017「仲間との約束」
「御苦労。さっ、座ってくれ」
「「はいっ!」」
ガイスト・レージーナ。この駐屯地の司令者でもある女の魔人に勧められてオレたちは椅子に腰掛けた。
感じの良い女性である。凛とした美しさがあり、しかしこれでここの責任者なのであるから強さと経験もあるのだろう。
「検査の結果がでました。いくつか分かったことがあるので伝えます」
場所はレージーナ司令の執務室でオレはこれで三度目、カイトは四度目の面談となる。検査とはこの場所に来たばかりに受けた、魔導士による透視検査であった。
「まずはエーバー・ルーカイト、あなたが仕える魔王は別の地域にいるわ」
「そうなんですか? ここに転生したのが俺一人なんでおかしいなって思ってたんですよ」
オレたちが産まれた魔物の種は、ありあまる魔王の魔力から産まれる。仕えるとはどの魔王から産まれたかを指すが、厳密に守らなければいけないなどの決まりはない。
「ロード・グラッツェル・ノルベルト様です。隣国だから近いわ。どうする? このままこちらにいてもいいけど、戻ってもいいわ」
「仲間がいるかもしれないし、戻ります」
「分かりました」
カイトは即決し、オレは少し寂しく思う。しかしかつての仲間の姿を追い求めるのはオレも同じだ。無理は言えない。
「次、スライム・フォルリッヒ。あなたは魔王ロード・レームブルック・イェルガー様から産まれました。ようこそ! 我らがイェルガーの軍団へ」
「はい、あの……、オレの仲間はまだ転生していませんか?」
「まだですね」
オレは面談のたびに聞いている質問を繰り返した。返答は今回も同じである。
「そうですか……」
「言っておくけど魔獣に転生したのなら、あのまま人間界に留まっているかもしれないの。仲間と会えない場合も多いのよ。それに前も言ったけど魔界転生をしない場合もあります」
「分かりました」
「仲間思いなのは大いに結構ですけどね」
「はい」
「続きがあります。フォルリッヒ、あなたはずいぶん特殊です」
「特殊?」
「ルドヴィン様が少し変わっている、と言っていたのはこれだったのですね……」
レージーナは書類を見ながら呟くようにいった。
「ルドヴィン様?」
「あなたを迎えに行った魔族の将軍です」
「将軍……」
さっきからオレは疑問と質問ばかりだ。ただ者ではないとは思っていたが、まさかそれ程の高位魔人だったとは――。
「私もあなたの記憶は見ました。特殊はあなたが仲間の魔物を喰らったことによる、記憶や能力の融合です。それから魔王軍のルドヴィン将軍です。たまたまこの駐屯地の視察に来ていて、変わった魔人が転生したと感じて出向いてくれたのです」
「ほえー、軍の将軍様だってよ! 凄い大物が迎えに来たんだな。俺はただの兵隊が来たけどな」
カイトは呆れたような驚くような顔で言う。驚いているのはオレの方だ。それより気になるのは融合の方だ。
「確かにオレは仲間を食いました。しかし記憶も能力も――」
「まだ体が慣れていないのよ。しばらくは観察が必用です。学院に申し送りましょう」
「学院?」
とまた質問である。
「さて、次の話に移りますが魔人に転生したあなたたちは、それぞれの王都で学院に通ってもらいます。この魔界のことや人間との戦いについて学ぶのです」
今までは魔王に刻まれた記録しか知識がなかったが、これからは積極的に情報を得ることができる。
「そうですか……」
検査の結果、その資格があると二人共に認められたのだ。喜ばしい話ではあるが、オレの心は今一つ晴れない。やはり、どうしても仲間の影を追い求めてしまう。
多くの魔人は、最初は学院ではなく、ここの駐屯地のような教育施設で過ごす。
「学院同士の交流もありますから、あなたたちの再会もそう遠い話ではありませんよ」
「よっしゃ! 次に会う時までフォルが驚くほど強くなってやるぜ」
カイトはそう言って拳を握って見せる。その言葉にオレは吹っ切れた。
「いや、驚かないよ。たぶんオレはそれ以上に強くなってる」
「ぬかせっ!」
オレも拳を握って互いに合せる。この駐屯地で兵たちがやっている、時々見掛ける光景であった。
「学院の課程が終わった後は我々と共に戦ってもいいですし、街や地方で働きながら暮らす選択もあります」
「俺は戦うぜ! なあ、フォル」
「もちろんだぜ! カイト」
レージーナ司令はオレたちを見て満足げに頷いた。
再会のその日まで少しでも成長する。そして強くなる。それが魔人になったオレたちに課せられた責務だ。