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36 たすけて。


 よく、仲間が沈んだ。任務に失敗して。砂浜に打ち上げられた彼らを鳥が突いていた。

 黒い波間から仲間がわたしに手招き囁くのだ。早くこっちへおいでと。

 わたしは、黒服4の指に手を伸ばし折る。ひるんでもなお、ボキボキと折っていく。

 悲鳴が上がる。うるさいな、と思いながら肘を折った。

 とりあえず一通り戦闘不能にしてからゆっくりとやっていこう。

 こんな状況になってもまだ天野さんを引きずり海に落とそうとする黒服5にゆっくりと近寄っていく。こいつで支配人側の黒服は最後か。

 ヒィ、とわたしを見て情けない声をあげた。


「お、おい! それ以上近寄ったらこの男の命はないぞ!」

「そうか」


 だからどうしたというんだ?

 わたしがひるむとでも思っているのか?


「その間にわたしは貴様を殺せる」


 一歩、また一歩と踏み出す。

 天野さんが柵に押し付けられる。

 彼は起きない。

 死んじゃったのかな。

 ちょっと、悲しいな。


「あ……あ……来るな……」

「なぁ、そうだろう? そうなんじゃないか?」


 一歩。それをばねにして跳躍。半回転しながら黒服5を蹴り倒した。

 視界の隅で天野さんがデッキに倒れこむのを確認する。

 黒服5の襟をつかんで上体を起こさせると、右足を彼の右腕の中に潜り込ませ肩車に近い体勢となるように調整する。

 そしてそのまま両足で首を絞める。なんといったか。三角締めか。

 苦し気な呼吸の後にがくりと泡を吹いて気絶した。そのまま首の骨を折ろうとして、支配人がスタンガンを手にこちらへ向かってきているのが見えたので中断する。

 いや、嘘だ。これ以上足に力が入らなかった。だって、殺しちゃいけないから。あれ? なんでだっけ。


「――だああぁぁッ!」


 気の抜けた声と共にスタンガンがわたしの首に伸びた。

 それをいなして手をスタンガンごとつかむ。顔の横でばちばちと電撃が爆ぜている。

 支配人の肩を掴みこちらへ引き寄せた。反対に、スタンガンを持っている手は支配人へと向けさせる。

 抵抗があるも貧弱だ。これから電気が身体に流れることは分かっているんだから、もっと死に物狂いで暴れればいいものを。


「ひっ、やめろ、やめろ……やめ、ぎゃああぁっ!」


 服の上から、胸に電流を当てた。

 道化のように飛び上がってその場に崩れ落ちる。


「いぎ、が…ぁ…」


 声が出るなら大丈夫。

 沈黙したスタンガンに踵を落とした。ひび割れる音。何度も同じようにしているとそれなりに損傷したのでやめる。

 視線を移し、痛みで涙目の支配人を見下ろす。

 それからオーナーを伺う。彼女の護衛はわたしをなにか恐ろしいもののように見ており、オーナーは黙って微笑んでいた。

 彼女はわたしの行いに口出しをするつもりはないらしい。

 見ているだけ。

 楽しいか? 面白いか?

 わたしはちっとも、楽しくも面白くもないけれど。

 少し悩んだ後、支配人の左足に足を乗せ、体重をかけた。また別の痛みが走ったようで、悲鳴が上がった。


「天野が『気に入らない』って言っていた意味が分かるよ。自分の手も汚さず、優位な場所からわたしたちを見ている存在が、嫌なんだな」


 前の職場の上司たちもそうだった。

 わたしたちに指示をするために一緒に行動していた下っ端の上司も居たが、そいつもまた安全圏に居ようとした。

 わたしたちの戦いは、血は、死は、テレビの中の出来事のように消費されていた。

 まさに今、同じような状況だ。

 あのオーナーもただの被害者ではない。確実に一枚噛んでいる。これからわたしがどう動くかを楽しみに待っている。

 あの女、次は自分だと思わないのだろうか?


「こ、殺さないでくれ! 頼む、お願いだから……」

「どうして?」


 わたしは眉をひそめる。


「こちらのことを殺す気だったのに。自分だけ助けてもらえると思っているのか?」


 都合が良すぎるだろうに。


「頼む……頼みます……」


 支配人はろくに動かない手を合わせて懇願する。

 左足を蹴り飛ばすと「ぎゃん」と叫んだ。


「ああ、そうだ。天野の指輪を見つけたんだろう? それを返してくれたらいいよ」

「へ、あ…指輪…」

「簡単な話だろう? 渡せばいいんだから。手がしびれているというならわたしが出そうか?」


 みるみるうちに顔から血の気が失われていく。

 そうだろうな、だって無いんだから。もともと存在しないものを見つけることはできないんだ。


「え、な、その……それは……」

「無いのか。残念だな」


 わたしはブラに仕込んでいたテーブルナイフを取り出そうとする。その時、うしろからわたしに縋ってくる者がいた。


「花園さん、やめてくださいっ」


 泉原さんだった。

 足に力はまだ入らないらしく膝立ちで、わたしの腰にしがみつく。


「お願い、叔父さんを殺さないで……」

「何故? こいつは――」

「……お願いします……やめて……」


 泣きじゃくりながら泉原さんが言う。

 なんで……?

 あなただって、用が済めば殺されてしまうかもしれないのに。何故庇うの?

 おかしい。わたしは、何を間違っているというんだ?

 頭がガンガン痛んでくる。キャパオーバーであることは分かっていたけど、なにがオーバーしているのかは分からない。

 度重なる負担がわたしから思考を奪っていく。

 みんな、みんな殺して、消したらそれで終わりではだめなのか?

 あれ?

 だめだ。それはだめだ。殺してはいけない。

 なんでだっけ。誰に言われたんだっけ。

 オーナーを生かそう、と

 誰と決めた? 天野さんと泉

 原さんでそうしたんだ。

 でも、天野さんは殺そうって言っていた気がする。

 違う、花園ノバラは人を殺さない。

 普通の人間になるって決めた。

 花園ノバラ?

 わたしの

 名前だ。

 もう06ではない。もう。

 目の前の人って殺していいんだっけ? 生かさないといけなか

 った気がする。どっち?

 泉原さん

 は? あのオーナーは結局ど

 うすればいい?

 この場の全員を? 天野さんも?

 波の音がする。落

 っこちたら死ぬ。仲間が見せしめに沈めら

 れた。仇討ちに行かないと。

 息が。

 船が揺れる。こ

 こは船。密航

 船?

 違う、めありぃ号。

 誰かがわたしの服を引っ張っ

 て泣いている。どうした

 の? 何がそんなに悲しいの?

 分か

 らない。

 頭が痛

 い。

 息が上手にできなくなる。

 どう動けば正解になるんだ。

 誰か、誰か、助けて。苦しい。


「せんせい、たすけて」

















「なァにしてんだ、ノバラ」

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