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宵闇に灯火の唄を  作者: 野木 千里
第二章
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19話

 昨夜から降った雨のおかげで、地面はしとどに濡れていた。乾季の終わりを告げるかのような雨に草木は潤い、喜ぶように雨露を含んだ葉先を太陽に向けて生き生きと伸ばしている。

「そろそろ休もうか」

 荷鳥にどりに荷物を乗せ歩いていた男が立ち止まった。昨夜盗賊が出たと聞き、朝早くから歩きづめだ。盗賊は馬に乗っていたと聞き、仲間たちと相談した結果、荷鳥を連れて出ることにした。荷鳥ならばいざという時飛んで逃げることができる。

 荷鳥たちは男たちの背丈ほど大きく、背には荷物でも人間でも乗せて飛ぶことができる。平地の多いカプラではあまり使うこともないが、これから向かうセメクは沼地も川も多いので、馬より荷鳥の方が使い勝手が良い。

「もう川を越えたから大丈夫だろう。こんなところで盗賊なんて出てみろ、喧嘩っ早い村の男連中が飛んでくるさ」

 男の言葉に仲間たちが顔を綻ばせる。ようやく緊張が解けたようだ。

「次の村で休ませてもらおうか」

「そうだな。本当に、あの国はいつになっても争いが絶えないな」

 革袋から水を飲んだ男はほっと息を吐く。鳥につつかれて餌をやる余裕もできた。

「鳥人問題に、そこから派生して人攫い。自然教の弾圧で出た盗賊や旅芸人のせいで治安が良くならないからな。前王の負債を全部背負い込んで現王は本物の馬鹿だぞ。嫁はミガルティの皇族だったんだからそっちへ逃げりゃ良かったのさ。俺ならそうする」

 そりゃお前はなぁと馬鹿にされて、男は顰め面をして煙草を齧る。そして、ふと叢に目をやり瞠目した。

「おい、人が倒れてるぞ!」

 その言葉にいち早く動いたのは、隊を率いていた行商隊長だ。彼は叢に倒れこんでいる人物に近づくと、しゃがれた声でおお、と声を漏らす。そして、そっと大切にその人物を抱え上げた。

 鳥人の子供だ。いや、正確に言うとほどけた髪に髪飾りが絡まっているので成人しているだろうが。まだ十五になるかならないかくらいの年齢だ。華奢な手足が外套から伸びている。顔は土で汚れてよくわからないが、柔らかそうで薄べったい手足を見るに美しい娘であることは間違いない。

「盗賊が襲ったっていう『金糸雀』じゃないか?」

「誰の持ち物だったか、返しに行きゃ報奨金が出るぞ」

 男たちがざわめくのを、老齢の隊長が制する。うっすらと目を開いて、『金糸雀』が朦朧と何かを繰り返している。

「……帰れません……どうか……」

 鈴の鳴るような声だ。

 わずかに開いた目の奥で、深い蜂蜜色の瞳がうるんでいる。それで男たちは察した。この『金糸雀』は昨晩のあの嵐のような雨の中を、故郷に帰れないことを承知で飛んだのだ。それが想像を絶する苦痛であろうことは、彼女の姿を見れば明らかだった。

「分かった。儂がなんとかしてやろう」

 隊長の声は震えていた。隊長の彼女を抱える手の水かきが、涙をこらえようと生唾を飲み込む首筋に浮かぶ鰓が、怒りで震えていた。

「あの国の人間は、こんな年端もいかぬ子どもまで『飼う』ようになったのか……」

 それは二十数年前、彼が隣国との戦争の第一線で戦ったが故の怒りなのか、それともまた違った怒りなのか、男たちには見分けがつかなかった。ただ老人の抱えている、可哀想なほど疲れ果てた女の子を哀れに思うばかりだ。

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