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宵闇に灯火の唄を  作者: 野木 千里
第二章
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37話

 国に戻った二人は、事の次第を報告するべく国営族長が開催する族長会議に参加することとなった。

「『鷹』はアブヤドの族長の息子の婚約者になったのか。随分唐突な話だな」

「元より獣人族同士交流があったのだ、雨乞乙女として協力することは歓迎しよう」

「あの目つきの悪い男、まだ国王の腰巾着をしとるのか。忌々しい」

「問題は見つかった場合だな。おめおめ娘を手放すわけにはいかん」

「元『鷹』の雨乞乙女か。誘拐の元の目的から疑わねばならん状況だな」

 国営族長たちが難しい顔を突き合わせて話す様子を、ケビールは固唾を呑んで見守っていた。ソラも女性ではあるが、成人しており当事者ということもあって、族長立ち合いの元会談の参加が認められた。しかし、国の行く末について話し合われるような場に初めて参加する二人は黙り込んだままであった。ちらりとケビールが隣を見ると、婚約者は背筋を伸ばして族長たちの話を聞いている。

「……見つかった場合、『保護されていた』という名目で前の主人の元へ戻るのが最も無難な方法だとは存じております」

 会談が紛糾する中、ソラが突如口を開いた。

 聞きようによっては気取ったように聞こえる話し方だが、本人にはまるでそのつもりはないというのだから驚きだ。王太子の奴隷をしていた時に、主要な言葉はそれなりに話せるように訓練されたという。しかし王宮で習った、王族を相手にするための話し方だ。そのため自分たちが普段話している言葉とは少し違うように聞こえるのも仕方ないことだろう。

「ですが、できれば戻りたくないと思っております。なにか手立てはございますか」

 村ではいつだって言葉の一つ一つが浮いていた。そこだけ切り取られたような、不思議な雰囲気も纏っているからだろうか。ケビールはソラの話す言葉が好きで、また少しだけ壁を感じて寂しくも思っていた。

 それが族長会議という場においても当然のように存在感を発揮する。なるほど、王太子は正しく彼女を『鷹』として教育していたのだとケビールは理解させられた。それと同時に、ソラが鷹とはいえ奴隷として扱われていたことに憤りを感じた。

「戻る必要はない」

 最も老齢の族長がそう言った。

「そもそも攫われて奴隷となっていたのを返さなかった王室に問題がある。逃げも隠れもせんで良い。お前さんは不幸にもカプラにしばらく滞在していただけだ。あの憎たらしい男に出会ったら胸を張って言うが良い。『自分はセメクの人間だ。連れ戻すというのなら族長が黙っていない』とな」

「戦争の火種にはなりたくありません!」

「もう我々はそこまで行っとる。少なくとも小娘一人が原因ではない。思い上がるな」

 族長に気圧されてソラは言い返すことをやめた。座っているだけなのに迫力が他の族長とはまるで違う。会議の最終決定権は彼が握っているのだろうと何も知らないケビールでも分かる。それでも怯えて震えるわけではなく、ソラは深く彼に礼をした。

 もう『鷹』ではないのに。

 気丈に振る舞うソラが哀れになって、ケビールは彼女を見守る。

「お気遣いありがとうございます」

 もう男たちに混ざったりせず、家で花嫁衣裳を縫って、心穏やかに過ごしても良いのに。

 震える睫毛と張り上げられた声が噛み合わないのが痛々しい。今まで一度だってこんな場に来たことはないだろうに。美しい細工の柵に囲まれて、幸せなだけの九年を過ごしてきたことがいっそ残酷に思えた。

「もう行って良いぞ。ご苦労だった」

 ソラが深く礼をしたのに気が付いて、ケビールも慌ててそれに倣う。隣では父親も礼をして、二人に構わず退室していった。ソラの顔色が悪い。気遣ってやらねば。ケビールは彼女の背を支えて抱えるようにして退室する。

「……切っ掛けを待っていたんでしょうね」

 血の気を失った唇で、彼女はそう呟いた。

 その言葉になんと返すべきだろうか。いくら悩んだところで答えなど出ないことは、ケビール自身よく理解している。

「何とか手を考えよう。少なくともソラちゃんが言い訳に使われないようにさ」

 父親が国営族長にならなかった理由が、彼には良く分かった。父も母を口説き落とすのに長い時間をかけたという。鱗を三回掛け損ね、蓮の下に泳いでいったところを逃げられ、とうとう隣村の全員が見ている中、足元に縋りついて求婚したという。そんなやっと結婚してもらえた相手を連れてくるには、精神的負担が大きすぎると判断したのだろう。

 自分だってできればそうしたい気持ちを抑え込んで婚約者をここに連れてきた。そして、やはりそうするべきではなかったと、当分気に病むことだろう。



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