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転生魔族の逆襲章  作者: 千万
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過去の真実と日常



「あれは、普通のブラックベアーではなかった」


 トンガは宙を睨めつけながら語る。

 


 トンガが語り出したのはある日の出来事である。

 この日、ワトシアはトンガの家を訪ねると、ワトシアに座布団の上に座るように勧める。

 そして、話しておくべきことがあると言い出した。


 ワトシアはトンガの表情で真面目な話だと悟って、黙ってトンガの話を聞くことにしていた。



 この話はトンガが現在住んでいるコル村に初めて来た時の話である。

 その時は、トンガは修行を主とした旅をしていた。

 しかし、堅苦しい旅ではなく、時に街並を見て回ったり、小さな村などを訪問して初めて目にする文化や人の暮らし方を直接肌で感じ取ったりして、旅を楽しんでいた。

 もちろん、トンガは修行という目的で旅を始めていたため、道中は冒険者組合で護衛の依頼を受けたり、訪れた村が魔物被害などで困っていたら助けていたりもしていた。


 そんなある日、トンガはシュウという街でコル村のことを知り、コル村に向かう。

 シュウの酒場ではコル村に行ったことのある人は誰一人いなく、知名度もほぼないと言っていいほど低かった。

 しかし、シュウとコル村はそんなに離れていないのになぜそんなに知名度が低いのかトンガは気になっていた。

 その興味もますますトンガを期待させる。

 

 新しい文化に触れられる予感をヒシヒシと感じながらコル村を訪れた。

 

 そこでまず目にとまったのは村周囲の森。

 明らかに魔物の気配がする。


 普通村というのは魔物の出現率の低い場所に人の居住区を設けるものだが、この村は……


 明らかに魔物の出現率の高いところに村が存在している。


 そんなところに村があるなんて信じられないが、村の守護人がよっぽど優秀なのか、はたまた異なる理由があるのか。


 そして、村に目をやると他の見てきた村よりも文明の遅れている生活をしている。

 農業も村の食料を補う程度で、農具も昔から使われているであろう木製のボロボロのもの。国からの徴収はないのだろうか。

 そして、タンパク質を摂るために、たまに村人が狩りに行く。

 そんな村に見えた。


 文明の遅れている村はそんなに珍しいことではないのだが、そういった村はその村での古くからの風習などが絡んでいることが多い。

 例えば、特定の弓で倒した特定の動物の肉しか食べない部族の村など。

 そういった意味でコル村は文明が遅れているのかと初めは思っていたが、そんなことはなさそうだった。

 至って普通のただ文明の少し遅れている村。

 

 コル村はトンガという赤の他人の旅人にもとても歓迎的な対応を見せた。

 そして、少しの間滞在させてもらうことにした。

 滞在していた期間も、村特有の料理なども振舞ってもらったり、寝床も提供してくれて、変なところは何も感じられなかった。


 しかし、たった一つだけ疑問が消えなかった。

 

 なんでこの村は…


 魔物の襲撃の警戒が一切ないのか。




 村の周りの森には魔力が強く漂っており、確実に何匹もの魔物が発生しているはずだ。

 しかもその魔力は村をも覆っているほどある。


 ぱっと見では、村には強そうな村人など誰もいない。

 

 そのことについて、村人に尋ねると首を傾げられた。

 確かに森にはゴブリンという魔物は見かけるが、そんなに強くないし、村に襲撃にきたことはないと。

 しかも森に狩りに入って、ゴブリンに遭遇することなど多くはないことだと。


 そんなわけがない。

 はずなのに、村人が嘘を言っているようには見えなかった。


 そして、トンガはどうしてもその疑問が解けなくてまだこの村にいることにしたのだとか。




 

 トンガはワトシアに目を向ける。


「というわけだ」

「……??」

「さて、これからは新しい剣の稽古でも…」

「ちょっと待ったー!!」


 待て待て。なんだそれは。

 途中までは良かったよな?

 え、どこで狂った?


「えっと、いろいろ聞きたいんだが」

「なんだ。そんなかしこまって」

「だっておかしくないか?ブラックベアーは?」

「ああ、その件か。それは嘘だ」


 ん?嘘?

