妖怪百鬼夜行
卒業式――すなわち妖怪百鬼夜行の日。
魔界を飛び出した妖たちが、京の町を大行列で歩いていく。
ずらりと並んだ怪異は壮観で、その集団を率いているのは黒縄小学校最大勢力組長、並びに“番長”である――白雪ヨドミである。カゴに載った彼女は扇子を仰ぎながら馬鹿笑いをしていた。
「ウワーーッハッハッハッ!! ヨユーじゃヨユー!! 有言実行、儂が最強じゃー!!」
御輿を担いだり花吹雪をまいたり楽器を鳴らしたりと、まさに好き放題やっているヨドミたち。
「ああ、ヨドミお嬢様が遂にやりましたよ……あのよわよわだめだめロリガキだったお嬢様が……こんなにも立派にぃ……大五郎感激、涙が、涙がちょちょ切れてしまいますぅっ」
その後に続きながら、大五郎はずっと感涙してハンカチを濡らしていた。
「ヨドミちゃんはやっぱりスゴイやー!!! 『狐組』に入れてよかったよ僕ー! この前の【番付決定会】の事はあんまり覚えてないんだけど……」
「う、うるさいヨシノリ! お前なんかどうだって良いのじゃ!」
(陰陽師として覚醒したヨシノリ……カッコ良かったのじゃぁ……)
大五郎がニヤリと笑ったのに気付き、ハッと緩んだ頬を戻していったヨドミに、豆狸が近寄って来た。
「姉さん。ポンは姉さんと一緒に卒業出来へん事を寂しく思ってるで。ほんでも姉さん卒業後の『狸組』の事は任しとってや〜、でへっでへっ」
「やはりそういう魂胆であったかポン」
御輿に乗り上げた『無意味三人衆』も扇子を手に踊っている。
「ヨドミぃい! 今はまだ保留にしといてやるけどなぁ、ワイはお前が頭やって事に納得してへんからなぁあッ!」
「今度カッパくんとタイマンするシャキ!」
「……お!!」
「全く、お前らも懲りない奴らじゃのう」
相変わらず突っ掛かってくる彼らに眉を上げたヨドミは、次に百目鬼たちが、ちむどんどんと楽器を鳴らして行進して来るのに気付く。
「ヨドミちゃん。キミと見れた果ての景色は、想像していたよりもずっと楽園」
「ああっ?? ……って、なんとなくおぬしの言わんとしてる事がわかって来た自分が怖いわい」
次に『六年い組』の面々や、無所属妖怪の変態三人衆等も現れて、賑やかしい百鬼夜行はいつまでも続く。
「へへ……へへへ、ヨドミさん。世話になっとります。土蜘蛛で御座います。こんな俺たちなんかも一人残らず『狐組』に拾って頂いて、妖怪としてなんとか威厳を保てましたわぁ」
「ん、おぬし、あのけったいな名古屋弁はどうした!」
「へ、へへへ……ありゃあキャラ付けですよ姉御。その節はどうもぉ……」
土蜘蛛たちがヘコヘコしながら立ち去ると、なんとそこに覚とその取り巻きまでもが現れる。
「ヨドミちゃん……その、なんて言ったらいいか」
「ふん、なんにも言わんでええわい。儂がなんていうのかもおぬしにはわかっとるのじゃろう?」
「……うん。そうだね。でも言わせてくれ。私達も『狐組』に入れてくれてありがとう」
彼等の話す通り、なんとヨドミは黒縄小学校の生徒を一人残らず『狐組』に勧誘したのであった。それ故に敗れた妖たちの面子を保たれたんだとか。
「あれからお父さんも、昔に戻ったみたいに優しくなったんだ。どうかしてたって……まるで憑き物でも落ちたみたいに……ハハ、神様に拳骨されたって言うんだよ。笑えるだろう」
嬉しそうに笑ってその場を去っていった覚。彼は数人の友と肩を並べて歩いている。
「聞いたか爺……神様じゃって」
「……はて、なんでしょうね」
「しらばっくれおって……ん? というか爺よ、アマビエ先生はどうしたのじゃ!」
ヨドミがそう考えた瞬間、向こうの方で「ビエー!」という声を上げて『六年い組』の面々と抱き合っているアマビエ先生が見えた。
「大五郎さまーーー!!! いかないでーー! ずっとここに居てくださいませーー!!!」
山姥教頭が涙ながらにはハンカチを振って、その背後からはガシャドクロ校長がビクビクしながら大五郎に頭を下げるのが見えた。
「ずっとここにおってじゃと爺。いっそ本当にそうしたらどうなんじゃ? じゃって学校の奴らを全員シメるという儂の目標は達成されたんじゃ。ここから儂は平穏無事に優雅な“すろ〜らいふ”を送るだけじゃ」
チラとヨドミが大五郎を見ると、ジジイは頭を光らせながら首を振る。
「はぁ、何言ってるんですかこのメスガキ?」
「あ? この町の奴らをシメあげれば、失われた白雪家の沽券が戻るとそう言っとったではないか!」
「そんな事言いましたっけ?」
「ナァアッ!! 言った、確かに言っとったではないここのハゲェエ!! どういうつもりじゃ!!」
ペシンと大五郎の頭を叩くも、その姿は残像と消えてヨドミの背後に佇んだ。
「お嬢様のせいで地の底まで失落した栄光が、小学校を制覇した位で元通りになる筈が無いでしょう」
「謀ったなクソジジィイイ!!」
「ええ、ですから次の目標は町では無く市です。次は中学校で番長の座を目指して下さい」
「ふぁぁあああああぁあああああぁああっっ――――!!!!!!!!」
絶叫して目を回したヨドミはカゴの上で仰向けになった。
程なくして、ヨレヨレと起き上がって振り返る。するとそこに跋扈する魑魅魍魎たちは、一人残らずヨドミを見上げて微笑んでいるのであった。
「あぁぁ……もう仕方ないのう!! “ね〜ばぎ〜ばあっぷ”じゃ……あぁぁあ!! やったるわぁぁあ!! 次は中学校制覇じゃああああ!!!」
「いよっ、その息ですぞお嬢様」
小鼓をポポンと叩いて、大五郎はヨドミを賑やかした……と同時にカゴの上に立ち上がったヨドミのパンツを覗いて、難しい顔で唸る。
一年くらいエタっていた唯一の作品に結末をつけられました。供養供養と。




