42 下船です。
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『下船の際は、足元にお気を付けください。めありぃ号にご乗船いただきありがとうございました、またのお越しをスタッフ一同心よりお待ち申し上げますーー……』
そんなアナウンスがスピーカーから流れています。
わたしと先生はオープンデッキの喫煙スペースでそれを聞いていました。
めありぃ号での非日常は終わり、皆再び日常に戻っていきます。呼ばれた探偵の大部分はきっとなんだったのだろうと首を傾げていることでしょうね。
いいじゃないですか、平和なクルーズだったなら……。
まあしかし探偵に事件を解決させたいからと探偵を呼ぶその行動力、考えてみると凄いですね。今回はたまたま解決しましたけど探偵の全員が推理力あるとは限りませんし。そういう当たり外れも、井草さんは楽しんでいたのでしょうか……。
先生が2本目のタバコを咥えます。わたしはライターで火をつけました。海風で少し火のつきが不安定です。
下船が落ち着くまでここで一服をしていた人たちも、ひとりまたひとりと去り最後はわたしたちだけになりました。
「……野暮なこととは分かっているのですが、大葉家の人たちはどうなるのでしょうね」
わたしは最終日のパーティーには出ませんでした。
人混みに混じることが嫌でしたし、オーナーと支配人の今の様子を見ることが負担に思えたので。
わたしは外に、先生はしばらくパーティーに参加して、戻ってきた時に「偽物のほうだった」とだけ教えてくれました。支配人は、いなかったようです。
「壊滅状態ではあるだろうな。大葉暁人は姉たちを出し抜いたつもりが結局は手のひらの上だったと絶望しているだろうし、泉原海花は大葉舞子……井草に対して不信感が強くなっている」
言葉を切り、紫煙を吐き出します。
「誰にとっても死んだほうがマシだったかもしれない。だけど生きなくては、井草の思うつぼだ」
「……」
「これでいいんだよ、ノバラ」
「わたしは……」
ポケットの中を探ります。泉原さんのナイフが指先に触れました。
「護衛任務をしたことは片手で数えるほどしかありません。いつも襲撃を任されていました。だから、人を守る戦いって羨ましかったんです」
奪うことばかりの生活だったからなおさら。
命乞いをする男も泣きすがる女もきょとんとする子供も諦めた老人も、みんな、殺すのではなくて守る立場であったら、わたしの存在理由も少しは明るくなると考えていた。
「実際は……そんなにいいものではないですね」
「おまえに覚悟が足りないだけだろ。聖人じゃあるまいし魂まで救うつもりか? 似合わないぞ」
もっと慰めるなら言葉を選んでほしい。
「それにノバラは探偵助手だろ。護衛でも暗殺者でもなく」
「……はい」
先生ほどとは言いませんが、もっと気楽に生きたい。
見回りの従業員さんに追い立てられわたし達はエントランスまで降ります。流石にもうまばらですね――って。
見慣れたくない見慣れた人物がこちらに手を振っています。
「やはり最後の方狙いましたか」
あ、天野さんーッ!?
なにしているんですか!? 待ち伏せ!?
あとなんか頰腫れていません?
「海花さんに会った? 僕、さっき会ったんだけど無言で引っ叩かれた」
泉原さん……。
根に持ちますよね。わかりますよ。
「おまえはここで何しているんだ」
「柏尾さんに聞きそびれたことがあることを思い出しまして」
聞きそびれたこと?
ともあれ従業員さんたちの目が痛いので下船します。
先生と自分のぶんのキャリーケースを引きずるわたしを見て天野さんは何か言いたげな顔をしましたが止めていました。
船と地上を繋ぐギャングウェイを降り、一週間ぶりの地上に足を下ろします。外へと通じているゲートをくぐる手前で、後ろから声がかかりました。
「お待ちになって?」
聞き覚えがありますね……。
先生は何も言わず、反応したのは天野さんでした。
「井草さん、どうしてここに」
従業員用の制服を着た大葉舞子でした。




