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宵闇に灯火の唄を  作者: 野木 千里
第二章
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38話

 村に戻った二人の最初の仕事は、打って変わって幸せなものだった。

 ソラの友人のナダの、待ちに待った結婚式の日。儀式を終えて晴れて夫婦となった二人に、皆が一輪ずつ花を渡すことになっている。そのための花を買いに市場に行く。本来であれば二人には山のように仕事があったはずなのだが、それらは免除されていた。色とりどりの花を籠に山盛り四杯。大量に購入したからだろう、小さな花束をオマケしてもらった。婆様がそれはもらっておきな、と言ってくれたが、村の予算で購入したもののオマケだ。還元するべきだろうと考え、ナダとイスハークが座る席に飾っておく。

「族長会議に出たって本当? 大丈夫だった?」

 着飾ったウルファが声をかけてくれる。

 内容は追って族長から皆に報せがいくことがあるかもしれない。少なくとも、友人の結婚式で話すような内容ではないことはソラにも分かった。

「はい、大丈夫でしたよ」

「本当に本当? なにかひどいこととか言われなかった?」

「小娘と呼ばれましたよ。でもそれだけです」

 ソラはいつも彼女たちがするように、笑いながら肩を竦める。これであきれた様子を示すそうだ。

 心配そうな顔をしているウルファの首から、大きな鱗の首飾りがかけられている。ソラが鳥人族の村へ向かってその足で族長会議に出席した七日の間に、婚約者ができたのだろうか。首飾りを見られていることに気が付いて、ウルファが照れ笑いをする。

「ウルファ、先にこの首飾りの話をしないと! ずっとずっと大切な話ですよ!」

 その言葉にウルファが顔を赤くして笑うばかりで教えてくれない。今まで浮いた話がなかったのだ、きっと紹介された人と劇的な恋に落ちたに違いない。そうなると、ソラとウルファを見ている女の子たちの目的も、ソラと同じものだろう。

「そんなことより、もうナダが出てくるから」

 ウルファがそういって儀式用の小屋を指さすので皆が一斉にそちらを見る。目隠し用の布が引き上げられて、中からナダが出てくる。

 幸せそうな顔をしている。早く結婚したくてたまらない、といつも言っていた。念願叶った彼女の頬は高揚感から紅潮しており、喜びに涙のにじんだ目には真珠が湛えられているようだ。ずっと縫い続けていた花嫁衣裳は赤花藻を意識しているのか、白地に赤の刺繍が眩しい。羨望の眼差しを受けるにふさわしい姿をしている。

 普段の快活で楽しいナダの姿ではなかったが、見たこともないほど魅力的なものだ。

 あんなに幸せそうで、羨ましい。

 あれだけ好きになれる人と結婚したい。

 私ももっと花嫁衣裳頑張って縫おうかな。

 そんな小さな話し声すら、二人の門出を祝う音楽のように心地の良いざわめきとなっている。美しい花嫁と並んで歩く花婿は、誇らしげに胸を張っている。

 口々におめでとう、と祝いの言葉をかけながら村人たちが花を二人に渡していく。

「ナダ、おめでとう」

「ウルファも婚約おめでとう! 後で詳しく聞かせてね!」

「おめでとうございます、ナダ」

「ソラ! アンタも話聞かせてよね!」

 話好きなナダのことだ、これから始まる宴会を待っていたに違いない。

 ソラをウルファは顔を見合わせて笑った。二人から花を受け取ってくれたナダは、次から次へと祝いの言葉を投げかけられ、また次から次へと皆と話す約束を取り付けていく。自分たちの仕事を終えた女の子たちが、ちらちらと二人を見ている。

 申し訳ない気持ちになって、ソラは身を縮こまらせる。ケビールが女の子たちから人気なことは、赤花祭の時によく理解したつもりだ。彼に恋い焦がれていた者は今の状況があまり面白く感じないだろうと予測がついた。

「まぁ、ケビールさんは正直それなりにかっこいいよ」

 ソラの考えていることが分かったのか、ウルファは果実水を盃に注ぎながら言った。

「でも人のものになった男の人なんて興味ないから! 正直二人のなれそめとか聞いて騒ぎたいだけだから!」

 ウルファの言葉を確認したくて周囲を見渡すと、女の子たちはそうだよ、と言いたげに頷いている。彼女たちの顔を見てソラは思わず笑ってしまった。仲の良い友人が少ないのは自分のせいだったのだろう。自分から話しかけず、いつまでも馴染む努力をせず、仕事だけ淡々としていた。

 今まで一度だって女の子たちに針仕事を一緒にしようと誘ったことがあっただろうか。おやつをもらったから一緒に食べようと話しかけたことがあっただろうか。

「……ナダが花嫁のお仕事をしている間に皆さんとお話しできればと」

 緊張して早口の小声になったソラの背を、ウルファが叩いた。

「もう、ソラかたいよ! 戸棚に忘れた麺麭みたい! もう私たち友達なんだから」

 ウルファの持っている果実水が、実は果実酒なのではと疑って盃を覗き込むが、中身は果実水だった。普段とあまりにも人が違いすぎる。ソラはウルファの正気を疑いながらも、言われた通りに努力してみることにした。

「その、ナダが来るまでの間、皆でお話し……したいです」

 まだいくらか固い話し方ではあったが、幾分話し方から棘を抜くことに成功したソラを見て、ウルファは満足そうに笑う。周りの女の子たちも、ソラが意図して高飛車な話し方をしていたわけではないと知って、安心したように笑っていた。

 もっと早くにこうすればよかった。

 何度も何度もそんなことを考えながら、年の近い女の子と対等な関係でいられることが嬉しくて、ソラは頬が緩むのを止められなかった。その姿は、一通りの花嫁の仕事が終わって家から出てきたナダが「私の知らない間に何があったの?」とウルファに詰め寄るほどだった。

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