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宵闇に灯火の唄を  作者: 野木 千里
第二章
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95話

 久方ぶりのミガルティだ。

 久しぶりの喧騒に調査団は驚き、それから自分たちの姿を見合わせて苦笑いした。中央大海流から抜ける際、大時化に見舞われて全員海水まみれになったのだ。あまりに酷い時はソラが暴風雨を止めたが、そう何度も使っては力に呑まれるからとヒジャウに言われ、極力控えて利用していた。

 育ち盛りのサーシャは邯志ハーン・チィで購入した夏服の寸法では間に合わなくなり、ソラに服を分けてもらっている。まだたった十二歳とは思えないくらい背が伸びた。ソラも背が低いほうではない。出発前はソラの肩ほどまでしか背がなかったというのに、一年半でそれに追いついたのだ。服が何枚あっても足りないのは仕方がないことだった。

 ミガルティへは夏前に到着する予定だったのだが、すっかり一番暑い季節になってしまっていた。

 連絡を受けたムルシドから慰労会と報告会の報せが荷物を下ろしている間に届き、メフシィとヒジャウは迎賓館げいひんかん、それ以外は使用人棟を一旦の宿泊場所として提供された。

 一行が最初に案内されたのは部屋でもムルシドの御前でもなく、風呂だった。相当臭かったのだろう。何も頼んでいないというのに石鹸まで置かれており、今まで来ていた服は目の前で塵箱ごみばこ行きとなった。女湯には一人ずつに垢すりと按摩師が付いていたが、男湯の方は悲惨だった。人数が多い彼らを確実に磨き上げるために集められた腕自慢の垢すり師と按摩師がそれぞれ七人、彼らを流れ作業のように磨き上げた。当然、メフシィには一人ずつついてそこだけ女湯のような好待遇だった。

「鱗が取れるかと思ったが、案外悪くなかったの! 我は気に入ったの!」

 多少ましにはなったが癖の強い言葉でヒジャウが風呂の感動を男性陣に伝えるが、疲れ切った彼らは何も聞いていなかった。彼女の後ろの二人がつやつやとして満足そうにしているので、彼らは自分たちとの待遇の違いに気が付いた。ソラに至ってはまたムルシドから贔屓されているのか茉莉花ジャスミンの香油まで支給されて鉤爪の手入れをしている。

 メフシィとソラ以外は着慣れない南東大陸式の正装の襟や袖を落ち着かなさそうに触っていた。ソラは数年ぶりに宝飾品まみれにされており、船で海水まみれになっていた仲間の女の子という印象から一転、触ってはいけない美しい何かに様変わりしていた。

「サーシャ、そんな風に首を動かしたら頭環サークレットが取れますよ」

「でも見たいの! 近すぎて何も見えないんだから」

 船員たちは彼女たちの日常会話から、恐らくその辺の有識者よりもずっと獣人族の生態に詳しくなっていた。例えば、寒くなるとヒジャウはひとところから動かなくなる、とか、夏の間はサーシャがいつも口を半開きにする、といった具合に。今もサーシャは口が半開きだ。

 今新しい情報を手に入れたファンが、手持ちの懐紙にまた情報を書き足す。この手のことは書いても書いても尽きなかった。正直なところ、調査期間の一年半というのはムルシドにとってどの程度有用なのかすら判断がつかない。それでも今まで書籍の取り寄せに限定していたのだ。実地の調査がどれほど大きなものなのかは、実際に現地へ行った調査団が一番よく知っているだろう。

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