011「迫り来る敵」
オレの記憶に刻まれている敵がついに現われる。今までとは違う冒険者と呼ばれている、魔族と戦う力を持つ四人組だ。
あの野犬の戦い以来、リザーベルは毎日人間たちがやって来た森の道を偵察していた。一度人間たちは徒党を組んでやって来たが、一通り森の中を探索し、オレたちも犬王たちも見つけられずに引き上げていた。
犬王部隊と戦った人間たちと違うとは、目撃したリザーベルとフロレーテの記憶からの見立てである。
「違うとは何がなんだ?」
「能力と四人のパーティーです。魔獣や魔物と戦う専門の単位と言えますわ」
「ふむ……」
「まだ若い連中だったけど強い力を感じる……」
フロレーテの説明によれば冒険者は、クエストと呼ばれる仕事で金と呼ばれる報酬を得るそうだ。金はオレも知ってた。パーティーとは魔物と戦う集団なのだ。
「顔をよくみたいわ。リザーベル拡大できる?」
「了解」
俺は体を引き延ばし、魔法の力でその冒険者たちを投写する。
「姿をよく覚えて下さい。作戦に必要です」
「分かった」
男が二人に女も二人の四人組で、全員がまるでオレたちを睨むように進んでくる。燃えるような目、あの太陽と同じ目だ。こちらは美しくない殺戮者の目だった。
「オレたちはどうすれば良いと思う?」
ここはフロレーテの知略に頼るしかない。この中では一番記憶が豊富なのだ。
「選択は撤退しかありません。あのパーティーは私たちを狙っていますから」
「それしかないか……」
本能は戦えと言ってるが、勝てる見込みはまったくないようだ。当然であろう。
「分かった」
この場合は逃げるのが勝ちである。目的はオレたちだとフロレーテは言い切った。敵の目的を阻めばそれも勝ちであろう。
「ユーリアム、以前あなたがいた山の上を目指しましょう。案内して下さい」
「はい~」
「私は引き続き偵察するわ」
「気を付けて。無理はしないで下さい」
「分かった」
フロレーテは即断してテキパキと指示を出す。リザーベルは敵に向かって飛び立って行く。オレたちは山へ向かって森の中を進んだ。
「おかしいわ。あいつらの姿が見当たらないのよ」
この声はリザーベルからの、魔法による言葉の伝達だ。
「どういうことだ? 見失ったのか?」
「いえ、森の中にも降りてみたけど気配も感じないの。まるで消えてしまったみたい」
「止まりましょう!」
「はい~」
フロレーテとユーリアムは急停止する。作戦を変更するようだ。
「まずいですね。リザーベル、ここで待ちます。すぐに戻って!」
「うんっ」
「どうしたんだ?」
オレには状況がまったく理解できなかった。冒険者のパーティーは消え、山中への避難は一時中止となる。
「転送回廊……。私の記憶にありました」
「なんだそりゃ?」
「かなり高度な魔法です。違う場所、空間同士を直接結んで移動するのです」
「ん~~……」
オレの頭は混乱した。つまりそれは移動の手段として使われ、つまりすぐに別の場所に行け、つまりとても便利な――。
「えーーっ、それはまずいじゃないか! 大変だ!」
つまりあの冒険者たちは俺たちのすぐ近くにいるかもしれないし、山の上で待ち構えているかもしれないのだ。
「はい、私たちの周辺を偵察してもらいましょう」
しばらくしてリザーベルが戻って来て、オレが乗っているフロレーテの背中に降りる。事情を説明すると再び飛び立って行った。
逃げるのなら簡単だと思っていたが、相手の方が一枚上だ。人間とは恐ろしい。
どちらに動くことも出来ずにじりじりとした時間が過ぎる。オレも魔力で人間の気配を探るが弱い力では何も感じない。
「あっ!」
しかし動きは意外な方向で起こり、オレはそれには気が付いた。
「感じましたか?」
どこか別の場所で戦いが始まっている。目標はオレたちだけではなかったのだ。
「凄い力だ。これは魔法なのか?」
「はい、どうやら犬王部隊を攻撃しているようですわ」
断続的に魔力が炸裂している。森の小鳥が驚いて空に飛び立つ。野生の小動物が何匹もこちらに押し寄せて来る。
「逆方向に逃げれば……」
「ダメよっ!」
すぐに空から警告が発せられた。
「リザーベル! なぜだ?」
「反対からも人間が接近中! 山の方角からも来るわ」
「何だって?」
冒険者パーティーは単位として戦うものと勝手に考えていたが、奴らは分散して犬王戦の時と同じように包囲して、こちらを殲滅するつもりなのだ。
「やられましたわ……。まさか犬王の残党ごと、私たちもまとめて仕留めようとするなんて」
そして既に野犬たちとの戦闘が始まっているのだ。相手は四人だから当然四方を押さえられているのだろう。
「あえて分散するなんて――。自信があるのでしょう」
「どっ、どっ、どうすりゃいいんだ?」
「リザーベル、戻って! 空では感知されているかもしれません」
「了解」
「ユーリアム、障壁を用意しておいて下さい」
「はい~」
フロレーテは冷静に次の一手を考える。しかしオレは――。
「ならば行く道は決まっているだろう」
「どこへですか?」
「下だ。下に行こう」
追い込まれ必死になって考える特性が、今のこの四人に必用な要素なのではないかと思った。それがオレの仕事だ。
「とにかく奴らの意表を突くんだ。オレたちが山を下るとは思っていまい! 一番手薄な方向だと思う」
その他にも理由はあった。