半端者の私
ふわりと意識が浮上する。目を開けたはずなのに周りは何も見えない。
(ここは……どこ?)
なんだか思考が曖昧だ……今まで何してたんだっけ?
今度は耳を傾けてみる。
切羽詰まった声が聞こえる。水中で音を拾うような感覚があり、私は何かにぷかぷか浮かんでいるようだ。
別の言語なのになぜか聞き取れた。
「ローザ! ローザ! しっかりして! 大丈夫、今私が魔力を分けるから!」
「ダメよ。アリシア。あたなも今、妊娠中なのよ? これ以上分け与えれば、お腹の子も貴方も無事じゃすまないわ」
どうやら、緊急事態らしい。
周りの声を総合的に判断すると、私は今アリシアと呼ばれる人のお腹に宿った子みたいだ。ローザと呼ばれる方も妊娠しており、今危険な状態らしい。
しかも、この世界では魔力というものが存在していて、妊娠中の母親の命を脅かしているようだった。
うーん? これは所謂、私が好きだった小説の異世界転生というやつね……。
つまり前世の私は死んだということ??
その思考に行き着いた私はサーっと血の気が引いた。
前世の私は、まぁまぁ勉強出来てた。
まぁまぁ勉強出来ていれば、結構いい大学に入る事が出来た。裕福な家庭ではなかったので親は働いてほしかったみたいだが、奨学金を借りながらの大学生活送った。
結構な貧乏生活で、勉強ばかりの生活だったけど私にとっては充実した日々だった。
国家資格もとって就職も楽々! だったけど、就職後はそうもいかず、それでも奨学金の為にがむしゃらに働いた。
返済大変だったな。とほほ。
ほとんど無駄遣いせず、奨学金を繰上げ返済して、それで……。
あぁ、そうだった……。
私は何てことをしてしまったのだろう。
なんてひどいことを。
なんて半端な……。
ごめんなさい。
前世の私はどうなってしまったのか。やはり死んでしまったのだろうか。
これが、ただの夢であって欲しいと思うが、どうやらこれが今の私の現実みたいだ。
「大丈夫、お腹の子は本当にいい子なの。だからまだ私は余裕があるのよ」
アリシアはそう言うと体の中の魔力をローザに分け与えているようだ。私の周りにあった何か温かい物がスーッと引っ張られていく感覚を覚える。
なるほど。
これが魔力というものなのね。その感覚を自分の中にも探してみる。
ほうほう。私にも魔力があるらしい。
なら……。自分の中にあった魔力をアリシアの魔力の流れに乗せた。体から力が抜けるような感覚に陥るが、なんせ羊水にぷかぷか浮いているだけだ。何とかなるだろ。
前世では何もかも中途半端なまま、生を終わらせてしまった。今世では、同じ過ちを繰り返さないように、ひっそり生きよう。その為には魔力は邪魔になりそうな気がする。異世界転生系ではよくテンプレで魔力が多いと、ヒロイン的な存在になるかもしれないし? ラノベの読みすぎかな?
私がヒロインだったら、笑っちゃう。
というか、全力で逃げる。私にヒロインなんて向いてない。
悪役令嬢なら尚更無理だ。いじめられる側にしかなった事がない。
まぁどちらにせよ、どんな物語の世界なのか、わからないけど誰かの為になるなら本望だ。私は魔力を流し続け、いつの間にか意識を手放していた。
◇◇◇
なんやかんやあったが、私は無事? 魔力がほとんど無い状態で生まれた。ちょっと体はだるい様な気もするけど、赤ちゃんだし? 私はしてやったりと思っていたが、これはこれで周りは大騒ぎ。
どうやら私は高位貴族の生まれらしく、本来ならかなりの魔力持ちとして生を受けるはずだったらしい。
「測定結果はオーディナリーです。」
水晶を手にした若そうな女性神官が、何度も測定し直している。しかし、結果は勿論同じ。神官の顔色は悪く、どこかに連絡しているようだった。
母のアリシアも出産直後の青い顔が、更に青くなり今にも失神しそうだった。
母は、わぁ、綺麗!! と思う様な、海のようにキラキラ輝く水色の髪に黄金の目をしたとても可愛らしい女性だった。出産直後で少し窶れているため、更に儚げで守ってあげたくなる様なタイプだ。
私も、もしかして美人かも?? と思いつつ、前世は父似で、残念だった私を思い出す……。まぁ、そこは別にいいや。オシャレとか苦手だし。
慌ただしく治療が開始されている。オーディナリーってなんだろ? お母さん……お母様には悪い事しちゃったなぁ。と思ったが後の祭り。まあ、魔法が使えなくても私はひっそりと生きるつもりだったから、それでも良いと思っていた。
私はフィリアと名付けられ、それはそれは大切に扱われた。どうやら私の母が助けていたローザさん……ローザ様は、どうやら王子妃様だったらしく、王宮から使いがやってきて、何やら色々治療? のようなものをされた。その甲斐あって、多少? 魔力が回復したらしいが、高位貴族には程遠いらしい。
うむうむ、確かに体が楽になった?? 魔力って、栄養剤的なものなのかなぁ?
「今の段階ではこれが限界ですね。今はレベル12、半端者です。」
連絡を受けて治療にあたっていた上質の神官服を身につけた年配の方がとても残念そうに言っていた。
うーん? レベル12? それはどれくらいのレベル? なんか周りの反応が微妙だ。