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宵闇に灯火の唄を  作者: 野木 千里
第二章
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ユルク独白2

 まさか二人共失うことになるなんて。

 僕は執務室で頭を抱えていた。やるべきことはいくらでもある。停戦処理、兵士の捜索の取りまとめ、ラヒムの代わりの副官探し。

 僕は父上に提出する戦乙女の資料の最終確認をしていた。

 あの恐るべき妖力が一体何故暴走状態に入ったのか。それを判断するには僕達には情報がなさすぎる。早速ミガルティ帝国で領主をしている従兄のムルシド皇子に手紙を出した。ムルシド皇子は鳥人について詳しかったはずだ。ただ、早文でも返事が帰ってくるのは三ヶ月後といったところだろう。

 ソラは僕やラヒムを恨んだり憎んだりしていたわけじゃない。僕の王道を願ってくれているから当然最後は帰ってくるだろうという驕りがあった。鷹は主人の戦に同行する、勝利を司る神と同一視される仕事だ。いるといないとでは僕の気持ちも随分違ってくる。だから彼女が敵軍として出兵してきたときは驚いたものだ。

 ソラもラヒムも、もっと早くに手放してやるべきだった。ソラを保護区に返すのはきっと難しかっただろうけれど、ミガルティで自由民の登録さえしてやれば何とでもなっただろう。ラヒムに至っては任を解いてあげるだけで良かった。そのどちらもしなかったのは、僕が二人を手放したくないと思っていたからだ。

 僕がこれだという副官に出会うまで、国を代表する六つの家、すなわち六家ろっかから副官として選出される者は、三年で任期を終える。どこの家の者からも不平が出ないようにと考えたことだ。一人目は年のいった人で、副官というよりは執務の練習をさせてくれる、先生のような人だった。二人目は仕事に関しては不満はなかった。ただ、ソラの教育方針が合わなかったのでやはり三年で任期を終了しようとは思っていた。その前にソラに毒を盛り処刑となったけれど。

 そして三人目がラヒムだ。当時十二の彼に僕は多くを期待しなかった。大人の男を怖がるソラと、サグエルの跡取り息子という高い身分を考えると、あの組み合わせしかなかっただけだ。それでもラヒムが来てくれてからの三年弱、本当に僕達は幸せだった。まるで友人が来てくれたかのような気安さで、あたかも熟練の副官が来てくれたかのような仕事の細やかさに、僕は彼がサグエルの跡取りでなければと何度も考えた。

 それは父上も同じだったようで、ラヒムにはソラとの結婚が立ち消えになった後三年の契約延長のための根回しをしてくれた。

 その結果がこれだ。

 あれだけ尽くしてくれたラヒムを失った。

 僕の王道を願ってくれたはずのソラが、目の前で精霊降ろしをした。

 どうすれば精霊降ろしをしてしまうのか、元雨乞乙女でも知らなかった。だけど彼女のそれはラヒムの死が引き金になっていたことは間違いない。

 血涙を流しながら、吐血しながら「自分なんかのこと」と言ったソラが頭から離れない。あの時サグエル領主邸で嗅いだ香油の臭いを思い出す言葉だ。

 幸せになるために出ていったのではなかったのか。自分の気持に折り合いをつけるために保護区にいたのではないのか。

 聞きたいことは山程あった。だがそれももう聞けない。

 僕は、大切にすると決めた女の子の呪いを最後まで解くことができなかった。この先どれだけ素晴らしい政策を打ち出そうとも、どれほど国民に称賛されようとも、それだけは生涯消えない僕の失敗になる。

 だがこれを僕の人生最後の失敗にしよう。二度と道を踏み誤らないよう生きよう。

 それが二人に対する手向けと感謝になる。一人きりで座る冷たい玉座が、生涯僕の気持ちを戒めてくれる。

 僕はふと浮かんだ涙を飲み込んだ。王太子にそれは必要のないものだからだ。

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