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夏の一夜

作者: 白鷺雪華

7月7日 七夕

女は庭の縁側に腰掛けてうちわで風を受けていた。


空を見上げて満足そうに大きくうなずく。

「うんうん! 雨も降ってないし、雲もない。最高の夜空だね!」

空に手を伸ばしてさらに続ける。

「あれがこと座のベガ。あれがわし座のアルタイル。そしてはくちょう座のデネブ。」

「夏の大三角形。今年も見事に輝いているね!」

夏の大三角形の輝きに見惚れながらも女の言葉は止まらない。

「それにしても、悲恋だねー。大三角を形作る星座なのに織姫と彦星が年に一回、今日にしか会えないなんて」

「もし今日に会えてるならなにを話してるんだろう?ご飯食べてるのかな?もしかしてお酒飲んでたり……フフ」

そんな想像を膨らませながら女はくすりと笑い、うちわを置いた。

そしてなぜか針と糸を手にした。

針を夜空に向けながら、女は幼い頃の自分と母との会話を思い返した。


「ねぇ、おかあさん。なんで空見ながら針に糸を通してるの?」

少女が母に聞いた。

「今日は七夕でしょう? 月明かりで針に糸を通せればお裁縫が上手になるって言い伝えがあるの」

母が糸を通した針を置いて答える。

「へぇ! そんなのあるんだ!」

七夕といえば願い事を書いて笹に吊るすくらいしか知らない少女は驚く。

「そうなの。昔昔中国から入ってきた話みたいなの。いろいろ変わってるかもしれないけどね」

「ねぇ! あたしもお裁縫上手になれるかな!」

少女が身を乗り出しながら聞く。

「そうねぇ。 毎年欠かさず糸を通していれば上手になれるかもね」

母は娘の頭をなでながら優しく答える。


女は夜空に向けた針の穴に狙いを定めて、震える指先で持つ糸に神経を集中させる。

最初は上手く出来なかったが、毎年欠かさず行っているので今では通せるようになった。

「やった!」と糸を通した針を見て声を上げる。

そして女は何かを作りはじめた。

実は毎年少しずつあるものを作っていたのである。


あれから数年後……

母となった女は娘に七夕について話している。

かつて自分の母がしてくれたように、娘の頭を優しくなでながら……


女の部屋にはぬいぐるみが3つ飾られていた。

それは、琴·鷲·白鳥の夏の大三角形を形作る星座たちだった。


そしてそう遠くない未来……

この家に新しい夏の大三角形が光輝くこととなる……

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