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猫の細道、桜の小枝

作者: 徳崎 文音

旅に出たくなる、景色を見に行きたくなるお話しを目指して居ますが、なかなか難しいです。

それは偶然か運命か。仕事帰りに寄った本屋で親友に似た雰囲気の人を見かけた。居るはずのない彼女。だつて彼女は500km以上も離れた他県に住んでいるのだから。用事でこちらに来るときには、遠距離恋愛の恋人の様に前もって必ず連絡をして、会えるように調整してからやってくる。だから不意打ちで目の前に居るわけがない。なのにその人が彼女に見えて思わず近づいてしまった。近づいてみれば全く知らない男の人だった。性別すら違う人に見間違えるなんて親友に申し訳ない。声をかける前に気がついて良かった。人違いに気付いたとき、目の前にはガイドブックの棚が有った。あぁ!黄色いリュックと国内旅行のガイドブックが彼女のイメージに繋がったんだ。日常の中で相手の事を思い出す出来事が有れば連絡しあっていたので、その日も帰ってからlineで連絡をしてみた。

 送って何秒も経たないうちに返事がきた。正しくはほぼ同時に送られた彼女の日常報告だった。彼女は今日は風邪で寝込んでいて、夢の中で本屋に行き私に会ったと言う。

お互いに思い出して同じ日に連絡し会う事は今までもよく有った。でも今回は思い出したタイミングと思い出した理由が全く一緒だった。

 彼女が夢の中で買ったというガイドブックは今わたしの手元に有る。その事を伝えれば「いつか一緒に行こう(笑)」という返事がやってきた。私と彼女の「いつか」はこうやってどんどん増えていく。今日もまた達成されにくい約束を増やしてしまった。


「まさか、”いつか”がこんなに早く実現するとはねぇ。」

 自分で言い出したのだけど、心の底から彼女に同意している。私たちの”いつか”が実現するのは早くて1年、ほとんどは実現しない。だけどあのガイドブックの約束はこうして1ヶ月で実現している。自分から言い出して日付も指定したのに、どうしてこんなに早く約束が実現したのか不思議で仕方ない。

 彼女とわたしの”いつか”の約束は20以上有ると思う。高知の海、京都のお寺、茨城のネモフィラ、九州の島、福島の桜、、、いくらでも前から話していた保留の約束の旅先は有る。なのに何故か今来ているのは一ヶ月前に初めて話題に出たばかりの広島。

 岡山駅で待ち合わせをして助手席から朝日がキラキラと反射する海を見ながら国道2号線を走っている。走っていると言っても車だし、しかも運転しているのは私じゃなくて彼女。「行こう」と言い出して日程は指定したけれど、結局旅の細かい旅程は彼女に任せた。適任適所だと思う。そして、県をまたいだ100km以上の移動なのに国道を走っている。それは彼女のポリシーと思いやりに基づくもの。


尾道に着いた。有名な坂道というか階段をを昇っていると沢山の猫たちに遭遇した。ガイドブックの通りだ。しかし、観光客や地元の皆様餌を与えすぎでしょう。みな地元で見る猫より遥かに大きい。毛並みもよろしい。息を切らしながら沢山の猫とすれ違っていると一匹の猫が足元にすり寄ってきた。ブルーの透き通った瞳が印象的な色素が薄めな三毛猫さん。少し離れたかと思えば寄ってくる。

 「こっちにおいでって言われてるみたいだよね」

 あぁ、親友はそういう人だった。ペットのハムスターはもちろん、野良猫でも野生の白鳥でも意思疏通ができるつもりで話す。そうやって、フラフラと動物に寄っていってはカラスに蹴られたり、白鳥に噛まれたりしてるのに、全く反省というか学習した気配がない。そして今も猫に話しかけ始めた。

 「どこに、連れていってくれるの?ちゃんとついていくから、少し離れて歩いてくれないと踏んじゃうよ」

 まるで猫は理解したかの様にニャーと一鳴きするとスタスタと歩き出して、私と彼女の不思議旅が始まった。

 ガイドブックに載ってた有名なお寺を抜けると、桜の名所百選の公園に辿り着く。私たちが子供の頃にはそれしか無かったけど最近では珍しいソメイヨシノが公園中に植えられて満開に咲き誇っている。その向こうには瀬戸内海としまなみ街道の橋と島が見える。海を見るとテンションが上がる。

 「見て!島がいっぱい!」

見えたまま、当たり前の事を言う私に親友は半分呆れ、半分満足な器用な表情を見せてくれている。暫くそうやって、景色を楽しんでいたのだけど、さっきの猫がまた足元にまとわりている。遂にはズボンの裾をくわえて引っ張り出した。仕方ない。特に目的のない旅行だし、この親友との旅行で計画通りに行ったことなんてないんだから、猫に付き合ってみよう。と決意すると、親友も同じ気持ちの様で頷いている。

 そうして、猫に連れられて公園の端の比較的人の少ない場所にやってきた。そこには一際小さな桜の木が有った。植えたばかりにも見える桜の木には植樹に関するプレートがついていて、植えられてから10年以上経過している事が判った。

 「神代桜さん?!あちゃー。やっぱ弱いんだねぇ。」

と今度は桜の木に話しかけ出した親友はこの桜を知っているらしい。彼女曰く、日本三大桜の一つで,山梨県に生えてるいる樹齢2000年とも言われる立派な桜の分家の様なものだという事だ。彼女は私と一緒に見たつもりでいるらしいけれど、私は一緒には行っていない。確かに山梨には一緒によく行っていたけれど。そして彼女はその細い木の幹に触れた。その途端大量の桜の花吹雪が舞った。さっきまで見ていた桜の木に花は咲いていなかった。どこから舞ってきた桜の花びらだろう。と思っていると、目の前に小学生くらいの女の子がたっていた。

