014「戦いの終り」
初めて出会った仲間はリザーベルだ。いつも前向きで積極的な鷹の少女。
そしていたちフロレーテを紹介された。冷静で知略家でいつも静かな闘志を燃やしていた。
山から下りてきた兎、魔法を使うユーリアムが仲間に加わった。
彼女たちがオレの中に取り込まれてくる。力が湧き上がる。
「人間どもめ~っ……」
オレは森の奥へと進んだ。たった一匹になり人間を迎え撃つならば、見通しの悪い場所でと思ったからだ。
平和、正義。これは戦いの最中人間たちから感じた思念だ。それが戦いの動機である。あいつらはオレが生き延びていると知っている。この一匹を追いかけて、かならずやって来るはずだ。
「ん?」
オレは犬らしき気配を感じた。犬王部隊は全てが戦いに参加していたので、妙だと思いつつそちらへと向かう。
「なんてこった……」
そこにいたのは多くの子犬と数頭の母犬だった。だから食料が不足してもこの地を離れなかった。無理をしてでも村を襲って食料を調達した。
犬王たちは自分たちが逃げようとしていたのではない。この小さな家族を守る為に、自らがおとりとなって死んでいったのだ。
この場に留まるわけにはいかなかった。
「ちくしょうっ! チクショウ、チクショウっ!!」
この森を戦場にはできない。ならばと、オレは再び山岳部、川の上流を目指す。
まだ取り込んだ仲間の魔法や記録は自らのものにはできていない。今持てる力で人間たちに一矢報いねばならない。
川に出て待ち伏せする場所を探した。罠を張ってひたすら待つ。思えばこれが本来のオレの戦い方だった。
人間の気配は四つ感じた。強力な力を隠そうともしていない。それは森に分散してオレを探し回った後、再び河原に出た。徐々に移動して来る。どうやらこちらを見つけたようだ。神出鬼没の移動魔法はもう使えないのだろう。とりあえず子犬たちが見つからなかったようでホッとする。
敵の気配を探り情報を集める。そしてまたしても一瞬だけ人間たちの意識と繋がった。それは平和と正義。
「平和?」
確かにオレたちは平和に暮らしていた。それを破ったのは村を襲った犬王たちだ。しかし、それは腹を空かせた家族を守る為だった。
「平和の敵?」
そしてオレは人間を喰らった。それは魔物の本能であった。
「正義の為に……。セイギ? 正義――」
正義とは何なんだ? 正義? 犬王たちと仲間を殺すのが正義だと? たった一人の人間の代償。その為に全ての魔物を殲滅する。それが正義?
ニワトリと牛の代わりに、かつて人間に協力していた野犬たちを鏖す。それが彼らの正義なのか? オレの記憶は答えてはくれなかった。
魔族と人間の戦いの本質を、今ここに存在していた、ここで対峙している魔物と人間が再現している。
だから戦う。オレたちは殺し合う。
「来たな……」
急流の下、こちらから見えない場所に四人はやって来た。オレの仕掛けには気が付かずに。
体を水に同化させ薄く広がる。目立たないように水をせき止めて溜め込む。
人間たちが河原の斜面を登ってきて、先頭の金髪の頭が見えた。魔法使いの女だ。
「見つけたわ。スライム……」
そしてこちらの意図を察して目を見開く。だがもう遅い。
「行けーっ!!」
オレは体で作った壁を決壊させた。大量の水流に同化して冒険者たちを飲み込む。互いに水の中ならばオレは有利に戦える。
そして濁流の中、オレは飲み込まれた四人の冒険者たちと戦った。しかしオレは生き延びられなかった。仲間との約束も守れない魔物だった。
四人は水中にあっても冷静であった。同時に魔法を行使して肥大化していたオレの成分を凝縮したのだ。そして空中に持ち上げた。
「魔のケダモノめっ!ぶち殺してやる……」
オレにトドメを刺したのは魔法使いの女であった。本来支援を行う魔法が常に前面に出て戦い、そして最後もこの女で終わる。仲間も納得ずくで、剣士すらも支援に回っていたようだ。
「この女は……」
魔導の杖から発した赤い光がオレの体組成分を焼いた。それは一日の終りを告げる太陽と同じ色だった。
そして最後に見たその顔は、やはりどこかで見たような顔であった。