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010「山中の村へ」

 翌日の早朝、四人は乗り合い馬車でソーニナの生まれ故郷へと向かう。道中で見る景色はのどかで平和そのものだ。今も世界のどこかで、人間と魔族の血で血を洗う戦いが続けられているなど忘れてしまいそうだ。

 しかし、このような平和も世界のどこかに魔族がいるかぎり、いとも簡単に壊されてしまう。その脅威に立ち向かう力を持つ人間が、平和な世界を取り戻さねばならない。これは正義を取り戻す戦いだ。

 アベラルドはぼんやりと外を見ていた視線をソーニナに移した。白く透明感のある肌はいつにも増して青白い。目はうつろで昨夜はロクに寝ていないのだろう。


 宿場街で一泊して更に馬車で一日、夕刻になり小さな田舎街ディポルトに到着した。一行はこの街の小さなギルドを訪ねる。

 ヴェツィオは、ソーニナがここから山中に半日ほど歩くミルリア村の出身者であること、妹の訃報を聞いてやって来たこと、ヴォーディアから来た冒険者であることなどを受付で説明した。

 話を聞いた女性は驚いて立ち上がり、少し待つようにと告げる。ほどなくして四人はギルドマスター室に通された。

「遠くまでご苦労だったね。いや当然か――。お悔やみを申し上げる。これは我々の不手際でもあるからな」

 老獪とでも言えそうなギルドマスターはそう言ってソーニナを見る。かつては冒険者として戦いに明け暮れていたであろう眼光と風貌だ。

 ソーニナは無言で下を向いていた。ヴェツィオが代表して口を開く。

「私たちは明日、ミルリア村に向かいます。知っている情報があれば教えて頂きたい」

「ふむ、君がリーダーか。皆若いな。いや余計な話か……」

 老ギルドマスターはここ最近の状況を説明する。

 ギルドは村人がハグレの魔導犬を目撃した時点で討伐隊を編成し、作戦を立案していた。その最中に襲撃の報が入り、一団は村に急行したのだ。

 すぐに魔導犬の群は討伐された。一部は取り逃がしたが、森の中も広範囲に捜索し危険はないと判断されたのだ。

「他の事例を鑑みても大半を失ったハグレは他の地へと移動する」

「それはそのとおりかと思います。原因は他に――」

「魔物だろうな。調べたが見逃してしまったのだよ……」

 老ギルドマスターは沈痛な表情を崩さない。犠牲者の姉を前にしているのだから当然でもある。

「私が村にいた頃は魔物を見た人なんていなかった……」

 ソーニナは消え入るような声で言う。安全地帯であるからこそ村が開墾された場所である。

「そのとおりだよ。小物の魔物だと思うがかなり狡猾のようだな。再び探索隊を出したが何も発見できなかった」

 それは探索者たちの力量にもよる。俺たちがやればと内心アベラルドは思った。そして相手をする魔物の手がかりを知りたいとも……。

「ご遺体はどのような状況だったのですか?」

「アベラルド! あなたって!」

 いつも笑顔を絶やさないリルベッタが血相を変え、怒りの表情で立ち上がった。

「俺のいた村でも昔何人か子供が殺された。手がかりになるんだよ」

「だからって、ソーニナにいる前で――」

「いっ、いいの聞きます。大丈夫よ、リルベッタ……」

 ソーニナが体に両手を添え、リベッタはしぶしぶといった感じで再びソファーに腰を下ろす。老ギルドマスターは頷いてから口を開いた。

「頭部が完全になくなっていたよ。それと体に複数のかみ傷……。相手は犬よりも小型のようだ」

 ソーニナは両手で顔を覆った。魔導犬でなければ魔物意外に考えられない。それに魔獣や魔人ならば頭部だけではすまないはずだ。

「魔物だ。それも複数の……」

「アベラルドの見立てどおりだな。二以上、それに偽装するなど知能は高い。今日はもう遅いから明日早くに出よう」

「ここのギルドにも責任はある。必用ならば応援を出すが……」

「いえ、我々は複数のA級魔獣にも対処出来ますから大丈夫です」

「ふむ、他の街から応援を呼ぼうかと思っていたが――、キャンセルするか……」

「仲間の(かたき)は必ずとりますよ」

 ヴェツィオは復讐心をたぎらせた目で老ギルドマスターの申し出を断った。仲間の恨みはパーティーでケリを付けなければならない。

「私が片付けてやるわ。必ずやつらをやっつけてやるから」

 リベッタがソーニナの手を握ると、彼女の瞳から大粒の涙が溢れた。妹の死を現実と受け止め、初めて見せた涙だった。


 翌日、朝靄が煙る街を出発し、アベラルドたち四人はソーニナの生まれ故郷ミルリア村を目指した。


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