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015「魔界転生」

 真っ黒い闇の中で再び目覚めた。今まで感じたことのなかった、二つの目を開く感覚に戸惑う。新たに得た二つの水晶体を通して、黒一面が少しずつ外の風景となって見えてきた。

 魔界転生(まかいてんしょう)

 オレは新たな体で生まれ変わったのだ。自身の体、両手を見てから立ち上がる。そこは馴染みのある森の中だった。

「ここは……」

 しかしオレが以前暮していた場所ではない。だが記憶は知っているのだ。空は紫色で木も植物も見慣れない。しかし記憶が知っている風景であった。

「皆は?」

 周囲を見渡すが誰の気配も感じられなかった。ただ木々が風に揺られ、ざわめいているだけだ。オレはまた一人になってしまった。

 しかし、どちらに向かえば良いかは頭の中の記録が教えてくれる。まだ頭の中に霧がかかった感覚で、思考はぼんやりとしていた。

 あの戦いから、いったいどれ程の時がたったのだろうか? オレはただ本能の赴くままに森の中を歩く。二本の足で歩くなど初めての体験だ。以前はボヨンボヨンだったが、今ならテクテクテク――といった感じであろうか?


 しばらく歩いた先に一人の魔族が立っていた。その姿、衣装は高位の魔人を思わせる。

「裸のままではな……。受け取れ」

 その魔人が手で小さな光球を作ってこちらに飛ばす。こちらも手でそれを受け取ると光が弾けて広がり、オレの服となった。

「ふむ、武装魔法は使えるか。ついてこい……」

 言われるままにオレはその魔人を追った。時間と共にぼんやりとしていた意識も少しはっきりとしてきた。

 先の空間に幾何学の文様が現われて渦を巻く。転送回廊トランスファー・コリドーだ。

 そのねじ曲がった空間を抜けると竜魔獣が引く一台の竜車、そして魔人の竜騎兵二名が待機していた。

「王都に帰還するぞ。乗れ」

 オレは促されるままにその竜車に乗り込み、その魔人と対面で座る。

「いったい……」

「ん? まだ意識が混濁しているのだろう。完全復活にはしばし時間がかかる」

「オレは……」

魔界転生(まかいてんしょう)の兆候があり私が派遣されたのだよ。お前の記憶は複製させてもらった。この地は魔族の世界。もう安全だ」

「仲間は……」

 その一言を絞り出してオレは再び意識を失った。


  ◆


「しかし、いきなり魔人に転生(てんしょう)したなんて俺たちはツイてるぜ! なあ?」

「ああ……」

 食事の時間、隣の席で喜びを隠さないのはエーバー・ルーカイト。通称カイトだ。元は(エーバー)の魔物だった。オレより数日早く、近い場所に転生(てんしょう)したのだ。

 ここは王都の郊外にある魔王軍の駐屯地で、訓練もするが人間との戦いで負傷した魔人や魔獣を治療、療養する施設でもある。

 歴史を感じさせる大きな食堂では、肉体の一部が欠損したり顔に大きな傷があったりする魔人、そして明らかに新人と分かる魔人兵が食事をしていた。

 魔族は肉体再生能力があるので、この施設で特殊な魔法を使う魔人から治療を受けているそうだ。

「それにメシも美味いし本当にツイてる」

「まあな」

 ここはオレたちのように近くで転生(てんしょう)した者の一時収容施設にもなっていた。ツイてるのは食事や待遇の話ばかりではない。本来ならば魔物は魔獣、そして魔人に最終転生するのが通例なのだが、オレたち二人は一つ飛び越して魔人に生まれ変わったのだ。

「さあ、メシも食ったし外でお茶でも飲むか?」

「ああ、そうしよう」

 オレたちは食堂を出て廊下を歩く。

「フォル、気持ちは分かるけどさ。もう少し話をしてくれても良いんじゃないの?」

「分かってる」

「これだもんなあ!」

 そう言って呆れたように両手を広げた。オレがここに来て一週間になる。仲間を失い共に死んだオレたちは、最初は塞ぎ込んでいたがカイトは立ち直っていた。

 オレはと言えば自分一人だけ転生したのが許せないでいた。喰らったことが仲間の転生を阻害しているのだと聞かされたからだ。

 広い中庭には昼休憩でくつろぐ兵や負傷兵が大勢いる。オレたちは屋台でお茶をもらい、日除け下のテーブル席に座った。

 カイトは新人らしき女性兵士たちに手を振っている。一見して軽く見える行動は壮絶な戦いを経験した裏返しでもあった。

「昨日の話の続きを聞かせてくれ」

「ああ、あまり思い出したくはないけどなあ……」

 カイトはそう言って自身自分の死に様を語り始めた。暇つぶしと情報交換の為でもある。オレはもう全てを話していた。


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