05
週末、セイと二人でシュークリームを食べに出掛けた。あれから学内で会うことはなかったけれど、行ってみたい店があると誘われ、俺も気になっていた店だったので二つ返事で了承したのだ。開店まで、一時間ほど並んだけれど、いつか感じた相性の良さは間違っておらず、自然に会話を楽しむことができた。普段、バイトの時間を除いて、美智以外の人間と話す機会のない俺にとっては、他人と、普通に話せるというだけでも、特筆すべきことだった。
「彼女は誘わなくていいのか?」
「彼女?」
「前は連れていただろう? 二回とも」
「ああ、あれは別に、彼女じゃない。一緒に出掛けたいとしつこいものだから、言い方は悪いが、利用させてもらっただけだ」
「ふーん」
「やはり、一人でこういう店に来るのは恥ずかしいんだ。だから、桃慈のことは本当に尊敬する」
「尊敬? そんな大したことしてないだろ。慣れればどうってことないさ」
「慣れるだろうか……」
「慣れる慣れる」
「でも、これからはこうして、桃慈が一緒に行ってくれるんだろう?」
「……まあ、気が向けば」
セイは俺と同じで、あまり表情が豊かな方ではない。しかし今は、表面的にはわかりづらいものの、なんとなくだが、心底嬉しそうにしているだろうことが伝わってきた。なんだか少し気恥ずかしくて、そっけない言葉で返してしまったけれど、内心俺も、こんな風に接してくれる友人ができて、同じ趣味を持つ友人と、同じ喜びを分かち合うことができて、本当に、嬉しかった。
「今日はありがとう。あそこのシュークリームが食べれてよかった」
「こちらこそ。ちょっと遠いからなかなか行けていなかったし、ちょうどよかった」
「今度は、桃慈の行きたいところに行こう」
「俺の?」
「ああ、ひとつやふたつ、あるだろう?」
「そうだな……そういえば、チョコレートケーキが美味しいって評判の店があるんだ。ずっと行きたかったんだけど、店主がぎっくり腰で店を休んでしまってさ。でも最近、再開したって聞いたから、近いうちに行ってみたいと思ってたんだ」
「じゃあ、今度はそこにしよう」
「わかった」
当たり前のように、俺と一緒にと言ってくれたセイ。出会ったばかりなのに、もうずっと前から知り合いだったようにすぐ打ち解けて、話が、何より、好きな物が合う。
ふと、こんな人間が恋人であれば、今までも上手くいったのだろうか、などと頭に浮かんだけれど、その想像はすぐに自ら打ち消した。だって、彼はどう見てもノーマルだ。友人として接するなら、例え想像だとしても、そのような目で見ない方がいいに決まっている。それに、もしかすると、俺がゲイだと知られてしまえば、彼は離れて行ってしまうかもしれない。それが惜しいと思ってしまうほどに、俺はセイのことを、気に入っていた。