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毒姫ライラは今日も生きている【ESN大賞9銀賞】  作者: 木崎優


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十三話 納得していいところなのかどうか

 ルーファス陛下のそばがとても素敵な環境だと知ってから一週間。

 新しい毒花を手に入れた日の晩のように、わくわくして寝つけない日々が続いた。

 長椅子の上で丸くなったり座ったり、もしも暗殺者が来た時にはどういう体勢が一番殺しやすいかを研究したりと、睡眠時間は足りていないけど、充実した夜を過ごしていた。


 そうして夜を過ごしていた私のもとに、ルーファス陛下が訪れることはなかった。夫婦の寝室なのだから来てもおかしくないのに、彼の私室と繋がる扉が開かれることは一度もない。

 私としては、とても助かった。この一週間、食事を終えるとすぐ執務室に連行されているので、夜ぐらいは一人で過ごしたかったから。


 ろくに言葉も交わさないけど、それでも密室に閉じこめられている環境は心臓に悪い。

 いっそ心臓が爆発してくれたらと思うけど、妖精の血をひく体はその程度のことで爆発してはくれなかった。


 それから、庭園での許可も下りたので土をいじる時間も与えられた。なんてことのない花の名前をいくつか並べ、その中に毒花も混ぜつつ育てたいと申請したけど、毒花だけ却下されたのは残念でならない。

 だけどそれでも、アドフィル帝国でしか育たない花が私の心を慰めてくれた。

 根に茎に葉に花弁に種。毒素が含まれているかどうか、調べないといけない。


 たった一週間だけど、執務室に行く以外は充実した日々を過ごせていた。


 そう、過ごせていた。


「あの、ヴィルヘルムさん……これは?」


 目の前に並ぶきらびやかなドレスの数々に、私はただただあ然としている。


「こちらに来て一週間近くが経ちましたので、そろそろエイシュケルから持ってきたドレスではなく、こちらの国のものを身に着けていただこうかと思いまして」

「……お借りしているものでは駄目なんですか?」


 ルーファス陛下に会う時は、誰かの遺品かもしれないドレスを身に着けている。それ以外の時間は持ってきたものを着ていたので、それで十分だと思っていた。


「お体に合ったもののほうがよろしいかと。それに王妃となられるのですから、それ相応の恰好をしていただかなくては……いや、今だと皇妃でしたか。いかんせん帝国と名乗るようになってから日が浅く、先代皇帝は正妻を定めておりませんでしたので、どうにも王国だった頃の慣習が抜け切れていないのですよ。そのため、王妃と呼ぶほうが慣れているものも多く……失言しても許していただけますか?」

「え、あ、はい。それは気にしてないので、大丈夫です」


 今さらか、と思ったけど口には出さないで頷く。

 私なんてまともに姫としての教育を受けていないから、失言どころの騒ぎではない。


「それではこれからの予定ですが、ひとまずはこちらに並んでいるドレスから数着選んでもらい、それから靴、装飾品なども選んでいただきます。好みの色などございましたら遠慮なくおっしゃってください。宝石についても好みがあれば考慮し、選別いたします」

「好みはとくにありませんけど……そうじゃなくて、こんな高そうなもの、もらえません」


 怒涛のように押し寄せる言葉の数々に思わず呆気に取られそうになったけど、慌てて口を挟む。

 すぐに死ぬ予定なのに、こんなにたくさん用意してもらってもいらなくなるだけだ。


「先ほども申し上げましたが、王妃となられるのですからそれ相応の装いをしていただかなくてはこちらとしても困るのです。ライラ様の御披露目会などもありますので……好みがとくにないのはありがたいことです。支配下に置いている国からの贈答品などもありますので、場合によっては好みでなくとも身に着けていただくこともございますので。陛下はいつも色が気に食わないだのなんだのと文句をつけてくるので、好き嫌いがないのはいいことです。控え目な方が王妃となられて嬉しく思いますよ」


 またも押しつけられる言葉たちは、口を挟む余地がない。

 こうして話している間にもさっさと侍女に用意させている。

 身振り手振りだけで判断できる侍女もすごいけど、話しながら指示を出せるヴィルヘルムさんもすごい。


「季節や参加される宴席に合わせて選んでいただけるとこちらとしても助かります。どれがいいか迷った際には私か陛下、それから侍女に聞いていただくとよろしいかと」


 ぐるりと部屋の中を一望する。今私がいるのは、私のために用意してくれたらしい衣裳部屋だ。

 ドレスや装飾品が並んでいるのに、私が暮らしていた小屋よりも広く感じるのだから不思議なものだ。

 この中から状況に合わせたものを選ぶのは大変だろう。普通は侍女に選んでもらうのだと思うけど、新しく雇われた人が多いから勝手がわからない人も多いのかもしれない。

 だから侍女だけでなく、ヴィルヘルムさんやルーファス陛下の名も挙げたのだろう。


「……ヴィルヘルムさんはどうして王にならなかったんですか?」


 ドレスにも気を回せるということは、そういった場所に慣れている、ということだと思う。それにてきぱきと指示を出す姿は、王になるには十分な素養を持っているように見える。


「……それが大変困ったことに、私は唯人に魅力を感じられないのですよ」

「それは、ええと……」


 王になるのに子供が作れないのは、たしかに大問題だ。

 この場合、ならしかたないですねと言うべきなのか、大変ですねと労わるべきなのか、判断に悩む。


 本人は大変困っていると口では言っているけど顔は涼しいもので、困っているように見えないのがこれまた悩むところだ。


「どうにも唯人のもろさが受け付けなくて……それに私は力加減が苦手でして、初夜で王妃の骨を折ったとなれば方々に申し訳が立たないですからね」

「そういえば、天使の血をひく人は腕力に優れているんでしたね」


 天使なのに、種族的な特徴は飛べるとかではなく、何故か腕力だ。妖精の血をひく私も飛べないので、人のことは言えないけど。

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