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“えんぐりっす”


 突如と『六年い組』の担任を名乗り始めた執事の狂行にヨドミは目玉を飛び出す。


「な!! 何しとんじゃワレェエエエ!!!」


 ピカリと大五郎の縁なし眼鏡が光る。そうしてヨドミの心に語り掛けて来るのであった。


 ――流石に毎日教室に立ち尽くしているのは無理があるかと思い、“でりーと”して参りました。


「はああ?!! アマビエ先生は何処にいったのじゃああ!」

「……」


 その問いに対しては何も語らない不気味なジジイの様子に、クラスメイトたちの顔がサッと青褪めるのをヨドミは見ていた。


 ――まぁまぁお嬢様。アマビエ先生は少しの間バカンスに行って頂いただけですよ。来年には帰って参りますが、それまでは爺が教鞭を取ってお嬢様を側で見守ります――


「いや怖いわ!!」


 一人で騒ぎ回っているヨドミに皆が不審な目を向けたが、そうこうしている間に臨時講師大五郎先生が目を細めて話し始める。


「白雪家お抱えの執事として勤めさせて頂いております大五郎です。担当科目は“えんぐりっす”。皆さん急な事で動揺の事とは思いますが、安心してくださいませ、爺は標的の命までは取りません」

「な、なんやっパこのジジイ!?」

「命までは取らないって、アマビエ先生のことを言っているのにゃん?!」

「豆腐食うかジジイ!」

「昨日の今日で担任が変わるなんて、学校長の大妖怪“ガシャどくろ”校長が許したのかジャラ?!」


 阿鼻叫喚の反応をものともせずに、大五郎は嬉々としながら続けていく。


「皆様ご心配なさらずに。私はヨドミお嬢様を目一杯に贔屓(ひいき)致しますが、タイマンや抗争には関わりませんので」

「っうぃ〜、好き勝手言ってるわん」

「それにガシャどくろは昔の私の舎弟でして、奴にいかなる要求をしても私の前では……」


 そこまで口を滑らせた所で、大五郎はオホンと咳払いをして見せた。彼らにとって絶大のシンボルである大妖怪、あのガシャどくろを舎弟だなんだと言うので、クラスのざわめきはピークに達してしまった。


「あー……ガシャどくろの件はお忘れ下さい。ほんの戯れ、冗談ですので」

「あ、当たり前だよ〜ガシャどくろ校長は世界最強の呼び声もある大妖怪なんだよ〜」


 塗り壁が言うと一旦木綿が空で捻れながら悶える。


「じょ、冗談でも恐れ多いぜ。あの校長が恐ろしくないなんて、そんな(あやかし)今まで一人だって聞いた事ないぜ。魔界を揺るがす大妖怪だぞ?」


 ハァと長い嘆息をしたヨドミが、机に頬杖を付いて不機嫌そうに顔を歪める。

 大五郎はニコリと微笑むと、教壇に激しく手を着いた――


「それでは“えんぐりっす”の授業を始めます」


 生粋の日本生まれ日本育ちの(あやかし)たちは、“えんぐりっす”の言葉に目を回し、アマビエ先生の帰りを切に願うのだった。

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有名な妖怪ばかりじゃなく、こんな妖怪も居ると知って貰えたらと思っています。 ブクマ、評価、レビュー、感想 よろしくお願い致します。
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