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転生魔族の逆襲章  作者: 千万
4/6

平穏



 例の事件から一年後。


 ワトシアはトンガに助けられてから、毎日のようにトンガの家に行き、村の外のことやスキルについてだったり、この世界の常識について教わったりしていた。

 そこで聞いたのは、この世界の科学力というのはほとんどなく、魔法が主体であるということ。

 魔術とスキルというのは別物であり、共通しているのは魔力を使うという部分のみ。

 魔術に関しては、剣術や格闘術のように後天的に取得できるものであり、魔力さえあればあとは努力次第という感じらしい。

 ほとんどの人は少なからず魔力を持っているが、稀に持ってない人もいるのだとか。

 だから、大体の人は軽い魔術なら使えるらしいが、ワトシアのいるコル村ではあんまり普及していないようだ。


 そして、その流れで聞いてのだが、トンガは旅人と言っていたが本当は世界に名を轟かす剣士だったらしい。

 別にトンガは本当に旅をしていたらしいから、旅人というのも間違いではないのであろうが。

 

 ワトシアはトンガにいずれ村の外に出て、旅などをしてみるという意図を話したところ、できる限りの手助けをすると約束した以上、できる限りの剣の手ほどきをしてくれるとのことだった。


 それらのために、ワトシアはトンガの家に通っていたのだが、毎日通うことが出来なかった。

 なぜなら、この村にもワトシアの他にも子供というのはいるもので。

 そして、この村というものにおいて無関係のままではいられないもので。


「おいワトシア。遊ぼうぜー」


 小太りのガキ大将のような身なりをして、茶髪で短髪。まあ、太っているため少し目が細めだが、最近両親の農業の手伝いを始めたのか、少したくましい顔つきになってきている。

 その名はギン。


「ワトシアくーん、今日こそは遊べるよね」


 華奢な体に水色の髪。肌は新雪のように白く、大きく見開かれた髪と同じ色の瞳はガラス玉のように美しい。

 その名はナナ。


 このように、村にはワトシアを遊びに誘ってくれる友達もいるのだが、前世で無駄に歳を食っている分、子供達と遊んでいても正直つまらない。

 なんなら子供と遊んでやっている気分であるため、ワトシアはあまり楽しくないのだ。


「そうだな。たまには一緒に遊ぶか」


 遊びが楽しくないからと言って、毎日断るのは流石に悪い気がするし、村の子供達の中で孤立するのは望ましくないように思える。

 そう考えたワトシアは今日はギンとナナに時間を使うことを決める。

 毎日剣ばかり握っていてもただの脳筋みたいになるしな。

 両親も子供達の外で遊んでいる姿を見ると安心するように、シルアとワトソンもワトシアが外で遊んでいる姿をたまには見たいだろう。


 二人ともワトシアの子供っぽい姿なんてほとんど見たことないのであろうが。



「冒険者ごっこしようぜー」


 ギンがまるで小学生が昼休みに鬼ごっこをしようと友達を誘う時のように嬉しそうにいう。

 ギンが言う冒険者ごっことは。

 そもそも冒険者とは、この世界に存在している冒険者組合の主な仕事である魔物退治であったり、商人などの移動時の護衛であったりを担う組織の名称である。

 言うなれば、武力による対魔物が主になっているのだが、新地開拓であったり、薬草や鉱石などの採集などもある。

 それらは、一般市民や国などから依頼という形で冒険者組合に通し、そこに所属している冒険者たちがその依頼を受けるかどうか吟味する。

 そして、受けると決めたならば、組合と契約を交わし、依頼遂行に尽力する。

 

 ギンはなぜそんな冒険者の遊びをしたいかというと、それはよくある逸話として載ってるような絵本などに出てくる英雄は冒険者出身だったりすることが多いからだ。

 しかも、貧しい村出身の英雄がほとんどで、お金稼ぎのために冒険者になり、実力を伸ばし、世界を救う、みたいな。


 この経済的に豊かとは言えないワトシアのいるコル村出身の子供達には憧れない理由がないのである。



「俺は剣士で前衛やるからよ、ナナは魔法師やれよ。まあ、余ったワトシアは魔物役な」


 おいおい、久しぶりに遊ぶ人に魔物役やらせるのかよ。

 それはいきなり酷くないか。

 しかも余ったワトシアって、誘った人が言うセリフじゃないな。


「ワトシアくん嫌だったら、魔物役じゃなくてもいいんだよ?」


 ナナはなんて優しい少女であろうか。

 

