表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/45

24 家族とかそういうもの。

 天野さんはお茶を一口飲んでから続けます。


「まず、昨日の朝。ノバラさんの先生――柏尾さんと思われる焼死体が見つかった」

「ええ」

「それから船長たちに事件について口外しないように話をされて…その後、僕とノバラさん、それに海花さんが合流した」


 そうですね。


「船では出されるはずのないストロベリーリキュールのお酒があったこと、柏尾さんがそのお酒を飲んだ後になにかをハンカチに出したことを情報共有した。ここまで大丈夫?」

「大丈夫です」

「その後、僕たちは柏尾さんの遺体を確認しに行く」

「そしてその死体は先生のものではなかった」

「うん。確か見せしめではないかって話をしたよね。未だに、誰に向けてのものなのかははっきりしていないけど」


 泉原さんのコーヒーを飲む手が止まっています。


「その晩、ノバラさんが密会する画家の石谷さんと――」


 ちらりと天野さんはわたしを見ます。


「もう一人の人物。ストロベリーリキュールのお酒をデータの取引をするための目印としていたそうだけど、あえなく失敗した」


 ああ、相手が支配人であることを泉原さんには伏せておくつもりですか。

 教えてもよさそうですが、今後支配人の前でボロを出すとも限りませんしね……。その場合、泉原さんに危険が及びかねません。


「翌日。つまり今日。海花さんから『オーナーが殺される』という話を聞いた」


 イベント山盛りじゃん……。

 吐くのも仕方ないではありませんか、わたし……。


「そのあと、発見したのは偶然だったけれど、船が寄港するとタイミングで石谷さんはめった刺しにされて死んでいた。犯人は――」

「――B客室の男性従業員でした。この航海が初めての仕事となっているはずです」


 殺人も初めての仕事なんでしょうかね。知りませんが。


「初めての? あとで聞かせて。そこから医務室に行った僕らはそこからフリーラウンジで話し合いをした」

「そこに…大葉舞子が現れた」


 正確には、オーナーでも大葉舞子でもない女性が。


「特に目新しいことは残さず行っちゃったけどね」


 こら。

 泉原さん怖い目で見てますからやめてください。


「あと、僕たちは密会現場に行ったけど何も見つけることはできなかった。支配人さんとは会えたけどね」


 ね、と天野さんはにこりとわたしを見ます。

 そういう秘密の共有者みたいな扱いやめてもらえませんか? 死にますよ、わたしの胃が。

 支配人がこの事件の一部に噛んでいるのは確実ですけどね……。


「出かけて、帰って来て、今に至る。ここまではみんな同じかな?」

「はい」


 わたしは頷きます。


「情報はたくさん出てくるけど、犯人に繋がることはなにも解決していないのが現状かぁ」

「思ったより遅々として進みませんね……。何が悪いのでしょう?」

「むしろそんなものだと思うよ。素人がたった数時間で犯人までたどり着けたら警察なんて要らないよ」


 まあそうですよね。


「こんなに人を殺してまで欲しいデータってなんだろうねえ」

「さあ…」

「案外、手にしたらくだらないものかもしれないのに」

「人によっては価値があるものなのでは?」


 ごみをまとめつつ、天野さんは「それで」と海花さんに問いかけます。


「さっき言っていた従業員の話だけれど、聞かせてもらっていい?」

「はい――。その、あの二人、素行があまりよくないんですよ…」

「例えば?」

「社内教育があるのですが、それをサボってしまったり、煙草を吸ってはいけないところで吸ってしまったり…元は接客担当でしたけど、裏にまわされていたのも当然といいますか」


 なんで雇っているんでしょう。

 やる気があるひとを雇ったほうがいいと経営者でないわたしでも思います。


「クビにはならないんだ」

「されると思っていたのですが……。あ、ちょっと気にかかる噂は聞いています」

「噂?」


 泉原さんは躊躇いがちに言います。


「支配人がバックにいるって…。直接雇われたとか、なんとか」

 わたしと天野さんは目を合わせました。うぁっ、視線がまじりあったことによる精神的ダメージがッ。


「支配人さんに聞いたことはある?」

「……ごめんなさい、噂のレベルなのでこう、聞きづらいと言いますか……」


 分かります。あやふやで相手の不利益になりかねないことを聞くことなんてできませんもの。

 うーん、しかし支配人さんが二人のうしろにいる、ですか…。

 そして石谷さんは支配人さんと密会してデータの入手失敗について話し合ってました。

 ……。

 支配人さんが黒幕では?

