契約
「フィリアったら! ミィって呼んで良いよ! ふふふ!
けどぉ〜? チビスケはどうしよっかなぁ。
チビスケなんか私にえらそうだしぃ〜?」
翼をバサバサさせながら、前に腕を組んでぷーっと頬を膨らませている。ちょっと可愛い。
「ええっと、ルイスさんここは大人になりましょう……?」
(まだ、子供だけど……。)
精霊の機嫌を、損ねるのは今はダメだ。私は何とか契約成立させたい。ここは大人になって! と祈る気持ちで言ってみた。
ルイスは一瞬イラっとした顔をしたけれど(こっこわいです泣)、どこから持ち出したのか高位貴族に見られるアルカイックスマイルでこう告げた。
「これは精霊様、失礼を致しました。
どうかこの若輩者にお慈悲を与え下さい」
そう言ってルイスは綺麗なお辞儀をした。さっきと全然違うので別人かと思った。あっ目の色は綺麗なエメラルドグリーンだった、顔立ちも整っており、どこかの高位貴族見える。絶対そうだ!! テンプレだ!! え? じゃぁ何でここにいるの? 違うのかな?
「ふむふむ。それで良いのじゃ!! ちこーよれっ!」
ミィさんはとても満足そうに首肯を何度も繰り返し、手招きした。
ええっと何かを真似たのかしら……? どこの時代の方なのかしら……? 反応に困る……。けどまぁ、ミィさんが満足してよかった。私達は言われた通りに2人とも近寄った。
ミィさんは翼をバサっとさせて私に近づくと私のおでこにキスをした。その途端、体から力が一気に抜けて、膝をつく。
「おい! 大丈夫か!?」
「えぇ、ちょっと気が抜けただけです」
少し脱力感はあるがそれだけだ。私の前にあった試練の扉は跡形もなく無くなっていた。これで魔力は落ち着いたのだろう。安堵の気持ちもあり私はそのまま座り込んだ。
「も〜うるさいな〜!! 大丈夫だってば! これで契約は成立ね。はい! あんたはこれねっ!」
「いってぇ!!」
ミィさんはルイスの前に行くとおでこを手で思い切り叩いていた。小さい体にそんな力があるのかと思うくらい。バチンと音が鳴る。
「チビスケなんだからこれで充分! はいっ! おしまい!
じゃぁ、まったねぇ〜!!」
ミィさんは、あっという間に消えた。すごい嵐が去った気分だ。
………………。
ルイスの体に今の所、何の反応もない。
「えぇっと、ルイスさんは体はどうですか?」
「……あっああ……。大丈夫……。……ありがとう」
ルイスは胸に手を当ててなにやらしているようだが、集中から一転、お礼を言われた。
それもとても穏やかな笑みを浮かべて……。
役に立ったのだろうか……??
私はてっきりさっきのような体から光が溢れるような事がルイスにも起こるのかと思っていたがそうでもないらしい。
…………ミィさん………そんなに沢山お駄賃を取ったの??
私自身を鑑定してみた。レベルは14に上がっていた。
自分自身への鑑定は最低、朝晩とお祈り前後の4回以上は毎日おこなっている日課だ。なんなら、そこら中のものを鑑定していた時もあった。鑑定のレベルも結構上がってきてる! 1度ハマると、とことんやるのが私の良いところです! えっへん!
今朝はレベル13で、お祈り前も13だった。さっきまでのは鑑定してないけど、試練が起こったのだからレベル20以上な筈。だからまだ、良いのか? ……あれ? これで良いのかな?
「えぇっとフィリアさんは大丈夫なのか…?」
さっきまであんなに乱暴な言葉だったのに、ミィさんの事があって、ルイスも戸惑っている様子だ。私も地が出てしまったので今更取り繕っても仕方ないだろう。何だが今も興奮中だし、なんか普通に話せてる。不思議だ。
「フィリアで良いですよ。特に異常はない様ですので大丈夫です」
自分で自分を鑑定してみたが今はどこにも不調はない様でよかった。
鑑定のしすぎで、最近はバイタルサインまできっちりわかる様になってきた。ってかこんなに細かな数値よく出せると思う。一通りの血液検査、スキャンまで出る様になった時はチートだと思った。前世は医療関係に勤めていた事もあり、多少は医療の知識も心得ている。検査数値はもちろん、心電図も一通り習ってあるからとても役に立つ。
魔力の流れや、魔力溜まりなども血液や血管と似ていてわかりやすい。魔力の流れも鑑定で出来るからめちゃ便利だ。
「じゃあ、俺もルイスで、敬称はいらないよ」
ルイスはふっと笑った。今までにない笑みに年齢らしさを感じる。
「そういう訳にはいきません。ルイス王子。……すみません。手違いでルイス王子の事も鑑定をしてしまいました。」
そう言ってフィリアは立ち上がり、頭を下げる。
鑑定はとても便利……ただ、魔力が上がったせいか、人が近くにいる時に鑑定した事が無かったからか、コントロールが上手くいかずに、近くにいたルイスまで鑑定してしまった様で、悪いことをしてしまった……。
そしてわかってしまった。彼がルイス=アーレンであり、この国の王太子の第2子であることを。レベルなんて勿論、半端者じゃない、もちろん王位魔法使いだった。私が鑑定した時はレベル51だった。もしかしたら、さっきの事が起こる前はレベル50だったのかもしれない。
確かにレベル50は王位魔法使いであり、結界の維持管理が出来るが、レベル50ではそれ以外の魔法が使う余裕がないのだ。
つまり結界を維持管理している間は無防備になる。
今は平和なアーレン国だが、平和ボケして、この平和の尊さを知らない人達が増えて来た。
一部の高位魔法使いが、今度は我々が世界を支配するのだと言う過激派も最近いるみたいだ。なので結界の維持管理中に無防備なるのはさけたいのだろう。
過激派の人達にとっては王族は目の上のたん瘤なのかもしれない。
今の国王は穏健派だ。勇者アーレンが作り上げたこの国の平和を1番に考えて行動している。私もそれで良いと思う。
平和が1番良い。戦争は一部の人にしか利益を与えない。
憎しみばかりが増えていくだけだ。どんどん心が荒んでいくのだ。何もいい事はない。ふぅ……。
そういえば、王位魔法使いがレベルを上げるのと、半端者がレベル上げるのとでは、魔力の必要量に雲泥の差がある。
それに、半端者じゃないのであれば、試練の扉が開かないのも納得だ。ミィさん疑ってごめんよ!
いいえ、ミィは結構なお駄賃を貰ってます。笑




