伝えたい
「アリシア、君のせいではないと言ってるだろう?」
声と同時に私の体がふわりと抱き上げられる。あぁ……、抱っこって癒される……。はっ!?時々、赤ちゃんの自分に引っ張られるのよね……。体力は贖えないと言うか眠いんですよ、ずっと。
じゃなくて、とっても落ち着いた、安心させる様な低い声の持ち主はお父様のダグラスだ。艶やかな濃紺の髪に、夜空のような深い藍色の目をしている。
そしてなんとちょーイケメン!! お父様は残念かもとか想像してごめんなさいでした。なんと言うか知的なイケメン? 一見、厳しそうに見えるお父様ですが、使用人に対しても家族と話してる様子をみても、とても思慮深くて、周りをよく見てる感じ。こんな上司いたら職場やりやすいだろうなぁって思う。
家令ももちろんいるけど、任せっぱなしにせず、最終采配はお父様だ。うん。私の家はいい職場だと思う。使用人のみんなも生き生き、けどキビキビ働いてて、いい塩梅な感じ。
そんないつもはキリッとしたお父様だけど、今はとても心配そうな顔をしてる。
私も、お父様の言葉に何度も首肯してみる。まだ寝返りも出来ないけど出来てるはず!! うんそうだよ! と言ってるつもりだが、口から漏れ出る声はあぅあぅとしか出てこない。悔しい……。
「ほら、フィリアもうなづいてるよ」
私の熱意が伝わったのか、お父様はそう言ってくれる。
さすがお父様!よく見てる!!
「そんなわけないじゃない! 半端者なんて、これからの事だって、全部私が悪いのよ!! 私が全て悪いの……」
儚げな印象のお母様だが、とても芯の強い人みたいで、1人で抱え込んでしまってる。
これ以上お母様が憔悴していくのをみるのは耐えられない……。何とかならないかと、とりあえず見える目で必死にうったえてみよう!
今はお父様が抱っこしてくれているお陰で、お母様との距離も近い。目は口ほどに物を言うと言うし、とにかく必死の目でお母様に訴えかけてみる!
『だから、お母様のせいじゃない!!』
「…………えっ?」
パチンと電流が走る様な音と共に、お母様の目に困惑と言うか、数秒遅れて驚いた顔が浮かんだ。
ん? 伝わったのかな? よし! もう一度。目に力を入れて……。
『だから!お母様のせいじゃない!!』
「………」
お母様だけでなくお父様も、私の顔を覗き込んでくる。
わぁー! やっぱり美男美女の両親だわ、絵になるぅー!! じゃなかった。そうじゃなくて、
やっぱり伝わってるかも!!もう一度!
『私が勝手にやった事なの。だからお母様は悪くない!』
今度はお母様だけでなくお父様もとても驚き、目を見張った。
「勝手にやった? どう言う事……?」
一度言葉が通じると、目に力を入れなくても、普通に会話できた。いや、実際は口は動いてないので、私だけ念話? の様な感じた。
私は2人にこれまでの自分が解る範囲でお母様のお腹にいた時の話をする。前世なんて突拍子もないし、信じてもらえるかもわからない。私も過去はなるべく話したくないので、前世の記憶はふせたままにした。
もともとコミニケーション苦手な私だったけど、とにかく必死で話した結果、2人とも納得? してくれた様だ。
あぁよかった! これで、一安心。ふぅ、いい仕事した!
どうやら、念話は私が意識して伝えたいと思った事のみ、伝わっている様だ。2人の反応からそうだと思う。たぶん。
お母様はそれ以降もまだ気に病んでいる様だったが、その度に私の必死の説明? 説得によって、体調も少しずつであるが、回復してきてる。本当に良かった!
ドアがノックされ、かちゃりと、優しくドアが開く。
「おかあしゃま……」
とても可愛らしい声が私のベッドの下から聞こえる。私のお兄様であるリヒトだ。
お兄様の顔立ちこそお父様に似ていてキリリとしているが、髪の色も目の色もお母様譲りの色で、本当に可愛らしいの。
2歳なのにイヤイヤ期は無いのか、言葉こそ舌足らずだが、とても落ち着いて騒いだりなんかしない。
周りをよく見ていて、決して我儘を言わないし、空気の読める子だ。私が半端者である事も理解しているらしく精神年齢はかなり上の様だ。そして私にはあまり興味はないのか、近づかない。
まぁ、そうだよね。私は半端者だし、お兄様の役にたつことは出来ない。
寧ろ足を引っ張ってしまう存在かもしれないのだ。視界にも入れたくないのかも……。
お母様に用事がある時のみ部屋に訪問し、用事が終わるとすぐに退室してしまう。少しぶっきらぼうであるが、仕事をしてる時のお父様みたいだ。合理主義とも言える。2歳にして次期後継らしい立ち振る舞いである。
アーレン王国では実力による1代限りの爵位と、代々の業績によって、受け継がれる爵位がある。お父様の血筋は代々続いているルクセル侯爵で、お母様の実家のガードナー侯爵家も由緒ある血筋。
両親はどちらも高位魔法使いのランクで、かなり王位魔法使いに近いらしい。若い頃は王太子様と王太子妃様と共に数々の業績をあげたのだとか。
いやはやすごい家にきてしまいました……。
くすん。私は前世の頃から目立つのは大の苦手、コミニケーション能力もなく、よく貧乏くじを引いていた。
勉強は出来てはいたがほんとそれだけ。私は何かを成し遂げることも、責任を持つことも大の苦手だ。
小心者でビクビクして、いつも心配ばかりして、そのせいか真面目だねとよく言われてたが、ただ手の抜き方がわからなかっただけ。
私だって手を抜きたい。楽したい。けど、心配性で何度も見直すくらい小心者だし、不器用だから時間もかかるし……だから時間も足りないし、周りがそれを許さなくて、自分のキャパを超える仕事を押し付けられたりして……それ以上に心配で几帳面になって、それが夢にも現れて……。はぁ……。
今日のお兄様は普段と違いお母様の所に行くとギュッと抱きついた。
なんだかんだ、お兄様もまだまだ甘えたい年頃だもんね。赤ちゃん返りしたり、イヤイヤになったりせず、ギュッと何も言わずに、抱きつくなんて、なんていじらしい子だ。
それをみると胸を鷲掴みされた様に痛む。
基本的にフィリアはかなりの人見知りのため、目を合わすのは苦手です。ただ自分のせいで人が傷ついたりするのを見て見ぬ振りをする様な人物でもありません。基本お人好しの方だと思います。
主人公は実は脳内?本質?では結構、天然でオタク?でテンション高めの子なのですが、前世の環境から、アウトプットがとても苦手な子です。なので前世では周りから見ると人見知りで何を考えてるかわからない、暗い子、真面目等のイメージをもたれています。
次回、悲しい話になりますが、最後は救われます。