 ノバラレーダー作動してますよ? なにノバラレーダーって。

 データ入手に失敗し、スタコラ逃げようとした石谷さんを従業員二人に口封じさせて、ついでに本当に失敗したのか持ち物を探らせて…。

 まあ、無理のない流れではあります。

 そうなると、支配人さんの姉にあたる大葉舞子 (偽)が「被害者役」として殺されるというのも…うーん? そこは分かりませんね。

 どうしてクローズドの環境下で姉を殺さなくてはならないのでしょう。

 刑事ドラマで未だかつて犯人が当たったことがないわたしです。慎重にいかなくては。


「話は変わるけど、オーナーと支配人の仲はどうなの?」


 あっ、天野さん良いところを突いてくれました。


「あまり……きょうだい仲は良くないですね。お爺さま……あの方達にとってのお父さまが亡くなられてからは結構険悪になったのではないかと」


 ぼやかしていますが、おおかた遺産相続で揉めたのでしょう。

 先生のところに舞い込む依頼にもたまにそういうのが絡んだりしています。

 特に大葉家は富豪ですから……。騒ぎも倍になっていそうです。


「僕は一人っ子だから分からないけど、姉と弟の関係は難しいんだろうね」


 あなたの場合、きょうだいが何人居ても分からないのでは……?


「……もしかしたら、支配人さまが犯人かもしれません」


 ギクリとしてわたしは泉原さんを見ます。

 彼女の目前で支配人が犯人ではないかという話題は避けたかったのですが。だって、身内が犯人だと言われたら良い気はしないではありませんか。


「私が来た時点でおか……オーナー様たちと仲が良くなくて……大葉グループの代表取締役にもなれませんでしたから。かなり恨んでいると思います」


 今お母さんといいかけてませんでした?

 それはともかく、引っかかる部分が。


「オーナー様たちだと? オーナーと誰だ」


 『たち』は複数を表す言葉ですが、該当人物が、思い浮かびません。

 お爺さまだとしても何か違和感があります。

 泉原さんは数度瞬きをした後に「知りませんでしたか?」といいました。


「オーナー様、妹様がいて…大葉愛子という方がいるのですよ」

「妹?」


 妹がいたんですかあの人。

 天野さんが食いつきました。新しい登場人物ですからね。


「その。ちょっと自由な方で、お仕事には向いていないようですけど……」


 放蕩者……かは分かりませんが、フリーダムな方なのでしょう。

「愛子さんは今どこに?」

「さあ……。船に乗っているのかどうかも不明です」


 そんなレベルなの。

 大丈夫なの大葉グループ。


「支配人さま……暁人さまと言いますが、暁人さま、生真面目な方なのでことさら愛子さまと相性が合わないのです」

「舞子さんと暁人さん、舞子さんと愛子さんの関係は?」


 お、質問攻めモードに天野さんがなりました。


「オーナー様と暁人さまは業務以外ほとんど話をしません。オーナー様と、愛子さまは………」


 難しい顔をして泉原さんは止まります。

 わたしたちはじっと続きを待ちました。


「……」

「海花さん?」

「……仲は、いいんでしょうけど……」

「けど」

「仲は、本当にいいんですよ」

「うん」

「でも、愛子さま…オーナー様が病気で苦しんでいる時や大怪我をした時、そばで黙って見ているだけなんです…。何もせず、じっと……にこにこして」


 どういうこと?

 なぜ手助けをしないのでしょう。

 それも笑って……?


「心の底では、嫌いなのかもしれません……」


 わたしたちは黙りました。

 仲の悪いきょうだい…クローズドサークルの豪華客船。

 データ。殺人事件。偽のオーナー。支配人。

 ……本物のオーナーは、どこにいるのですか?

 考えれば考えるほど迷宮に入り込んでいくこの感覚が気持ち悪いです。迷宮の壁を破壊出来たらどんなに楽でしょうね。

 支配人さんに直接「あなた犯人?」ってお話を聞けたら楽なのになあ。確実に新たな事件がはじまりそうだなぁ。

 わたしが胃薬を飲んでいると、泉原さんのスマホが震えました。


「失礼。船でのスケジュールを入れていて、通知が来るようになっているんです」


 それプライベート用ですよね。仕事熱心な事だ……。


「全体打ち合わせですね……」

「今の時間に? そうか、一番お客さんがいない時間帯だからか」

「ええ」

「例の従業員二人のことと、ストロベリーリキュールの話を聞けるいい機会かもしれない。行ってきなよ」

「ですが、花園さんの護衛担当ですし、私がいない間に何かあったら…」


 元暗殺者だから護衛はいらないって言いたいぐらいです。言っても冗談で終わりそうですが。

 ……いや、ここに嘘発見器がいる……。口に出したら最後ですね、肝に銘じておこう。


「ノバラさんなら僕が見ておくから」


 ああ!? 天野さん!?

 なんですかその、妻が外出するから代わりに自分が子供の面倒を見ているよみたいな父親のセリフ!

 わたし子供じゃありませんけど!

 というかもう少しわたしの意思を尊重してくれませんかね!


「天野さんとですか……」


 泉原さん、結構容赦ない眼で天野さんを見据えます。


「なにかあっても盾ぐらいにはなれるよ」


 かっこいいこと言っているようで、身代わりにしかなれないってことですかそれ?

 戦う意思ぐらいは見せて。


「まあ……オートロックのあるこの部屋から出なければ大丈夫でしょう。少し行ってきます。ここから動かないでくださいね?」

「任せて」


 ごみを片付けて泉原さんは出ていきます。

 ……。

 天野さんと密室二人っきり! いやだー! 先生助けてください! わたしもう嫌なんですけれどこのシチュエーション!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