……試練?
私はなるべく目線を下げ(あっちは見てないけど)、なるべく彼と遠い位置に膝をついた。
膝をついた時、この距離はちょっと失礼だったかもと、今更ながら思ったが、今から場所を移動するのもおかしい気がして、ビクビクしながら祈り始めた。
私と同じくらいの年頃で祈願してるってことは私と同じくらいレベルが低いのかな……? それにしては何というか、オーラが凄いけど……? でも、真剣さは伝わってくる。遊びに来てる訳では無さそうだ。こんな真剣に祈ってる隣で私が違う事を祈るのも違う気がして、私はこう願った。
(……どうか、彼のレベルが上がります様に。)
『漸く祈りましたか……しかし他の人の事とは……うーん……もう他人の事ばかりは聞き飽きましたねぇ。貴方に魔力を渡すから後は勝手になさい!』
急に頭の中に爽やかな青年の声が聞こえてきた。それと同時に身体中が沸騰した様に熱くなり始める……!?
目を開けると体の中心が光っていた。かなり眩しい!!
その光が前に伸び私の身長より少し大きいサイズの光の扉を形取る。
隣の彼も異常事態に気付いた様で、驚いて固まっている。
「なっ! どうして! 大丈夫かお前! それは試練への扉だ! まぁよかったな! 祈りに来てるくらいだから、対応も心構えも大丈夫だろっ」
冷静さを取り戻した彼が説明してくれる。
……なぬぅーーー!! 試練ですとー!!!!
「こっ……困りますー!無理ーー!!」
いきなりこんなにレベルが上がるなんて聞いてない!! 私は半泣きで叫んでいた。
「はぁ? 何言ってんだ。なんのためにここに来てたんだよ!!」
そう言いながらも、何とかしようと、彼は私に手を伸ばしてくれる。私の手を触れた途端に……。
「はぁい! 呼ばれて飛び出てきましたぁ! ミィです!!」
…………なんか掌サイズの変なのが姿を現した。
別に呼んでません…。
「あー!! 今いらないと思ってるでしょ!! ひど〜い!!」
……えっ? 顔に出てた……?
「私は、とぉーっても優秀なんだけどなぁー!今のこの状況を何とか出来るかもよ〜?」
「えっ!? 何とか出来るの? お願い!!」
テンパってる私はとにかくどうにかして欲しくてお願いしてみた。
「おっおい!! 良いのかよ!! 精霊だぞ!?」
オレンジ頭の男の子が、冷静に止めに入る。
そういえば書庫に精霊の絵があったなぁ。精霊は確か……身長が大人の掌くらいの大きさで、もこもこの翼が生えてて、髪や目の色は淡色が多いんだったっけ?
確かに目の前にいるは精霊の特徴そのままだ。薄い水色の髪と目をした、大人の手のひらサイズの身長で、ふさふさの触り心地の良さそうな翼がある。
この世界の精霊はとても自由な子達だ。気分屋だったり人見知りの子たちが多い。
基本的にあまり人前には出ないし、今回のように力を貸してくれる事もない。
契約したら、いつでも意思疎通は可能になるが、呼び掛けに答えてくれるとは限らない。
精霊との契約中は常に魔力を契約に応じて一定量、取られ続けられる。
つまりレベルが減ることを意味する。あまりメリットはない事が多いので、精霊と契約してる人は殆どいない。
そもそも契約も基本的に精霊からの申し出じゃないと成立しない。成立する時は特に相手に魔力を奪うので注意が必要だ。
精霊の力も様々で、能力も強さも個体によって違うし、使役とは違うので扱いにくさもあり、周りで契約してる人を見た事がなかった。
「あー!! そんなこと言って良いのかなぁ。貴方にもメリットあるのにぃ!!」
「えっ? 俺にも」
「そうだよ! だってフィリアは魔力がいらない、チビスケは、魔力が欲しい。ほらっ! ぴったりじゃん!!」
「はぁ? 俺はチビスケじゃねーよ!! ルイスっていい名前あるんだよ!!」
どうやら彼はルイスというらしい。
「だ〜か〜ら〜!! 私がチビスケに魔力を移してあげるっ! 勿論お駄賃貰うけどね〜っ!!」
お駄賃とは魔力の事かな……?
えぇっとつまり私は半端者でいたい。彼は半端者でいたくない。私の魔力を彼に与えれば万事うまく行く……? いい考えかも!!
「よっ……よろしくお願いします!!」
「おい! 良いのかよ!!」
ルイスは驚愕の目で私をみて来た。
いやだってさ、今はそれしか方法がないんじゃない? とりあえず今回はミィさんにお願いして、次回から対策を考えなければ……!
今は考えてる時間などないのだ!!
「私は問題ないです……貴方は?」
「いや……本当にいいのかよ…? こんなチャンスもうないのに……」
ルイスは困惑していた。そりゃそうだよね。何のためにここにいるのって話だし……?
「全く問題ありません!」
私は半端者でいたいのです!
食い気味に言い返した私に少し驚きながらもルイスは、決心した様に言った。
「そっ……そうなのか? 俺は遠慮なんかしないぞ? 俺は強くなりたいんだ!!」
「えぇ、とても素晴らしい事だと思います。試練頑張ってください! ……という事で精霊様お願い出来ますか?」
フィリアはテンパりすぎて、脳内の自分が外に出ています。
常に下を向いてオドオドしてた姿は今はないです。
本人は気づいてません。




