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宵闇に灯火の唄を  作者: 野木 千里
第二章
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34話

「分かりました、了承します。回数は出来るだけ多くを望まれると思いますが、そちらの国王のこともありますからあまり期待しないでください。……ソラ、結婚式はお母さんにも顔を出してもらおう」

 そう言ってくれる婚約者の顔が見たいのに、彼は村長の方を向いたままソラには目もくれない。ただ、しっかりとした作りの耳飾りがかけられた耳たぶが淡く染まっているだけだ。

 母に会える。夫と娘を同じ時期に亡くしたようなものだ、想像を絶する苦痛だったことだろう。ソラも母に会いたくて何度も泣いた。また会えるというのなら、多少の苦労は惜しまないつもりだ。

「それで十分です。ありがとうございます。ともあれ、ソラさんの素質が見たい。ケビールくん、一度二人で村まで来てもらえるか。そうだな、あと十日後くらいはどうだろう」

「分かりました。族長、事後報告になりますがいいですか」

 次々に約束が取り付けられていく。手を引いても服を引いても、彼はちらりとも振り返らない。ソラに何も言わせないつもりか、彼は話がまとまった途端にソラの手を掴んで家の外に連れ出した。誰も何も言わない。

 家々の間を走るように駆け抜け、雑木林の近くまで連れて来られる。皆、成人の儀式の日が近づいてきて忙しいらしい。簡単な挨拶だけして自分の作業に戻っていく。蓮の上で女の子たちが色とりどりの花嫁衣裳を手掛けている。本来であればソラもその中に混じって作業をしなければならないのだが、当分混ざれそうもない。

「……ごめん、勝手に返事して」

 ようやく自分にかけられる声に安心して、ソラはほっと一息ついた。自分に対して怒っていたわけではなさそうだ。

「驚きました」

 ケビールはソラを見て表情を和らげた。

「ねぇ、ソラちゃん。君はもう絶対にウチの大事なお嫁さんになってもらうから。君の家族は俺たちだからね。ちゃんと覚えててね」

 その言葉の充足感はすさまじいものだった。この人の隣にいて良いのだとソラに確信させる安心感があった。ケビールは川で遊ぶ子どもたちを眺めながらぽつりと言った。

「多分鳥人族の目的は、ソラちゃんの雨乞の力じゃないよ。これは俺の勘だけど」

「私もそれについては同感です。今代の国王陛下はどちらかというと鳥人族に自治を求めるような方ですからね。その恩恵を、一年の雨の代わりに蹴るというのはあまりにも無策です。私が数度通ったところで解決するのであれば、国王陛下の名のもとに治水をしてもらった方が幾分良いでしょうね」

 国王に居場所を知られたりしなければ、不利益を被る可能性もないわけだが。ミガルティ国内にある同種族の村との力関係などが関係しているのであれば、村長たちの話を聞いて、村人の世間話等から判断せねばなるまい。

 建前上はソラを国王に突き出す気はないとのことだ。

 この乾季の間だけなら、たった数度だけなら断らないだろうという交渉の仕方だった。身に迫る危機感がないような。

「ところで、セメクは今もまだ鳥人族と協力関係にあるんですよね」

「そうだな、同じ獣人族だし。カプラに一矢報いたいって大人も少なくない」

 なぜ彼らがソラに協力を求めたのか。二人にはたちまち思い当たることはない。それよりもソラは自分の素質の方に不安がある。

「でも本当に私に雨乞乙女としての力なんてあるのでしょうか」

 むしろ今まで訓練らしい訓練をほとんどしてこなかったので、落ちこぼれではないだろうか。首を傾げるソラを、ケビールは信じられないものを見る目で見ている。

「自分の親がどんな人間か知らないのか!? カルハマンっていえば、先の戦争で英雄とまで言われた人だぞ! その娘であるソラちゃんの力が弱いわけないだろ? そもそもな……」

 どうやらソラの父親は有名人らしかった。戦争で英雄と言われようが結局負けたのでは、とは言えず、ソラは聞いたことのない視点から歴史の講義を受ける羽目になった。なおケビールはウルファほど教えるのが上手くなく、度々ソラと議論を巻き起こしたのは言うまでもない。

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