ホログラム
「お母様とお父様……?」
ホログラムに映る人物が振り返る。その人達はお母様とお父様に似ていた。きっと若かりし頃の両親はこんな感じなのだろうと思う。
お母様は、今は魔力授受の研究者だけれど、昔は『神の御使い』で外国を渡っていた。お父様は今でも『神の御使い』である。
映し出されているホログラムは、この地区の津波を2人が鎮める様子が映し出されている。
このようなホログラムを投影してくれているのは、感謝の表れだったり、本来なら災害になる筈だった事を風化させない為だろう。この地域の人達が両親に感謝しているのは感じられた。
改めて両親の偉大さに感嘆してする。
それとお母様の若い頃の姿を見て、はやり……と思った事がある。
「ふふふ。そうなるよね〜」
バネッサの声に視線を向けると、なんとも言えない表情のバネッサがいた。
ずっとバネッサには、なんとも言えない既視感があった。
それが今になってようやく気がついた。
私がどのように切り出したら良いのか迷っていたら、バネッサも私が何を言いたいのかわかったのか、徐に髪を本来の色に戻し、ホログラムと並ぶように立つ。
「やっぱり似てる〜?
私としては、髪色以外は似てるところ無いと思うのよね〜。
実際に髪色を変えたら、知ってる人以外は誰も気づかないし?」
バネッサはそう言いながらホログラムの真似をする。
確かに全くお母様と同じなのは髪色だけだ。ただ、ホログラムの隣に立つとその対比が見えてくる。
髪の長さ、目の色、一つ一つのパーツは違うけれど、髪色は勿論の事、笑顔や雰囲気、仕草も似ているのだ。
「とても……似ています」
最初に会った時の既視感から、きっと親族の誰かなのでは無いか? とは考えていたけれど、若い頃のお母様にここまで似てくると話は変わってくる。
バネッサの表情から見ても、単なる親族ではなくもっと近しい間柄なのだろう。
どうやら両親に聞かされていない複雑な過去がありそうだ。
「ふふふ。
まぁ、ちょっと事情があるんだけど、それは本人に話してもらいましょう? 細かい話は、家に着いてからにしましょうね?」
バネッサは私に手を差し出した。
これは転移の合図だ。周りを見渡すと確かに誰もいなかった。髪色を変えた時点で、バネッサの魔力が広がるように感じたから、何かしら魔法がかかっているかもしれない。
転移は目立つと言っていたが良いのだろうか?
そうは思いつつも、ここに来て間もない私には判断がつかなかった。長年住んでいるバネッサが良いと言うのだから良いのだろう。
バネッサがここに連れて来て、私にこれを見せたのは遅かれ早かれ、ここで暮らすには向き合わないといけない事情だからだ。私はバネッサの手を握った。
◇◇◇
転移した場所は、見晴らしのいい丘だった。
先ほど見た海岸や住宅街が、遠くの眼下に見える。丘には様々な植物が区画ごとに植えられていて、振り返れば少し距離のあるところにポツンと一軒の長屋があった。
近づくと結構大きくて、3階建ての前世の校舎のような建物だ。
バネッサは勝手知ったる様にバンと中央扉を開ける。
玄関の広いホールに、腕を組みウロウロしながら落ち着きのない壮年の男性がいた。
ぱっと見は、ワンコを思わせるイケメンだ。フワユルのダークブラウンの髪はトイプードルを思い出す。眼は柔らかな翠色で、バネッサと同じだ。バネッサの個々のパーツはこの人から受け継いだのだろう。
かなり若く見えるが、直感でこの人がバネッサのお父さんなんだろうなと思った。魔道具師の研究者らしく白衣を来ていて、様になっているが目に出来たクマとおどおど落ち着きのない所が、オタク感を出していた。
「帰ったわよ〜!!」
バネッサの声に、壮年の男性はギョッとして、バネッサをみた。その後、私に視線が動く。
その目は何故か見開き驚いていて、そのまま固まってしまう。
なんだろう。この既視感。
正確な話は聞いていないが、多分私と彼は血は繋がっていない筈なのに、何処か繋がりのある感じ。
オタクっぽいのと、おどおどしてる所も、私と同じ?
自分よりもテンパってる人を見ると、自身は落ち着くものだ。物凄く見られているのでとりあえず自己紹介をしてみる。
「初めまして、フィリアと申します。
これからお世話になります。よろしくお願いします」
私は丁寧に頭を下げた。




