ユルク独白1
僕が手塩にかけて育てた鷹が、盗賊に襲われて行方不明となった。兵士はイーティバルや父上に怪しまれない数を出し、事態の沈静化も図った。捜索にもそれなりに手をかけ、国内の奴隷市場の一斉検挙、娼館や登録された金糸雀の確認、国外への捜索依頼も出したが、彼女の足取りは掴めなかった。
ソラが履いていた靴の片方以外、何一つ見つからなかった。
花嫁を連れ去られたラヒムには申し訳ないことをしたと思う。落ち込んだ様子のラヒムには数日の休暇を与えた。
それから最初の出仕の日。
「休暇をいただきましてありがとうございました、殿下」
「いや、ソラを見つけられなくて、力及ばずすまなかった。これだけ国内を探していないのだから、きっと国外に連れ出されたのだと思う」
僕の言葉にラヒムが頷く。
僕が持たせた路銀は金貨五枚分だ。鳥人族保護区へ行って戻ってくるだけならほとんど使わずに済むし、ミガルティから外国、それこそ別大陸へ渡るのであっても定期便に混ざれば問題ない金額だ。ソラのことだから道すがら刺繍細工でも売れば西大陸まででも行けるだろう。
「……もし無事に戻ってきたら、また彼女を妻にしてもらえるだろうか」
「それは」
「もちろん無理にとは言わないよ。だってもし、大きなお腹で帰ってきたとしたら、愛せというのは酷い話だから」
「よろしいんですか? 今回の件は、移動の手配をした私の手落ちです。てっきり沙汰が下るものだとばかり……」
盗賊のことを予期しなかったわけではない。だけど、今回に限っては致し方ないことだた。ソラが盗賊から上手く逃げおおせてくれていることを祈る。
ソラはサグエルへ向かう道すがらか、新婚旅行の最中にラヒムの手を借りて姿を眩ませるのだとばかり思っていた。だから今回のことが計画的なことなのかそれともただの不運なことなのかは分からない。ただ、盗賊が襲ったにしては随分と人数が多かった。首謀者は踊り子だったけれど、彼女とソラが話しているのを僕はついぞ見なかったし、兵隊長が見かけたときには既に誰かに殺されていた。大きな剣だったようだが未だに尋問の機会を失わせた犯人は分かっていない。
ただ、捕らえた盗賊によると「『金糸雀』を捕まえろと金を積まれた」という情報しか入ってこなかったので、もしかすると偶然だったのかもしれない。
「君以上にソラを大切にできる人を僕は知らないよ。君さえ嫌でなければ、無事戻った暁には晴れて夫婦となって欲しい」
「もちろんです。ありがとうございます、殿下」
僕達は顔を見合わせ手を握りあった。やはり戻った時には信頼できる相手に嫁がせてやりたいというのが親心だ。
真面目で僕を慕ってくれている彼女のことだ、結婚前に母親に会いたいと願ったか、それとも僕のために遊学に出たいと思ったかのどちらかだと思う。もしそうでなかった時は、それはあの子が僕の鷹としてではなく、ただの女の子として生きる道を選んだということだ。どこか僕に見つからないところで誰かに愛されて、何にも傷つけられることなく幸せに生きてほしい。連れ去られてから重ねられた辛い記憶を全て忘れられるほどに。
ソラはもう十分頑張ってくれた。僕も彼女が望むのであれば手放さなくてはいけないだろう。
「それから、申し訳ないんだけどもう三年は僕のところで働いてもらえないかな。妃の選考があまり進んでいなかったから」
「六年でなくてよろしいんですか?」
「それは流石にね。まぁ、随分派手に手を出してくれたみたいだから、戻ってきたら延長させてね」
僕の言葉を聞いてラヒムが顔を真っ赤に染める。どうやら僕の耳に入っていないと思っていたらしい。金糸雀の籠の中で手を出しておいて僕に気づかれずにいるなんて都合の良すぎる話、あり得ないけれど。
「随分入り浸っていたけれど、口づけ以外に手は出していないだろうね?」
「だ、出してません!」
「何に誓う?」
しばらくラヒムは考えて、真っ赤な顔のまま小さく口を開いた。
「……全能神と王太子殿下の御威光に誓いますよ」
その答えに満足して、僕はラヒムを自席につかせた。ラヒムは顔を赤くしたまま書類に向き合った。別に手を出してくれる分には構わない、僕が見込んだ男があの子が可愛くてちょっと手を出しただけだ。元より目を瞑るつもりだった。
もし、戻ってきてくれたらラヒムと二人いつまでも仲良くしてくれれば、それ以上何も望まない。そう思うほどに僕は彼女を大切に思っている。
僕は窓の外を見遣ってどこにいるのか分からないソラのことを考える。彼女の選択が少しでもあの子にとって有用なものであればいいのだが。




