01_夕日の中の幼馴染
「響〜」
放課後の部活動を終えた生徒たちが校門へむかい、夕日で照らされた赤とオレンジのグランド。衣替えの季節がやってきて、この時間帯になると肌寒い風が足早に通り過ぎる。
滴る汗を腕のリストバンドで拭い、その声がする方を振り返った。そこには、綺麗に手入れされているロングの髪をひとつにまとめ、夕日のせいか赤い頬をして微笑む彼女。手にはタオルをもっていて、響とよばれた彼にそっと差し出している。
「サンキュ」
彼も迷うことなくそのタオルを受け取り、汗を拭った。優しい瞳を彼女にむけていて、映画かドラマのワンシーンの様に。砂埃がキラキラして、背景の夕日が美しくて、グランドに散らばるボールがゆらっと揺れて。
ああ、二人はお似合いだ…なんて前から知っていたこと。スカートの裾をぎゅっと掴んだ。一気に空が落ちて、あたりが暗くなっていく様な気がした。
⸺主人公は私じゃない、私は主人公にはなれない。
だって、彼と彼女の物語はもっと昔からはじまっているのだから。私は名もない生徒C。違う、生徒Cにもなれていないのかもしれない。私に入る隙なんてない。
帰ろう⸺。
「でね。鈴華がさ………」
楽しそうな会話を聞きたくなくて、歩くスピードを早めた。今すぐここから逃げ出したい、ただそれだけだった。恋なんて…したくなかった。こんな気持ちになるのなら、恋なんてしたくなかったのに。
その日の夜は少し泣いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝の生徒で賑わう下駄箱で、私はローファーをしまいため息と一緒に扉を閉めた。
私は、畑木楓莉。この高校に入学して1年7ヶ月がたって、生活も勉強も部活動も友人関係もそれなりに順調だった。
1年生の夏休みに友達の影響…すすめで真っ黒だった髪をほんの少し明るくして軽くパーマをあて、メイクの方法を少し変えた。せっかく人よりたくさん勉強して校則の緩い高校に入学できたんだから、いっぱい好きなことしないともったいない!と友達は言った。それもそうだと思って、短期アルバイトでお金をためて、普段行かない美容室を探した。想像したより良い出来で、鏡の中の自分をしばらくボケーっと眺めていた事は内緒。今ではその美容室にも月1で通っている。
少し可愛くなれたって思って、なんて自意識過剰なんだ。
高校に入ってはじめて気になった彼はサッカー部のルーキーで、無口で無愛想で……後輩だった。
昨日は部活帰りにグランドをみると後輩の⸺佐藤響が1人で自主練をしていたから。頑張って声かけてみようと思って近づこうとした。
でも、あまり近づかないで良かった……。
「ふ〜う〜、おっはよー!…………げっ」
「みゆ…おはよ。何それ」
「何って、目が真っ赤だよ…何かあった?」
明るくメッシュの入った髪に濃いめのメイク、いわゆるギャルのこの子は仲山みゆ。入学したあの日、知り合いが一人もいない私に一番最初に声をかけてくれたのがみゆだった。
「コンタクトつけっぱなして寝ちゃってー」
慌てて誤魔化した私に
「ほんと?…それならいいけど…。いや、よくないよ。コンタクトつけっぱなしは危ないよ。目に傷はいってない?痛くない?」
って心配してくれた。
この高校は中学からエスカレーター式であがってくる生徒が大半で、外部からの受験生は1~2割程。若干人見知りの私は、誰にも話しかけることが出来ずに、どうしようとオロオロしていた。
「ね、外部の子?」と今もかわらない笑顔で話しかけてくれた。それから仲良くなるのに時間はかからなかった。みゆは誰とでも上手に話をするから、一緒にいた私もクラスにすぐに馴染む事ができた。
今では学校以外でも一緒にいる事も多いし、お泊りもするし、家族公認の親友って関係。私に対して少し過保護なところがあって、自分を犠牲にしてでも守る!って言うから嬉しいんだけど少し困ってる。
みゆには佐藤響が気になってる事はまだ言えてない。
それは、佐藤響にはこんな噂があるから⸺。
『サッカー部のルーキーは、学校一の美人である幼馴染と付き合っている』