村の異変
どうしても区切りが悪くなりそうだったので、今回は少なめです。
まあ、でも空白で読みやすくしているのでそこそこ文字があるようには見えるかも。
今となっては早朝にゴブリン退治に行くことは日課になっていた。
現在、ワトシアはこの世界に生を受けてから十年がたった。
ゴブリンに致命傷をもらったのも昔の話で、今となっては笑い話である。
辛い過去ほど、時が経てばとびっきりのネタになるのだ。
しかし、ワトシアはネタになるでけではなく、それを教訓としてゴブリン退治にも油断しないように立ち回っていた。
そして今日もワトシアは日課のゴブリン退治へ向かった。
実を言うと、あんまりゴブリンを退治する必要はない。
なぜかと言うと、コル村には滅多にゴブリンの襲撃などないからだ。
村の皆は、『この村には美人もいないし貧しいから襲う価値もないのだろう』だとか、一ヶ月に一回くらい村に唯一ある地蔵に祈りながら『今日も村をお守りしてくれてありがとうございます』など言っていたりする。
まあ、そんな理由で襲われないわけがないわけなのだが。
言うまでもなく、ワトシアがゴブリン退治に行くのはただの修行である。
毎日行ってるものだから、もはやゴブリンがよくいるスポットとかも知っているし、なんとなく気配でどこにいるかわかる領域まできた。
しかし、今日はなかなか出会えない。
ゴブリンがよくいるスポットに行ってみても、そのスポットで気配を探ってみたが何かいる気配がなかった。
毎日の習慣でゴブリン退治に行っているからわかるが、こんなことは今まではなかった。
そんな調子でどんどんと森の奥へと歩を進めるが、何にも遭遇しない。
森は異常に静かだった。
「………………………何かがおかしい…」
周りをよく観察するといつもいる小鳥すらいないことに気づく。
「何か起こっているのか…?」
昨夜の事。
とある銀色の鎧に包まれた兵士のような二十人程度の集団は、丘の上からとある村を見下ろしていた。
丘からは遠くにある村であるが、村から溢れる微かな光をこの集団は捉えていた。
「おい、あんなところに村なんてあったか?」
長身で細身の無精髭の生やした黒髪の男が欠伸を殺しながら問う。
集団の中で最も装備が豪華であるが着崩している。
すると、近くにいた銀髪の男が地図を確認する。
「んー、地図には載ってないようですよ。きっと王国非公認の村ですかね」
どれ見せてみろと、黒髪の男は地図を確認したが、地図には村の存在は確認できなかった。
すると黒髪の男は頭を掻き毟った。
「おい誰か、この小せぇ村知ってる奴いねぇのか?」
黒髪の男が部下たちに問いかけたが、皆の反応は薄かった。
しかし、一人の兵士が一歩前に出る。
「俺この近くのシュウって町出身なんすけど、多分位置的にコル村だと思いやす。……あ、確か噂ではA級冒険者の剛剣のトンガが住んでるらしいっすよ」
「…あ?いまトンガって言ったか?」
「へ、へい。噂ではあるんすけどシュウでコル村について聞き回っていたらしくて」
急に高圧的な態度になった黒髪の男に兵士が慄く。
「噂…ねぇ……」
普通根も葉もないところに噂などたたないものだ。
しかし、噂は噂。
事実である保証はないが虚構である保証もない。
そんな不確実なもの。
それらを承知した上で黒髪の男はなぜか確信めいたものを感じていた。
そして、態度は一変して黒髪の男は静かに笑いだす。
「ククク…。トンガか。…やっと運が回ってきたようだなぁ。こんな怠い辺境の調査なんてつまんねぇと思っていたが、こんなことがあるなんてなぁ…」
そして黒髪の男はニタニタとした顔のまま部下に指示をして、部下たちに野営の準備を始めさせる。
その指示によって兵士たちは、準備を始めるために黒髪の男の近くからいなくなる。
しかし、そこらの兵士と一緒に立ち去ることのなかった銀髪の男は黒髪の男の横に立った。
「副団長、どうするんです?この村」
銀髪の男は面倒臭くなりそうな雰囲気を感じ取りながら、副隊長と呼ばれた黒髪の男に目を向ける。
「ちょっと調査するだけだよぉ。王国に隠れて危険物作られているかもしれないだろ。それだけのことよ」
まあ、と黒髪の男は続ける。
「この村に反抗的な意思がなければ、の話だがなぁ」
銀髪の男は了解、と言葉を残して疲れた顔をして去って行った。
それによって、黒髪の男の周囲には誰もいなくなる。
丘からゆっくりと村の方向へ風が流れている。
野営のために焚いた魔物よけのお香は風に吹かれて村側へ流れていく。
それを目で追うように、黒髪の男は再度村の方向へ目を向ける。
「ダメじゃねぇか。A級であろう者が王国非公認の村を報告しなかったら」
