同類 sideレルート
重要人物が来るという講習の初日が来た。
彼女がどんな人物かよく見たいと思う反面、あまり見ると勘付かれる可能性もある。意識し過ぎないように意識した。
俺の理不尽な試験合図に、周りは憤慨していたのにも特に反応はなく、始終真剣に取り組んでいた。
自分だけ試験内容が違うのも分からずに、最後まで真剣に試験を受けていたのは、どのように判断して良いのかわからなかった。
あれが演技なら相当な手練れか?
それとも諜報員ではない? ただの間抜けか? 天然か?
いや、そう見せることが作戦かと堂々巡りをしていた。
重要人物として師匠より資料をもらっていた女性は、18歳で、名前はフィリアと言う。
茶色い髪に茶色い目をしているが、見た目はそのままでないと思った方がいい。
あのピアスは、髪と目を変える魔道具だ。
背丈は女性の平均よりは低め、どこか気弱そうな感じはする。
休憩中も、派手な奴に絡まれてはいたが、特に周りと仲良くする訳でもなく、静かに過ごしていた。ここでは、大人しくしているみたいだ。
他の受験者たちは、試験範囲は変えず、問題を変えて3回した平均を出した。
フィリアの試験のみ一限目を皆と同じ試験、後の2つは、どれほどこの国の情報を知っているのかの確認だ。
諜報員ならワザと間違える可能性もある。だが、サティカから得られる血圧や心拍数等の情報と照らし合わせると、ある程度心理状態が分かるので、偽証の有無はわかる。
彼女の試験とサティカの結果を見ると、偽証解答は見受けられない。どう考えても魔道具に関係ない設問があったにも関わらず、真面目に答えている。馬鹿正直なやつか?
ちょっとオジサンは心配になるぞ。
この回答を信じると、どうやら彼女は法改正されたことを事前に知らなかったようだ。
この地区の内情にも、あまり詳しくはないらしい。
一つ気になったのは、一般常識がかけている部分がある。
良いところのお嬢様なのか? それともどこかに閉じ込められていた奴隷から諜報員になったのか。知識の偏りが凄かった。
特にここ3年の市井の情報に疎い。
それ以前は、少し知っている程度で、それにも偏りがある。
アーレン王国でも、流行っていた観劇の諺や、言い回し、流行りの魔道具も知らないのだ。
たとえ、裕福ではなく、買えなくても、見聞きはするはずなのにそれを知らないとなると、少なくとも3年、市井とは切り離された生活を送っていたのだろう。
ますます分らない。どんな状況だ?
監禁されていたのか?
ただ、午後からのテキスト学習を見ていると、フィリアの見方が変わる。
フィリアのテキストには、5級全てのテキストを入れておいた。20教室でこれなら、この20倍あると錯覚させ、その膨大な量にドロップアウトさせようという魂胆だ。
だが上手くいかなかった。
フィリアがテキストを開いた時の項目数を見て青ざめていたのはわかったが、すぐに気を取り直し、テキストを読み始めている。
そして読み始めると凄い集中力で読破していった。
あの集中力は賞賛にあたいする。
そして速読をしていると思ったら、物凄くゆっくりになる場面がある。その時に、チラリと様子を伺ったが、宝物を探し当てたようにキラキラ目を輝かせ読み耽っている。
テキスト自体は、かなり苦労して俺が作ったものだ。
最低限、魔道具に関わる人たちには知っていてほしい事柄が記されている。
最初に作ったテキストは活字ばかりで、他の先輩からダメ出しをくらい、言葉でわかりづらいものは動画にしたり、知識を深めるための本編には関係ないミニ知識など、結構工夫したのだ。
テキストを作り始めると中々面白く、のめり込むと、結構凝った作りになり、「そこまでしなくても良かったのに……」と、周りからドン引きされたのは、俺の悪い癖だなと思いながらも、細かい部分まで、完璧に仕上げた。
寧ろこれを使って5級魔道具作成免許取れないなら、本当に諦めろと言うしか、考えられないくらい完成されたテキストだ。
出来上がったテキストを見て、これはもしかしたら魔道具作成免許5級のドロップアウト率が減るかと焦ったが、ドロップ率は当初の予定通り上がった。
「5級にしては厳し過ぎますよ……」
と言う意見もあったが、法改正で現場の負担改善をうたっているのなら、これくらいの知識は必要だと、俺は思う。
話は戻るが、目をキラキラさせながらテキストを見るフィリアを見てあー。コイツは俺と同じだなと思ってしまった。
何という魔道具オタク感。自分の興味のあるものにはとことん突き進み、後は特に興味がない……。
そして興味を引いている部分は、俺が好きな分野だ。
量子分野と呼ばれるナノ単位の目に見えない粒子の挙動とそれによる物質の変化だ。
問題の回答は、記号から選ぶものが多いが記述式もある。
記述式の回答をみると、なかなか面白い発想がある。
4級魔道具作成免許が取れるくらいの知識を持ち合わせれば、更に面白そうな議論が出来そうだ。
うん。俺と同じ分野に興味のある奴に悪いやつはいない。
……そうであってほしい。
そうであってくれ。
大体、何時間も魔道具のテキストを目を輝かせながら、周りに一切気を配らず読み耽る輩に、間者が務まるのか?
いや務まらない。
と言うか早くコイツが、既存の知識を吸収して、未知の分野の議論をしてみたい。
俺はコイツを信用する事にした。
と言う事で、早く知識をつけてほしいが故に、当初は、教室内のみにしようとしていた閲覧制限を午後11時までにした。
テキストを楽しそうに読んでいるフィリアを見て、俺としてはテキストを作ったのは俺だと自慢したかったし、ニヤケそうになるのを何とか誤魔化して、教官としての立場を通す。
『対等な立場になれるよう、早く階段を登ってこい!!』
退出するフィリアの後ろ姿を眺めながら、そう願わずにはいられなかった。
かなり誤解されていたフィリアでした。
小心者フィリアが諜報員として務まるはずがないですね。
半端者居住区に関しては、半端者を保護する為に、アーレン王国以外では、情報規制がされていて、ごく一部の人しか知りません。
一般的にはアーレン王国は魔法使いしか暮らせない国だと思われています。
量子分野は、この世界での架空の分野です。
現実世界とは異なります。
レルートは、完全に研究>監視です。
自分にも他人にも厳しい、ストイック研究者です。