「だって、ワトシアってゴブリンと戦ったことあるらしいぜ。父ちゃん言ってたし。それで倒したんだろ?」

「まあ、そんなこともあったけど、それで俺が魔物役かよ。…それでもいいけどさ」

「じゃあ決まりなー」


 という感じで村の子供達と時間を潰す。

 

 こんな日もたまにはいいか、とワトシアは自分に言い聞かせて過ごす。

 別に生き急いでいるわけではないし、人との繋がりが必要になることも多くあることを知っている。


 信用するかどうかは別として。


 ちなみに、ワトシアは冒険者ごっこでは、ほとんど魔物の役をやらされ、「グギャグギャ」言いながら、ゴブリンの役を演じている。

 生で見たことがあるからなのか、なかなかのクオリティであるのだが、本物を見たことのない子供達には伝わらない。



 いつからこんなに子供達のために、ゴブリンの役を本気で演じ、子供達を楽しませようとしているのか。


 前世では、そんなことしようとも思わなかったし、正直子供には興味はなかった。

 結婚してなかったってのもあるかもしれないが。

 ふとワトシアは疑問に思い考え込むが、こんなことを考えていても一向に答えは見つからないし、そんなに考えても大して意味のないことだと思っている。


 ただ一つ事実を挙げるとするならば、この世界に来てからワトシアの中の何かが変わったのだろう。

 前世と生活環境も違えば、両親も違う。人間関係も全く違った。

 こんなに周りが変わったのなら、自分の思考回路が変わっても不思議はない。


 多少は丸くなったのかもな。

 ワトシアはなんだか苦い気持ちになっていた。



 この日は日が暮れるまでギンとナナと遊んで終わった。



 

 

 








 次の日、今度こそトンガの元を訪ねる。


「トンガさん、入るぜ」

「おう」


 もはや、ワトシアがトンガの元を訪ねるのが珍しくなくなったため、トンガも反応は薄い。


「昨日はどうしたんだ?」


こちらを一瞥もせずに問う。


「何、村のガキたちに誘われてな。やつらと遊ぶのもたまにはいいかと思って」

「ふん、稀にはガキ臭いことするじゃねーか」

「年相応なことしてるだけだよ。で、今日も剣の稽古つけてくれや」


 ワトシアは、もはや日課になりつつある剣の稽古をトンガにつけてもらうように言う。



 ワトシアはこの世界に来てから『地球との違いがどう自分に影響を及ぼすのか』について気がついていた。


 まず魔物の存在について。

 こんな辺境な村だから簡単に魔物に遭遇したのかもしれないという考えもあるが、トンガから聞く限りはどこの街にも地域によって強さは異なれど一定数いるらしい。

 そうなると、最低限の自衛手段がないと困ることもあるかもしれない。

 そして今できること。

 つまり剣の稽古だった。

 トンガさんは魔術についてはそんなに得意ではないとのことらしく、教わってみたいものだったが、とりあえず今は置いておくことにしている。

 

 もう一つは地球の日本以上の治安の悪さが予想されること。

 この程度の文明であったら、ある程度の犯罪も無視されることも多いだろうし、殺人に関しても犯人を特定できずに終わることなんてのもありそうだ。

 命も地球より軽いだろうしな。

 こんなのに巻き込まれたくない。

 ここで必要になるのは、最低限の自衛手段だ。

 つまり、今すべきは剣の稽古。


 それに、いつかこの村を出て、たくさん金を稼いで、豪遊して、前世以上の幸せを掴みたい。

 実力至上主義な感じのプンプンするこの世界で生きていくのに、無力だったらせいぜいこの村で貧しい農民暮らしで、人生終了だろう。

 そんなのごめんだ。

 

 これらを総合すると、必要なのはある程度の実力。

 これは必須であることは、確実だろう。


 それに、この世界の剣術はなかなか面白い。

 トンガは魔術のことはそんなに詳しくないようだが、一つの魔術だけ教えてもらった。

 それは身体強化だった。

 もうわかる通り、魔力で身体能力をあげるだけ。

 ただ、剣士同士で一騎打ちなんてしようものなら、少しのスピードの差なんかが命取りになる。

 つまり、技術をも覆す可能性もあるわけだ。

 

