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宵闇に灯火の唄を  作者: 野木 千里
第二章
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94話

 ヒジャウは世話焼きの女を呼んだ。彼女もやはり男とも女とも見分けられない容姿と声をしている。

『我は行くぞ。次の神嫁を明日の朝指名するゆえ、準備しておけ。駄目になったものは中央大陸へ行かせてやれ。あそこであれば本人も自由に過ごせるだろう』

『ヒジャウ様はまだお元気そうです』

『嫌なら指名はよしてみるか。それも一つの手だ』

『それだけは! それだけはどうか……』

 女はヒジャウに縋りついた。それを撫でてやる手つきはまるで母のようだ。

『我は最後の仕事をしに東へ行く。しばらくすれば船が来るだろうよ。船に我が乗っていれば交渉決裂。今まで通りの連絡船のみを受け入れ、今まで通りせよ。だが、我が乗っておらず、この巻物が届けられれば、交渉は成立だ。獣人族の船が来たら受け入れてやれ』

『人間は……?』

『知らん。そんなこと自分たちで話し合って決めろ』

 ヒジャウは最後の大仕事をしているようだった。

 ふと、自分に縋りつかなかった母のことをソラは思い出していた。自分が会いに行った時、父の墓標に縋って泣いていた母の姿。自分の居場所を涙で埋め尽くして、帰るところをなくされた気分だった。せっかく戻ったのに父ばかりに話しかけて、ソラを無視したように思った。だが彼女はソラが行くと言えば惜しみ、結婚式には来ると言ってくれた。一度もケビールに対して何も言わなかったし、ソラたちが自分で結婚式の準備をしていると言えばそれ以上は言及しなかった。

 彼女はソラが来ることを事前に聞かされていた。きっと到着するまでの間、随分考えたことだったろう。

 もし、母がソラが生きているということを灯に日々を送っていたとしたら。きっとソラは村に戻りたいと思ったに違いない。もし、そんな母がすぐにカプラに戻ってほしいと泣いて頼んだら、きっと今頃王太子の檻に戻っていたに違いない。それを彼女はしなかった。何も言わなかった。十年の時を経て、ソラが何を求めるのかもう分からなくなっていたから。

『新しい神嫁は当分使い物にならん。そんな時に決めたことなど滅茶苦茶になると相場が決まっておる。お前たちの方が長く生きて色々見てきているだろう? 神嫁が立派に育つまでは自分たちで話し合って決めろ。そのほうがゆくゆく楽かもしれん』

 ヒジャウはそう言って彼女を引き離した。きっともう、随分と彼女たちと交流することも少なくなっていたのだろう。ヒジャウは一瞬自信なさげに瞳を揺らしたが、それ以上気取らせるようなことはしなかった。

 翌朝、ヒジャウは竜人族の娘を二人選び、その二人が神嫁になるための試練を受けることになった。調査団は試練が始まる前に出航したのでその全貌を見ることはかなわなかった。

その後、三日三晩島の一帯は雷が降り注いだという。多くの人魚が様子を見に上がり、雷に打たれて死んだ。その後しばらくして全ての大陸で人魚が観測され、人間たちはこぞってこう言ったという。「新しい時代がやってくる。我々の王に祝福を授けにやってきたに違いない」と。実際彼らが何のためにそうしたのかは誰も知らずにいる。ただ、その年の冬はやたらと海難事故が多かった。

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