 お袋も言ってたよな。ブラックベアーと戦って後遺症がなんだとか。

 それに前にトンガと稽古した時だって、本人が後遺症がなんだとか言ってたよな。


「嘘?じゃあ、後遺症は?」

「それも嘘だ」

「じゃあ、この話の最初に『あれは、普通のブラックベアーではなかった』と言っていたのは?」

「雰囲気を出すためだ。そういうことを言わないとお前は真面目に話を聞かないだろうと思ってな」


 ほう。やってくれたなトンガさん。

 

 そして、話を聞いていくと、まず村人を騙したのは自然と村に住まわせてもらうため。

 突然来た旅人を村に住まわすにはこれしかないと思ったらしい。

 後遺症も昔負った古傷を見せたら世間を知らない村人は、これが後遺症なのかと簡単に信じ、村の近くでブラックベアーに襲われて傷を負ったが自分のできる治癒魔術で治療したと虚言を吐いてやり過ごした。


「嘘はついたが別に悪気はない。スムーズに村に残って調査をするために必要だったのだ」

「ほう。なるほど。今の話は嘘ではないんだな?」

「ああ。これ以上誰かを騙しても意味もないしな」


 ワトシアは別に村のみんなに嘘を吐いたことをとやかくいうつもりはないが、今日ついた嘘については少し文句を言いたい。

 雰囲気作りに騙された人の気持ちになってほしい。


 まあいいけどね。

 



「でもなんでそんなことを俺に言ったんだよ」

「別に理由はねぇよ。まあ、敢えて言うならば………このまま誰にも言わずに死んじまったら、この嘘は真実になってしまうからな。それが原因でこの先何か問題が起こらないとも言い切れない、からだな」

「はあ、そうですかぁ。俺を選んだ理由は?」

「この村で一番信用できるからだな」


 トンガは恥ずかしがらずにきっぱりと真顔で言い切る。

 対してワトシアはトンガから信用を置かれたことに微かに嬉しさを覚える。

 

 こりゃ若い頃はさぞモテたのだろうな。












 ある日。いつものトンガの家の庭での事。

 

「そろそろゴブリン退治でもしてみるか?」


 唐突にトンガはワトシアに問う。


「なんだ急に何を言い出すかと思えば。俺のトラウマ知ってていうんだからタチ悪いね」


 ワトシアはへらへらと笑いながら返す。


「ゴブリン程度にトラウマ抱えてウジウジしているようなヤツじゃないだろ、お前は。それに実戦経験は毎日馬鹿みたいに型どうりに剣を振るのとは比べ物にならないくらいいい経験になるぞ」


さあ、行け。とトンガが促す。

あれ?と、ワトシアは少し疑問を持った。


「え、最初は監督としてトンガさんがついてくるもんじゃねぇの普通?」

「馬鹿者。誰が赤ん坊の子守りみたいな事しなきゃなんないんだよ、めんどくせぇ。テメェは気づいてないかもしれないが、多分ゴブリンなんて瞬殺だ」

「おいおい、それでも最初くらいは…」

「せいぜい道に迷わないようにするんだな」


 トンガは家に入っていく。

 

 まじかよ。まさかのソロでの初実戦経験か。

 いや、厳密に言うと一回悲劇という名の実戦経験はあるが。


 ワトシアはいつも腰に差してある、トンガから借りている剣を握る。

 やってみるか。


 ワトシアは不安がないわけではない。

 しかし、トンガの言うことには一理どころか十理くらいある。

 いや、監督としてついてこないから九理くらいか。


 ワトシアはガシガシと頭をかいた。


「まあ、いっちょ、やってみるか」


 ワトシアは一歩森に踏み出した。


 





 森へと入ったワトシアは迷わないように木などにナイフで目印をつけながら進んでいく。

 村の近くの森で迷って帰れなくなって餓死でもしたら笑い事ではなくなる。

 ワトシアにはサバイバル技術なんてものは持っていなかった。

 こうしてみると、なんて心地よい森なのだろう。

 息をすると肺の隅々まで酸素が行き渡り、体が浄化されていくかのような感覚だった。

 ここが自分にとっての故郷であるため、当然といえば当然なのかもしれないが。

 森の中は小鳥と思われる囀りなどが聞こえてくる。

 平和だなぁ。


 そう思っていると小鳥の囀り以外にも何か聞こえることに気がつく。


「グギャグギァ」


 ん、この声はまさか、ゴブリンでもいるのだろうか。

 まさかもう発見できるのか。

 ドクンドクンと胸の高鳴りが体を襲う。


 そっと声のする方に近づいてみる。


 少し歩くとゴブリンを目視できた。

 だが。


「グギャギャギャ!」

「ギャギャ!」


 何やら二体いるようだ。

 なんか会話でもしているのだろうか。

 てか、魔物って会話できるのか?


