表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

014「戦いの終り」

 初めて出会った仲間はリザーベルだ。いつも前向きで積極的な(ファルケ)の少女。

 そしていたち(ヴィーゼル)フロレーテを紹介された。冷静で知略家でいつも静かな闘志を燃やしていた。

 山から下りてきた(ハーゼ)、魔法を使うユーリアムが仲間に加わった。

 彼女たちがオレの中に取り込まれてくる。力が湧き上がる。

「人間どもめ~っ……」


 オレは森の奥へと進んだ。たった一匹になり人間を迎え撃つならば、見通しの悪い場所でと思ったからだ。

 平和、正義。これは戦いの最中人間たちから感じた思念だ。それが戦いの動機である。あいつらはオレが生き延びていると知っている。この一匹を追いかけて、かならずやって来るはずだ。

「ん?」

 オレは犬らしき気配を感じた。犬王部隊は全てが戦いに参加していたので、妙だと思いつつそちらへと向かう。


「なんてこった……」

 そこにいたのは多くの子犬と数頭の母犬だった。だから食料が不足してもこの地を離れなかった。無理をしてでも村を襲って食料を調達した。

 犬王たちは自分たちが逃げようとしていたのではない。この小さな家族を守る為に、自らがおとりとなって死んでいったのだ。

 この場に留まるわけにはいかなかった。

「ちくしょうっ! チクショウ、チクショウっ!!」

 この森を戦場にはできない。ならばと、オレは再び山岳部、川の上流を目指す。

 まだ取り込んだ仲間の魔法や記録は自らのものにはできていない。今持てる力で人間たちに一矢報いねばならない。


 川に出て待ち伏せする場所を探した。罠を張ってひたすら待つ。思えばこれが本来のオレの戦い方だった。

 人間の気配は四つ感じた。強力な力を隠そうともしていない。それは森に分散してオレを探し回った後、再び河原に出た。徐々に移動して来る。どうやらこちらを見つけたようだ。神出鬼没の移動魔法はもう使えないのだろう。とりあえず子犬たちが見つからなかったようでホッとする。

 敵の気配を探り情報を集める。そしてまたしても一瞬だけ人間たちの意識と繋がった。それは平和と正義。

「平和?」

 確かにオレたちは平和に暮らしていた。それを破ったのは村を襲った犬王たちだ。しかし、それは腹を空かせた家族を守る為だった。

「平和の敵?」

 そしてオレは人間を喰らった。それは魔物の本能であった。

「正義の為に……。セイギ? 正義――」

 正義とは何なんだ? 正義? 犬王たちと仲間を殺すのが正義だと? たった一人の人間の代償。その為に全ての魔物を殲滅する。それが正義? 

 ニワトリと牛の代わりに、かつて人間に協力していた野犬たちを(みなごろ)す。それが彼らの正義なのか? オレの記憶は答えてはくれなかった。

 魔族と人間の戦いの本質を、今ここに存在していた、ここで対峙している魔物と人間が再現している。

 だから戦う。オレたちは殺し合う。


「来たな……」

 急流の下、こちらから見えない場所に四人はやって来た。オレの仕掛けには気が付かずに。

 体を水に同化させ薄く広がる。目立たないように水をせき止めて溜め込む。

 人間たちが河原の斜面を登ってきて、先頭の金髪の頭が見えた。魔法使い(ウィザード)の女だ。

「見つけたわ。スライム……」

 そしてこちらの意図を察して目を見開く。だがもう遅い。

「行けーっ!!」

 オレは体で作った壁を決壊させた。大量の水流に同化して冒険者たちを飲み込む。互いに水の中ならばオレは有利に戦える。


 そして濁流の中、オレは飲み込まれた四人の冒険者たちと戦った。しかしオレは生き延びられなかった。仲間との約束も守れない魔物だった。

 四人は水中にあっても冷静であった。同時に魔法を行使して肥大化していたオレの成分を凝縮したのだ。そして空中に持ち上げた。

「魔のケダモノめっ!ぶち殺してやる……」

 オレにトドメを刺したのは魔法使い(ウィザード)の女であった。本来支援を行う魔法が常に前面に出て戦い、そして最後もこの女で終わる。仲間も納得ずくで、剣士(フェンサー)すらも支援に回っていたようだ。

「この女は……」

 魔導の杖から発した赤い光がオレの体組成分を焼いた。それは一日の終りを告げる太陽と同じ色だった。

 そして最後に見たその顔は、やはりどこかで見たような顔であった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