ワトシアがゴブリン狩りへ向かって異変を感じていた頃、トンガは自宅にて書き物をしていた。
日記ではないが、白紙の本にこの村に来てから気になったことなどを書き記しているのだ。
であるため、毎日書いているわけではない。
本の表紙には『コル村』とだけ書かれていた。
最初はこの村の異変について書き記そうと何となく始めたものだが、毎日書いてはいないにしろ、十数年は続いている。
長くこの村に滞在していても、最近でも発見することは多々ある。
発見といっても、トンガによる考察である部分の方が圧倒的に多いのだが。
それもあってか、細かく書かれた字は既に白紙のスペースをもう残り僅かとしている。
トンガはもともと気まぐれのようなもので始めた書き物であるので、この本が埋まっても、続けるつもりもないし、誰にも読ませる気もなかった。
しかし、最近トンガはある新しい発見によってこの考えを改めようかとも思っていた。
この発見は自分だけで持っていても仕方ないもの。
それは、十数年にわたってこの村を守ると称しながら居続け、調査を重ねてきて出てきた成果である。
トンガは決して自慢で広めたいわけではなかった。
むしろ、この村の住人にだけ知らせたい。
それに合わせて、守護人と偽って村に居続けようと考えた自分の暴露。
当然、平然と偽った自分への目線は冷たくなるだろう。
しかし、このまま秘密を抱えたまま墓までもっていくのは、トンガ自身のプライドが許さなかった。
近いうちに明かそうと思っていた事柄は時が経てば経つほど、言いにくくなるものだ。
そのスパイラルのようなものにハマっていたトンガも、もう決心がついていた。
そう、明日にでもと。
そんな考え事をしていたトンガはしばらく静かに本に向かっていたが、何やら外が騒がしいことに気がつく。
雰囲気的に魔物の襲撃のようなものではないようだが、人の声が入り混じっていいる。
「何事だ…?」
「おい、早くこの村の一番偉い奴出せって行ってんだよ!」
「俺らは天下の王国騎士だぞ!いつまで待たすんだよ!」
村の入り口にて、銀色の鎧に包まれた者たちが大声で村人たちに叫び散らかしていた。
家から騒がしさに気付いて出てきた村人たちは怯えながら遠目にその様子を伺うことしかできない。
そして、村の皆は何の理由で村に誰がきているのかも知らなかった。
ゆえに村の皆は滅多に村を訪れる者への恐怖心や兵たちの高圧的な態度に困惑していた。
しかし、一人の兵士はツカツカと遠巻きに見ていた村人の女に近づいて、胸ぐらを掴む。
「早くしろって行ってんのが聞こえないのかテメェ!!」
そして、兵士はそのまま勢いよく女を突き飛ばした。
「きゃあ!」
女はそのままバランスを崩して、地面に尻餅をついた。
周りにいた村人たちに動揺が走る。
村の皆は流石に暴力に訴えてくるなど思っていなかったのだろうことが窺えた。
村人は周りとの町や村などの交流もなく、ひっそりと暮らしてきた小規模な村。
それは当然のことであった。
すると、まもなくして兵の集団の後方から黒髪の男が姿を現す。
「おいおい、その辺にしとけよ。まだこの村が黒って決まったわけじゃないんだからよ」
豪華な装備を着崩した黒髪の男はゆっくりと歩を進め、やがて兵の集団の先頭に立つ。
「俺は王国騎士団、『銀の剣』の副団長のオルバ・ランドルだ。早くこの村の村長を呼んで来い!」
黒髪の男、改めオルバは副団長として村に通告出した。
「然もなくば、手段は選ばぬぞ。こちらとて時間が惜しい」
オルバは村人たちに脅しをかける。
オルバはあくまで脅しで言ったわけだが、本当に力づくで制圧でもしそうな雰囲気を醸し出していた。
そして、その言葉に村人たちは困惑しているものもいれば、そんなのはあんまりだと反抗する者、村長を呼びにいくぞとその場から駆け出す者。
その場は混乱で溢れかえっていた。
もう収拾のつかない状況になったと村の皆が思っていた時に村の方から声が届いてくる。
「何の騒ぎかと駆けつけてみれば」
村の中心部の方角から壮年の男が腰に剣を携えて、歩いてくる。
「王国騎士であることを笠にきる、どんな騎士がきたかと思えば」
「お前か。オルバ」
呼ばれたオルバは視線をその男に向けると、見覚えのある姿に頬を緩ませる。
服装や昔より歳を重ねて少し姿が変わっていたとしても、オルバには見間違えることのないその姿。
当然、オルバはその姿を待ちわびていた。
「ククク…やっぱりこの村に居たのかぁ…」
オルバは目を見開く。
「トンガァ!」
更新頻度が自分でも遅いと痛感してるけど、なかなか執筆って進まないもんですね。
無理やり描こうとすると、納得いく感じにもならないし。
みんなから見てどんな感じのクオリティか知らないけど、自分の全力で書いてます。