妖狐の能力?
「食らわんかいアホンダラァ!! これがワイのスモウ道!! “男女平等ドン引き張り手”じゃぁぁあ!!」
「っべぇあらァああ――!!」
河童がヨドミの頬に全開の張り手をかまし、宙に舞い上がった所を小豆洗いがキャッチする。
「ショキィイ!! 小豆を馬鹿にした恨みィィ!! “小豆シェイク”ジャラァァァ!!!」
「ジャーーー!!!!」
小豆の溢れ返った桶に頭を突っ込まれたヨドミが、小豆と一緒にシャカシャカ洗われて目を回した。
「トドメを刺すんや枕返し! いてこましたれや!!」
「……!」
河童に言われた枕返しは、泡を吹いて倒れたヨドミの頭と足の向きをくるっと変えて河童の元に帰っていった。
形勢逆転――目を回したヨドミに向かって『無意味三人衆』がゲラゲラと笑い始めた。
「ヒーーッハァァァァ!! えらい啖呵切っといてなんやねんそのていたらくはァッパァァア」
「ショキショキショキショキショキ! なーにが妖狐だジャラ、やっぱりいつもの人間のヨドミだシャキ。恐れる事はなーんにも無かったショキ」
「……!」
息も絶え絶えになったヨドミは大五郎へと血眼で振り返った。
「お、おい爺……っ、何がどうなっとるんじゃ……儂は“妖狐”の力を得たのでは無かったのかぁ~っ」
深いため息をついた大五郎は、後ろ手のまま燕尾服の裾を風にひるがえしていた。
「ヨドミお嬢様。冷静になったら私たち、妖狐の力が何なのかをまだ確かめておりませんでしたね」
「妖狐の力って一体なんなのじゃ、お母ちゃんは一体どんな能力を……」
「ヨドミお嬢様。お母様は凄過ぎて逆に出来ない事がありませんでした。とても参考にはなりません」
「ならばぁ、儂も全知全能のぉ……」
「いいえ、お母様は九尾の妖狐で、お嬢様はまだ一尾。尾の数は妖力に比例しますので、従ってお嬢様に出来ることは極わずかでしょう」
「なんじゃとぉ……」
大五郎の足に縋り付いたヨドミは、足をプルプルと震わせ小鹿の様に立ち上がった。それを見た河童たちが、まだやるんかいと息巻いているのが窺える。
「勿体ぶらずに早う教えるのじゃ爺……お母ちゃんは子どもの頃……つまり儂と同じ一尾の頃にはどんな能力を持っとった? お前は白雪家お抱えの執事であるのだから、お母ちゃんの幼少期の頃にもこうして側に居ったのじゃろう?」
すると大五郎は哀れむ様な目でヨドミを見下ろすのだった。
「お労しや……栄えある白雪家の歴史の中で、初めから尾が九本生え揃っていないのはヨドミお嬢様だけに御座います」
「は……?」
「察しの悪いメスガキにもわかる様に説明するとですね――つまりヨドミお嬢様の妖狐の能力は、爺にもわからない。という事であります」
「じゃーー!!!」