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SUITE SWEETS TIME  作者: りつなり
9/10

09

「あたし、すっごい美味しいパスタのお店知ってるからさ、一緒に行こうよ」

「だから、人を待っているんだと言っているだろう」

「だったらその人も一緒に連れて行けばいいよ。ねぇ、だめ?」

「だめだから断っているんだろ? さっさと他を当たってくれ」

「じゃあ、せめて連絡先だけでも、」

「しつこい女だな……っ、桃慈! 遅かったな、早く行こう!」

「え?」

 明らかに逆ナンされている様子に、どうしたものかと立ち尽くしていたところ、俺を見つけたセイに声をかけられた。そして気付けばそのまま腕を掴まれ、どこかへと連れられて行く。

「ちょっとぉ!」

「おい、セイ!」

「しつこくて困っていたんだ。助かった」

「助かったっておまえ……それより、もう帰ったんじゃなかったのか?」

「……この近くに、美味しいジェラートの移動販売が来てるんだ。桃慈の分も奢るから、よかったら付き合ってくれないか?」

「ジェラートって、そんな突然、」

「嫌だったら、今すぐ腕を振りほどいて逃げてくれて構わない。でも、できれば一緒に来てほしい」

「セイ……」

 早足で前を歩くセイの顔は、俺には見えなかったけれど、その声には、先ほどと同じ必死さが滲んでいた。どうしてセイがこんなことをするのか、俺にはわからなかった。でも、今ここで逃げたらきっと、もう二度とセイには会えない、そんな気がした。だから俺は、そのままセイに従うことにした。


 ジェラートが販売されているという公園の広場に着くまでの時間は、実際には五分もかかっていないはずだが、俺には十分にも、三十分にも感じられた。顔を見ることも、言葉を交わすこともなく、その真意を探ることができないまま過ごした時間は、あまりにも長かった。知らず知らずのうちに全身が強張っていたようで、目的地に到着してやっと、肩の力を抜くことができた。

 宣言通り、ジェラートを奢ってくれたセイは、人通りの多い場所から離れ、公園のはずれにあるベンチへと俺を連れて行った。二人並ぶ距離は近いけれど、互いの顔が見える対面でないことに、俺は少しほっとした。

 俺がミルク、セイはぶどうと、どちらも定番の味を選んだ。セイが薦めるだけあって、うんと甘いのにしつこさがなく、さっぱりとした味わいのジェラートは、非の打ち所がないほど美味しかった。けれど緊張からか、先ほどのケーキ同様、素直にその美味しさと、それにより与えられたしあわせを、噛みしめることはできなかった。

 終始無言で食べ進め、俺が最後のひとくちを食べ終わり、少しした頃、ようやくセイが口を開いた。

「俺のこと、あの友達に聞いたんだろ?」

「……噂は、いくつか」

 前置きもなく唐突に切り出されたのはまさしく本題で、動揺した俺は自分を落ち着けるためにひとつ、深呼吸をしてから返事をした。大した付き合いじゃないけれど、単刀直入に聞いてしまうのは、良くも悪くもセイらしいと思った。

「幻滅したか?」

「全部、本当のことなのか? 人の彼女を寝取ったとか、そういうの」

「正直に言えば、半分嘘で、半分本当。俺は、わざわざそんな面倒なことをする性格じゃない」

「そう、か」

「で、どう思った?」

「……正直に言えば、」

「正直に言えば?」

「……どうでも、よかった」

「……は?」

「あいつ、俺の友達から聞いた『藤咲』のことも、それが『セイ』のことだと聞かされてからも、正直俺は、どうでもよかった。俺、薄情なんだ。どこかで誰かが傷ついているのだとしても、それが他人なら興味がない。だから、おまえがどんなに最低なやつだとしても、俺は別に構わなかった」

「じゃあなんで連絡を寄こさなかった? もう、関わりたくないと思ったんじゃないのか?」

「それは……怖かったから」

「怖かった?」

「セイの方こそ、俺に連絡してこなかっただろ」

「それは、俺だって、」

「幻滅、したんだろ? 気持ち悪いって思ったんだろ?」

「そんなことない。そんな、気持ち悪いなんて、」

「無理しなくていい。ゲイだ魔性だなんて言われてるようなやつと、普通だったら、一緒に居たいと思うはずがない」

「だから、そんなことないって言ってるだろ!」

 突如荒げられた声に、びくりと肩を跳ねさせる。セイは、こんな風に怒るのか、などと感心している場合ではなかった。

「俺の目を見ろ。ちゃんと話を聞け。俺はそんなこと、一言も言っていないだろう?」

 肩を掴まれ、無理やり体をセイの方へと向けられる。まっすぐ俺を見つめる目には、確かな怒りの色が見えていて、俺の言葉に、セイが憤っていることをはっきりと示していた。

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