目を合わせるということ 前半
少し短いです。
「よし! 今から第一訓練場へ行くぞ!!
ついてこい!!」
ニコニコ笑顔のグレゴリーさんはガタッと椅子が鳴るくらい勢いよく立ち上がり、ドアへと向かう。
「えっ? 今からですか?」
グレゴリーさんは今からピクニックでも行く様な弾んだ声で、私に声をかけスキップし出しそうな勢いで歩き出した。
私の話は聞いちゃいないみたい。グレゴリーさんの後ろ姿には、尻尾が生えていて、ぶんぶん左右に振っている様に見える。
私よりも前世も含めても、年上なのに何だか子供みたいな人だな。
男の人は、大人になっても少年の様な心を持っていると聞いた事があるけれど、あながち間違いないかもしれないな。
グレゴリーさんの部屋の扉と私の部屋の扉は隣同士なので扉を開けるとすぐに合流できる。
何だか大変な事になってしまった気もするが、子供の様なグレゴリーさんを見ていると不思議と私も明るい気持ちになった。まぁとても不安ですが……?反省したと言うし、昨日の様なことは起こらない……よね??
第一訓練場は昨日訪れた体育館の様な所だった。
前を歩いていたグレゴリーさんがくるりと回転して私を見る。不思議なもので、昨日ほどグレゴリーさんが怖くない……けれど、やっぱり人の目を見るのは苦手だ……。私はスッと目を逸らす。
「……昨日も思ったが、その目を逸らしてしまうのは、無意識か?」
グレゴリーさんは昨日の様な恫喝紛いな詰問ではなく、労わる様な口調で話してくれてる。一応、気を遣ってくれてるみたいだ。
「癖の様なもので、反射的にしてしまう事が多いです。不快ですよね……すみません」
わたしの目を反射的に逸らすのは今に始まった事ではない。周りに失礼だと言うのは重々承知だけれど、どうしても直せなかった。相手が不快だとわかっている分、余計に自分の情け無さで、更に落ち込む。
「反射的……ね。フィリアの年でその様な事が起こるとなると……両親か? 確か、ファドマ侯爵とシャーロット夫人だったな」
「違います!! お父様とお母様は関係ありません!!」
私は、目線を上げグレゴリーさんを見た。
グレゴリーさんと視線が交わる。グレゴリーさんはスッと目を細めた。
「そうか……では兄弟か? フィリア以外に確か兄と弟がいたか?」
「お兄様もカイも関係ありません!!
これは私の個人的な問題で家族は関係ありません。
その様な考えはやめて下さい」
私が人と目を合わせられないのは前世のせいであって、今世の家族は皆、私を尊重し、思い遣ってくれてる。
そんな人達を悪く言われるのは我慢ならない。
私は語気を強めて、睨みつけ、反論した。
「そうか……まぁ家族は皆忙しいだろうからな。現在と未来を担う人達だからな。
では使用人か? 子ども……半端者だから、舐められているのか……?」
グレゴリーさんは私の目を見ながら更に質問してくる。ちょっとバカにした様な姿は癪に触る。なんだが私の目を見てそれが真実か見極めようとしていて、探る様なのは正直言って不快だ。
今世の私は本当に恵まれていると思っている。私自身がどう誤解されようとも自業自得だが、侯爵家の皆が悪く言われるのだけは許容できない。
「それも全くございません。
私は侯爵家にてとても大切にされています。
これ以上、変な想像は止めてください。不愉快です!」
今日は私をワザと怒らせようとしてるのかもしれない。
グレゴリーさんの意図は掴めないが、私が語気を更に強めて言うと、グレゴリーさんは、何故かニヤリと笑い、話を始めた。
昨日の顔も怖かったですが、今日の顔もいやらしくて、恐怖を感じますよ。グレゴリーさん!!