 聞くところによると、ゴブリンはある程度の知識を持つと言う。

 しかし、会話するなど聞いたことがない。

 多分、猫や犬のように鳴き声を発し合っているだけなのだろう。

 

 よく見てみると、鹿みたいな生き物が近くに倒れている。

 なるほど、獲物を倒してこれから食べようとしているのか。


 今回の目的は言われずもがなゴブリンの討伐である。


 しかし、二体いるのか。


「グギャ!」


一匹のゴブリンが獲物にかじりつく。


「グギャギャ!」


もう一匹も獲物にかじりついた。



 よく考えるとこれはチャンスなのではないだろうか。

 慢心しているわけではない。

 しかし、たとえ二体でも今は食事に夢中の様子だ。

 できるだけ近付いて、身体強化で一気にカタをつけられそうだ。


 よし、その作戦でいこう。



 ワトシアはゆっくりと、二体のゴブリンの視界に入らないように近づく。

 当然、足音がならないようにゆっくりと。


 高鳴る緊張感を抑え、ゴブリンからおよそ五メートルくらいまで近ずくことができた。


 少し深呼吸をし、ゴブリンに狙いを定めた。


 よし、行くぞ。



 一気に体の魔力を体に纏わせ、身体強化を発動させる。


「「グギャ!?」」


 流石のゴブリン達もワトシアん魔力に気が付いたようだが、もう遅い。

 瞬時にゴブリンに近づき、剣で一閃。

 ゴブリンの首が胴体を離れる。


「グギャ!!!」


 もう一匹のゴブリンは戦闘態勢に入ろうとするが、武器である棍棒は食事の際に近くに置いていたため、一瞬ゴブリンの動きが鈍る。


 その隙にもう一閃。


 もう一匹のゴブリンも首を切断され、生き絶える。


「ふう!」


 思わず、息を吐く。

 この世界では、魔物という生き物に殺すのをためらう人はいないだろうし、向こうも本気でかかってくることを身をもって知っているため、殺すことにためらいは一切なかった。

 しかし、ワトシアは一人で魔物討伐という試練に大きなプレッシャーを感じていたのだとそこで気づく。


 そして、終わってみての感想は…。

 ただの呆気なさであった。

 ゴブリンってこんなに弱かったのだろうか。

 そう思ってしまった。


 そして、ゴブリンであったものを見つめる。

 ワトシアは少し疑問を抱いた。


「この死体って放っといていいのか?」


 思わず声に出る。


「よっぽど村の近くでなかったら放っといて大丈夫だ」


 背後から突然声がする。


「うおお!」


 驚きながら後ろを向くとトンガがいた。


「トンガさん付いてきてたのかよ。付いてくるなら言ってくれればよかったのに」


 その言葉にトンガは顔をしかめさせる。


「そんなこと言ったらお前の修行にならないだろう。俺がいると余裕が生まれて、変なためらいなんかが生まれても仕方ないからな」


 はあ、そうですか。

 ワトシアはトンガの正論に心の中で少し文句を言う。


「今回で分かったと思うが、限度はあるがお前の実力はゴブリン程度何匹いても圧勝できるだろう。つまり、ワトシア。お前の実力は並みのCランク冒険者の上位に立つこともできるだろう」

「はあ、そうなんですね…」

「さてはお前、Cランクがどのくらいの強さが分かってないな?」


 この村から出たことがないから当たり前だろ、と言おうとしたがトンガはDランクの冒険者について語り出す。


 トンガ曰く、冒険者にはS〜Eランクがいて、依頼達成度や組合への貢献度に応じてランクが上がっていくという。

 つまり、必然的に達成度の高い冒険者はランクが高くなり、高ランク冒険者は組合からその冒険者の実力を認められている証であるのだとか。

 Eランクは薬草採集や雑用程度、Dはゴブリン退治程度、Cは一般人じゃ太刀打ちの難しい魔物程度、Bはそれ以上の魔物倒せて商人の確実な護衛ができる程度、Aはほぼ全てのことが任せられる程度、Sは一騎当千と言われるほどの実力、つまりは龍とタメ張れる程度であるという。


「まあつまりお前は冒険者になればある程度の魔物なら難なく対処できる程度の実力であるということだ。しかし、俺は昔Aランク冒険者だったから、テメェなんて俺から見ればピーピー鳴いてるひよっこだがな」


 最後の最後にトンガはワトシアを煽る。

 それは少し聞き捨てならないな。


「おいおい、何言ってくれてんだトンガさんよぉ。いつもムキになって子供相手に魔力ビンビンに纏わせて戦ってるじゃねぇか。俺だったらひよこに魔力なんてたいそうなもん使わないけどなぁ」


 笑っていたトンガさんの顔が少し引き攣る。


「ほう、ゴブリン程度では全く疲れていないようだからな。特別に俺が本気でお前の稽古をしてやろう。ひよこみたいにピーピー泣くまでやめないからな」

「望むところだよ!」


 お互いに魔力を纏わせて、戦いが勃発する。

 

 これくらいの煽り合いからの稽古もよくあることだった。


 当然のごとく、ボコボコにされるのはワトシアであったが。


 こうして平和な日々を過ごしていた。

 



また近いうちに投稿します。多分。

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