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宵闇に灯火の唄を  作者: 野木 千里
第一章
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0-2話

 どれだけ心を折ろうとも、未だ背筋を伸ばして立っているあの女が憎い。

 我が息子の寵愛を裏切り、愛する我が国民を傷つけた憎き鳥が、おめおめと俺の国に戻ってきた。今すぐ切り捨てて殺してやりたい気持ちだ。

 息子があの娘を連れて来た時、二人はまだ五つだった。サグエル領主補佐が飼っていたという金糸雀の雛は、毛艶も悪ければ表情も暗く哀愁誘うものがあった。服装だけは整えられた娘が深々と礼をするのを見て俺は胸が痛んだものだ。

 この娘は生涯伴侶に恵まれること無く、息子の腕の中で死んでいく運命なのだと哀れんだ。

 それがたかとして正式に任命されることになり、ましてあのサグエルの大甥に嫁ぐことになったというのだから、俺は大いに笑って許した。息子があの一人きりの後宮でも正しく情を育んだのは、間違いなく娘の功績だった。息子が手近で一番良い相手を選んだのはあの娘のためだ。

 俺は長らく娘を寛容に見守った。

 息子とお茶の時間を過ごしていると聞いたときも、イーティバルが毒味を言いつけて殺されかけ、息子に心配をかけたときも、大熱を出して夜中部屋に見に行ってやったときも。

 それにも関わらず俺と息子の厚意を、娘は仇で返した。九年世話をしてやった恩を裏切ったのだ。

 自ら殺してやりたいと思った。戻ってきたと知って謁見室へ向かいその顔を見た時、思わず剣に手をかけた。だがそれを堪えた。もっと惨たらしく、心の底から泣き崩れ、殺してくれと俺に懇願し、自死を選びたいと娘が請い願う様を見たいほどに、俺は娘を憎んでいるからだ。

 そのためにはまず、本人が最も嫌がるだろうことをせねばなるまい。妖力を暴走させ、所詮お前は怪物であると思い知らせてやる。そして外で大切に育んできたであろうもの全ての無意味さを思い知らせねば。

 お前は無意味な殺しをする怪物だ、お前の積み重ねたつもりになったものは何もかも無意味であると。

 俺は娘が膝をつき泣く様子が見たかった。神々から見捨てられ、孤独な死を前に、人々から石を投げられ疎まれるものにさせる必要がある。

 そのための自然教教典の全編朗読だ。そのための精霊降せいれいおろしだ。

 力の強い鳥人族の女がこれを読めば、怪物が出来上がるという記録がある。人々を傷つけさせ、動揺したところを取り押さえ、目の前で仲間を殺してやる。そのための術師も用意した。そうして再び元の籠に戻してやれば良い。

 俺は娘が出ていってからの三年間、一度も許してやろうと思わなかった。俺の息子を傷つけたのだから当たり前だ。息子の涙一粒を、娘の絶望一つで許してやろうというのだ。我が息子はあの娘のためにどれほどの涙を流したことか。随分と自分も優しくなったものだと思う。

「神の御世に栄えあれ

 神の御世に栄えあれ」

 女が教典の朗読を始めた。辺りは暗く、灯りを灯さねば何も見えない。

 ひらり、と木の葉が揺れ動くのを見て俺は笑った。



 お前のために籠と死装束を残しておいてやっていたのだ。せいぜいこれからを夢見て胸を張っていろ。死を切望する壮絶さを手に入れれば、お前は完璧に美しくなる。

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