思います。

 本当に世の中のお母様、お父様方、育児お疲れ様です。

 フィリアは責任感が強すぎて、責任ある仕事を任されるとその責任に押しつぶされてしまう様な小心者であり、人見知りでもあります。



 赤ちゃんは確かによく泣きますが、声を上げずにホロリと泣くことはあまり無いと思います。お兄様の反応の方が普通なのかな?フィリアは自分の泣き方がおかしいのに気づいてません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