敵陣視察
もしサーラさんの魔力柱のレベルが王位魔法使いとなると、サーラさんを旗印にして、過激派のフォードルン侯爵の反乱が現実味を帯びてくる事になる。
ただ、アンが相談するくらいだから、サーラさんの治療はうまくいっていない様に思われる。
アンはフォードルン侯爵家を追放された身だ。それなのに内情を知り、助けを求めてくると言う事はサーラさんの容態は切迫してるのではないかと思う。
「フィリア様を連れて行くという事は、フォードルン侯爵に会わずに、サーラ嬢に会い、フィリア様が無事にここに戻って来れる算段があるという事で良いのか?」
オリバーの問いに、アンは言葉に出来ないのか静かに頷いた。
「オリバー殿、フィリア様をフォードルン侯爵家に連れて行くおつもりなのですか?
正気ですか?」
私が考え事をしてる間に、オリバーが、アンに確認をしている。マーサは反対の姿勢のままだ。
「いいのではないですか?
敵陣視察に行くのも。サーラという方の現状はこちらも把握しておきたいところでしょうし」
「フィリア様を危険に晒すなど、旦那様がお許しになるはずがありません」
肯定を現すオリバーに対してマーサは反論する。
「ファドマ閣下よりも、リヒト様の方が許可が出ない気もするが……私が説得しますよ。
どんな事が起ころうとも私がフィリア様をお守り致しますので心配いりません」
私はオリバーを見た。いつの間にお兄様の名前呼びを許されたのであろうか? ついこないだまでお兄様の事をファドマ侯爵令息殿と呼んでいた気がするのだけれど……やはりオリバーは優秀だ。オリバーが説得出来ると言うのなら出来るのだろう。
お父様とお兄様の許可が下りてから、と言う事でアンとはまた話を詰める事になった。今はアンは疲弊しているので休息が必要なのだ。
◇◇◇
どうやったのかわからないけれど、オリバーはフォードルン侯爵家に行く許可をもぎ取って来た。オリバーの顔が少し青白い気もするが気のせいだったと思おう。
アンから許可が取れたらすぐにでも来て欲しいとの事で早速フォードルン侯爵家に行く事になった。何かをしていると私も気が紛れるのでちょうどよかった。
私の髪と目は目立つので、お出かけに使っている焦茶色の髪と目に変えた。顔や身長も変えたい所だが、私の魔力では、あまり時間が保てないので、仕方ないとする。顔を変えていないので、顔立ちや魔力などの認識阻害メガネも着用している。これで変装は良いかな?
オリバーは普段とは似ても似つかない顔と姿だ。オリバーもグレゴリーさんと同じで変身魔法は得意らしい。
アンでは私達全員を一度に転移出来ないので、オリバーが事前にフォードルン侯爵家に偵察にいった様だ。
オリバーの転移魔法でフォードルン侯爵家の本邸前に着いた。勘付かれて出入りが厳しくならない様に、邸内には入っていないらしい。本邸にはいくつもの防御結界もはっておるので、中への直接転移は元々、出来ない。
今回は、オリバーと私とアンの3人で来ており、マーサはお留守番だ。
マーサは顔や魔力が割れている可能性もあったためと、何かあったときはオリバーは私を守る事を優先する事になるので、マーサの危険を考慮して、私とオリバーだけになった。
オリバーの転移魔法でフォードルン侯爵家邸宅前に着いた。転移魔法はだいぶ慣れた。吐き気も眩暈もない。
フォードルン侯爵家は、有数貴族の一つに相応しい邸宅だった。ファドマ侯爵家も勿論負けてませんけどね!!
ファドマ侯爵家は白を基調とした建物に対して、フォードルン侯爵家は、シックな装いだ。どちらもセンスがいいので甲乙つけ難い。好みが分かれそうだ。
私達は本邸ではなく、離れに用があるため、足早に本邸の横を通り過ぎる。
離れの前にいたのは、お兄様と同じ歳くらいの男性で、茶色い髪に黒い目をしていた。黒い目は前世の私と同じなのでとても親近感が湧いた。
「初めまして、エイベル=フォードルンと申します」
彼……エイベルは慇懃に挨拶をして来た。




