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宵闇に灯火の唄を  作者: 野木 千里
第二章
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56話

 四人は話し合いをするべく、男の知り合いが所有しているという建物の応接室に案内された。どうやら男はそれなりの地位についているようで、部屋に入ってすぐにお茶と茶菓子が提供される。香りの良い茶にソラは顔をほころばせたが、狼人と呼ばれる耳と尻尾の生えた子供は居心地が悪そうに部屋の隅でうずくまっているだけだ。

「さて、まずは自己紹介といきましょうか。私はジャン・メフシィと言いまして、ミガルティへは仕事で来ました」

「俺はアブヤドのケビール。こっちは婚約者のソラです。領主様のところで下働きさせてもらってます」

 メフシィとケビールは、軽く握手をして挨拶をした。ソラはうずくまったままの子供が気になって、声をかける。

『あなたのお名前は?』

 一応北大陸の言葉で話しかけてみるが、返事はない。どうやら言葉が分からないらしい。メフシィが子供に話しかけ、小さな声で返事があった。

「……アレキサンドラ」

「アレキサンドラさん」

「サーシャ」

 透き通るような声で名を告げられて子供の性別は分かったが、その後続く外国語は聞き覚えのないものでソラは困惑した。

 彼女の言葉の意図が分からずメフシィを見上げると、彼が再び通訳をしてくれる。何語か交わした後、メフシィはくつくつとおかしそうに笑いながらソラにこう教えてくれた。

「本名はアレキサンドラ。でもあなたはサーシャと呼んで良いと言っています。自分もソラと呼んで良いか、と聞いていますよ。声をかけてくれたことを、心から感謝すると」

 本当にただ声をかけて事を大きくしてしまっただけに過ぎないことに感謝され、むずがゆいようなもどかしいような気持にさせられる。だが、彼女は一連の流れをしっかりと見ていた。そのうえで愛称を呼んで良いと言ってくれているのだから、ありがたい申し出には間違いなかった。

 ソラは手を伸ばして彼女に握手を求めた。涼しげな海の色の瞳が嬉しそうに細められる。指先が柔らかく、不思議な感触だ。

「メフシィさん、本当にありがとうございます。事を収めるためとはいえこの子を買い上げてくださって」

「これであなたに恩が売れるのであれば安いものです。誘拐されてきたのであれば故郷に返してやりますし、そうでなければ私の商会のほうで面倒を見ましょう。狼人は力が強いので商会にはもってこい。いい買い物をしました」

 どこまで人が良いのか、メフシィは機嫌が良さそうだ。サーシャにも笑顔で言葉をかけてやっている。

「そうだ、先ほどの奴隷商人があなたにまた危害を加えてはいけない。お二人の雇い主であるムルシド殿下に謁見できるといいのだけれど……」

 なるほど、彼はこれが狙いだったらしい。ムルシドとの繋がりを作る機会は喉から手がでるほど欲しいだろう。ソラやケビールにその権限はないが、助けてもらった手前、確認だけでもしたい。

「お約束はできませんが、お願いだけでしたら」

「そのことならご安心を」

 不安に眉尻を下げるソラに、メフシィは自信たっぷりにこう言った。

「違法の奴隷商人を一斉検挙できる情報を我がメフシィ商会は握っています。こう殿下にお伝えください」


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