鑑定返し
エイベル様は、とても礼儀正しく挨拶してきた。
けれど見た目とは裏腹に、お辞儀から姿勢を戻し、目が合った時に、鑑定魔法を掛けてきた。勿論弾いてやったけど。
エイベル様は少し目を見開いたがそれだけでにこやかな笑みを返してきた。流石高位貴族である。
目には目を歯には歯をじゃないけど、私も鑑定し返した。グレゴリーさんとの訓練の賜物だね!
やはりエイベル様は高位魔法使いだった。殆どの魔法が使えて優秀なのが伺える。ブレンが何か言ってきてるけど、どんな人であっても過去を覗くのは趣味じゃないので遠慮しておく。
私も何事もなかったかの様に、にこりと微笑み挨拶をした。
「初めましてフォードルン侯爵令息様。私はしがない治癒魔法師です。名乗るほどではございませんので、治癒魔法師とお呼びくださいませ。
こちらは私の護衛ですのでお気になさらず。
私達のことは詮索しない様に予めアンを通してお願いしている筈です。
私は若輩者ですので心配は重々承知しておりますが、お気に召さなければ今すぐ帰ります。いかがされますか?」
エイベル様はアンがよこしてきた私が本当にサーラさんに会わせる価値があるのか鑑定したかったのだろう。
一応、アンから年齢は若いが独自発想で新たな治療法を確立している治癒魔法師と紹介されている筈だ。
身元を詮索しない事を条件に出していた筈なのに鑑定をしてくるなんてどうかと思う。
私は13歳になり身長は150センチ超えているがまだまだ顔立ちは幼い。心配する気持ちはわかるが、戦闘体制でもあるまいし、いきなり鑑定を仕掛けてくるのは失礼だと思う。
私は嫌味たらたらで返してみる。
勿論、本当に帰るつもりはない。
サーラさんを治療出来るならしてあげたいけど、だからといってこちらが下手に出るのは筋違いだと思う。何事も最初が肝心だ。
小心者の私なので心臓はビクビク、背中に冷や汗が流れているが、悟られない様に顔はにこやかな笑みをたたえている……はずだ。
私とエイベル様は数秒目が合っていた(前世の私では考えられないくらい目を合わせれる様になった。苦手なのは変わらないけどね!! グレゴリーさん様々だ)が、エイベルが目を閉じて次に開いた時は、柔らかな笑みを浮かべて私達を離れの中へ案内してくれた。
「失礼を致しました。ずいぶんお若い方だったのでつい見つめてしまいました。こちらへどうぞ、ご案内致します。私の事はエイベルとお呼びください。ここにはフォードルンばかりですから」
「承知致しました。では今だけは便宜上、エイベル様とお呼びさせていただきます。お許しくださいましてありがとうございます」
エイベルは鑑定の事には触れず、何事もなかったかの様に返してきた。
フォードルン侯爵家の離れは、かなり広かった。複雑に入り組んだ廊下を進むと1番奥にその部屋が有った。
見るからに重厚な扉で閉ざされた部屋は、幾重にも魔法が組み込まれており、厳重に管理されているみたいだ。
扉の前に立ったエイベル様はこちらを振り返り困った様な顔で尋ねてきた。
「アンからどれほどの事を聞いているのかわかりませんが、ここにいる子はこの国のこれからを担う人材になりうる子供です。扉の中に入ると、自動的に守秘義務契約が成立しますので、この中のことに関して口外できません。悪しからずご了承下さい」
今エイベル様が、説明した事が守秘義務契約の発動条件だったのだろう。なんとも言えない体に巻き付く様な魔力が気持ち悪い。扉をくぐることで最終的に発動するのだろうけど嫌な感じだ。
「ご安心下さい。そちらにいるアンの様な契約魔法ではございませんので……見ないうちに手綱が増えて哀れだな……」
エイベル様はアンに助けを求めたと言うのに、アンに対して侮蔑にも似た言い方をするのはどうなのだろう。なんだか変な家族だ。選民意識が強いのかもしれない。
アンは困った顔をするだけで何も言い返す事はなかった。
「さて、扉を開けても宜しいか?」
秘密保持契約は、想定の範囲内だ。私は神妙に頷いた。
エイベル様はしっかりと確認して扉を開けた。開ける時も複雑な魔術式がある様でちょっと解術は一回では難しそうだ。
かちゃかちゃと沢山の音が鳴り、最後に重厚な音が響くと、ゆっくり扉が開いた。
中にいたのは私と年が変わらないか、幾分小さい女の子だった。
長くふわふわの髪はブラウンだったけど、目はエメラルドグリーンだった。
多分だけど、サーラさんは王族の血筋ではないかと思われる。今王族は少ない。対象は限られてくる。
先祖返りだと言われればどうしようもないが、これが表に出れば反意を翻すつもりだと言われても文句は言えないだろう。これは秘密保持契約魔法は必須だわ。
サーラさん……サーラ様がこちらを向いた。最初にエイベル様、アン、オリバーさんを見て最後に私を見た。その目が大きく見開き次には鋭い目つきに変わり、私を睨んできた。
「私は魔力抑制はしないわ!! 治療はしないから帰って!!」
どうやら魔力柱の抑制を拒んでるのは本人だった様だ。




