何もかも終わった後では前世の記憶が役立ちません
"夢"とは少し違う。
夢の中で俺が観ていたのはリリアルに似た、リリアルではない女の子。
俺の想い人が嫌がっていた"リリアル"も嫌いではなかったけど、現実のリリアルはその比ではないね。
そして、その想い人が陶酔していたのが――
「――これ?」
学園内三年の校舎、手洗い室。
鏡の前で己の容姿をまじまじと見る。
――白金の髪、薄青い瞳。
色素薄いな、自分。
背は高めだけど筋肉が、薄い。
「優男……」
直毛の長髪。男のくせに飾紐で纏めて後ろに流して。
(……改めて見ると……)
――えー? こんなのがいいの?? ――
我ながら……がっかりだ。
(リリアルの好みが筋肉質なら本気で鍛えないと。筋肉、付きにくいんだよ……)
夢の中の記憶が全て正しい訳ではなさそうだけど。合っていることがあるなら、行動しないわけにはいかない。
もし、合っているなら――大変なことになるから。
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「いない……?」
いつもなら気が付くと傍にいる側近二人が、何処にもいない。
男爵令嬢には先程見つかって、適当に断った。
彼女、リリアルと同じ二年生なのに三年の校舎彷徨いてるんだから驚いた。
普段は昼休みの中央棟での食事の時に会うくらいなのに。
いつもわざわざリリアルの視界に入る場所で彼女ーー男爵令嬢と側近達と食事を摂っていた。
少しでも気を引きたかった――なんて、全く相手にもされてないのに。この優男が。
「――っ……っ」
「――」
自虐的になっていたところで、話し声に気づく。
(――此所、か)
遠慮なく扉を引いて中に入ると、予想通りの二人がいる。
「――クロムナード」
「! クロムナード、殿下……」
(騎士団長子息――リンフォカイン・エイル)
(宰相子息――アクロレイン・コナー)
この二人と私が、リリアルを――破滅させる。