「やっと来ましたのねお姉様方。近くに気配を感じたから一生懸命お誘いしていたのに、気づかなかったり、寄り道したり。手間がかかりましたわ。」

知らないはずの、この女の子を知っている気がしてくるし、確かに妹の様な気もする。そう言えば、さっきまで裾を引っ張っていた猫はいつの間にか居なくなっている。よく見ると女の子はあの猫と同じ透き通った青い瞳をしている。

「んー?私たちは姉妹じゃないけど、貴女は私達の妹なの?貴女が私達の妹なら私と彼女も姉妹なの?」

考えるより先に口が動く親友が女の子に尋ねると、女の子は困った様な表情をして頷いて、透き通った青い瞳が私と彼女を交互に見ている。一生懸命お誘いしていたという言葉は、猫が裾を引っ張っていたあの行動の様な気がしてくる。猫に化かされているのか?

「ここまで案内してくれた猫は、貴女だったの?」

そんなバカなと思いながら聞いてしまった。でもなんとなくファンタジー大好きな親友と巻き込まれたファンタジーな現象は、猫が女の子に変化したように思わせたのだった。

「お姉様は相変わらず勘が宜しいのね。」

無駄に言葉がキレイというか、世俗的な雰囲気を感じさせない言葉が帰ってきた。何となくだけど、女の子の雰囲気は住む世界が違う感じがする。猫なのに猫背じゃないし。

「お姉様方は、覚えてらっしゃらないのね。お母様は1度会いに来てくれたって仰ってたけれど。仕方ない、思い出させてあげましょう。これを舐めてみて。」

そう言いながら女の子はポケットから、桜の花びらを2枚出して、私と親友の手のひらに1枚ずつ置いた。いやいや、桜の花びらって食べ物じゃないし、見知らぬ人から渡されたもの口に入れる訳には、、、なんて思う間もなく親友はさっと口に入れた。

「甘い!、、、、、、ん?あっ?!えっ?!えぇーー?!」

親友は擬音だけを叫んでフリーズしてしまった。そして女の子は私にも早く口に入れろと目で訴えている。仕方なく口に入れると、優しい女の人の声が聞こえてきた。聞き覚えがある様な、でも誰だか分からない声。

「美桜、莉桜、どうして会いに来てくれないの?それで、どうして妹の所には二人で行くの?もう随分待っているのよ。」

声をかけられると、記憶というか、景色が見えてきた。私たちは、確かに姉妹だった。美桜はあの頃の自分の名前。親友は莉桜。優しい住職さんにお世話をされる、まだ若い桜の木。さっきまで見ていた桜よりはもう少し大きいけれど、まだ若いと言える、樹齢100年にも満たない桜の木。遠くに見える山は、南アルプス。夏は黄緑から緑の優しい色合いで、冬になれは頭を雪で白く初めて夏よりキラキラ眩しくなる、そんな山を眺めながら過ごしていた。お母様と沢山の姉妹と。

「二人で出掛けるとき、やたらと山梨に行ってたのは、、、、高原に行くと落ち着く気がしてたのは、、、この記憶が引っ掛かっていたのね。」

荒唐無稽だけど、自分も親友もこれが前世の記憶だと、ストンと納得した。私達の前世は【山高神代桜】。幹の中で育てられて、子孫樹をって成ったときに種に乗ったり、接ぎ木される枝に別れたりして、新しい場所で親になる。それが桜の魂。

あの夏の日、接ぎ木になる予定で枝に入ってた私たちは雷に打たれて折れて落ちてしまった。桜として新しい場所に行けなかった私たちは、1度黄泉の国に行って、人間として生まれた。妹はまだ幹の真ん中で順番待ちをしていたから、怪我をしたけれど、黄泉の国には行かず、怪我が治るのに随分時間がかかって、10年前にやっと里離れした。

私たちは海からとても遠い所で育ったから、この潮風がよく当たる丘に来た妹は苦労している。だから、こんなに小さいのだと判る。

「猫に化けて、私たちを呼ぶくらいなら、花を咲かせれるんじゃないの?」

親友というか、前世の妹は本当に思い付いたことをすぐに言う。私も気になったけどね。

「咲かせるだけならできるけど、キレイじゃないし、3日くらいで終わっちゃうから咲かせない。あと何年かしたら咲かせるよ。あっ、お姉様達が毎年来てくれるなら頑張るよ。」

「人間は忙しいから毎年は来れないよ。来年はお母様の所に行くし。まぁ、またここにも来るよ。次に来たときにも咲いて無かったらもう来ないかもしれないけどね。」


それから、私と親友の間に、春になると毎週の様に遠出する習慣ができた。沢山居た妹達は里離れして日本中に住んでるから。でも、妹と会話できたのはこの時だけだった。大きく育ってる妹も居たけど、二度と前世の家族との会話はできなかった。それでもせっせと日本中の桜を巡る。


お読み下さりありがとうございます。

日本三大桜の子孫樹が、同じ公園に同じ年に植樹されてるのに、【山高神代桜】さんだけ植樹されたばかりの苗の様な大きさなのを、旅行先で見て妄想しました。完全な妄想です。海風が影響するのかは分からないですし、それを言えば薄墨桜も海の遠い地域から来ているので関係ない方だとおもいます。お話の都合そういう事にしただけです。

神代桜の小さくても生命力ある雰囲気を文章にしたくて書いていましたが上手く纏まらず申し訳ない。

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