 話を戻すが、身体強化を使う剣の打ち合いが面白い。

 もちろん木剣ではあるが。

 身体強化は俊敏な動きができたり、動体視力、そして脳の処理能力も上げるようで、高速な剣の打ち合いが脳汁出るほど楽しい。

 こんなの地球じゃ体験できないだろう。



 トンガは木剣を二本持ってトンガの家の庭に出る。

 庭なんて大層なもんじゃなく、家の裏にあるちょっと広い空き地みたいな感じだが。

 そして、トンガは無言でワトシアに一本の木剣を渡すとワトシアとある程度の距離をとって、向き合う。


「ほら、かかってこいよ。ガキンチョ」


 トンガが肩頬をわずかにあげて挑発してくる。


「じゃあ、ガキに負ける汚名をあんたにくれてやるよ」

「はっ、雑魚魔物のゴブリンに勝ててから言いやがれよ、ガキ」

「今日こそ、その言葉を一生言えないくらいに痣だらけにしてやるよ老害」


 お互いに少し罵り合ったところで、真剣な顔になる。

 二人は正眼の構えで向かい合う。

 トンガは戦闘において油断することがない。

 たとえ子供に対してもだ。

 トンガはそれが剣士として当たり前であると言う。

 

 だから、いつも本気でトンガはワトシアをボコボコにしているのだが、ワトシアの持っているスキルのおかげで怪我はゼロ。

 痛さはあるが、ちょっと放置すればなくなる程度。

 割とすぐ治るのだ。

 そこで、ワトシアが有利な部分としては、トンガが足を怪我して後遺症があるときていたが、トンガ曰く、毎日ゴブリンを狩っていたら少しずつその後遺症に足が対応してきたと超人的なことを言っていた。

 まだ、現役時代には遠く及ばないようだが。





 そして、まずワトシアが動く。


 ワトシアは身体強化を発動させ、隙のないトンガの隙を作り出すべく、トンガに急接近しトンガの右側から魔力を剣に乗せて真横に振る。



 それにトンガは瞬時に身体強化を発動し、その剣を避けるためにワトシアと反対方向へ一歩下がる。


 が、ワトシアは魔力の刃をトンガに向けて飛ばす。

 


 トンガは身を屈め、刃をかわすと同時にこちらに魔力を纏わせた突きを放つ。


 子供に向けるべきではないほどの突きだった。

 しかもその突きは魔力が乗ってるから、直線状には逃げれない。

 飛んでくる可能性があるから。

 

 ギリギリ半身を引いてかろうじてかわすも、剣を振った余韻から少し反応が遅れる。

 

 その差が勝負を分けた。


 突きを放った剣を瞬時に離して、懐に潜り込んだトンガはワトシアの鳩尾へ掌底を叩き込む。

 

「くはっ」


 口から空気が漏れる。


 もうそこから一瞬だった。

 

 トンガは流れ作業のように、次々にワトシアの急所に打撃を加える。

 そのまま、ワトシアを蹴り飛ばして距離を作る。


「もう終わりか」


 意識の朦朧としているワトシアには何も答えられない。

 この試合は二人とも身体強化を最大限に使ったため、数秒にも満たない時間であったが、地に伏しながらもワトシアは身体にほんの少しの疲れを感じていた。

 いくら数秒に満たないとは言え、本気で魔力を使い、本気で剣を振ったのだ。

 子供であるのも加味すると、妥当な疲労だろう。


 対称的にトンガは全く疲れを覚えていないようだが。


「ぐはっ、もうちょい子供に優しくご指導できないもんかね」


 ワトシアは血反吐を吐きながら、立ち上がる。

 

「本気のない試合に意味などなかろう。常に死を身近に感じる試合にこそ、上達の兆しあり、だ」


 ワトシアはすでにスキルのおかげでピンピンとしている。


「まあ、俺はこんなんじゃ死なねぇ。もう一度だ、トンガさん」


 負けるのはわかってる。

 だが、ワトシアはこの高揚感に逆らうことはできなかった。

 そして、この試合が無意味でないことはワトシア本人が一番理解できていた。

 毎日日を追うごとに、トンガへの勝利が近づいている。

 今までトンガが剣を捨てて戦ったことなどなかったのだ。


 それは、小さな成長だろう。



 これを毎日繰り返した。

 日が暮れるまで。

 何度も。

 


 ガキたちに絡まれない限りは。





 村を出るまでにトンガに勝てないままかもしれないなんて、ワトシアの頭の中には皆無であった。

 

 



 何度罵り合ったか。何度向き合ったか。何度手合わせをしたのか。


 そんなのお互いに答える事はできないだろう。


 それはワトシアにとって『生まれてから何度排泄をしたか』と言う質問と同意だ。






 だが、この世界においてこんな平和のような暮らしはそう長くは持たない。

 


 その事をワトシアが実感するのはまだ先のことであったが。


前回は会話文が多くて、自分で気持ち悪かったので今回は会話の描写を少し減らしました。

拙い文章ですが、どうか大目にみてください。

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