何もかも終わった後では前世の記憶が役立ちません
ぽつり、ぽつりと浮かび来るもの。
意味を知っているのに、知らない。
聞いたことがないのに、知ってる。
――これは、どう言うことだろう?
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私は、俺だったらしい。
夢の中に――愛しい人の気を引きたくて趣味を合わせ、話題を探る――俺がいる。
妙な格好で、侍女の部屋並みの狭さの部屋に住み。隣の部屋に、その想い人がいる。
義理の姉――どうやら、苦しい恋をしていたようだ。
何をやらかしたのか。命を失う直前に想い人を泣かせた――ああ、だから、二度と泣かせたくなかったんだ――
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「お嬢様はもうお出になりました」
とっくに、と執事ベルクアードは涼しげな笑みを見せる。
「そ、そうか……」
がっくりと肩を落としてすごすごと退散。
くっ、まだ学園内で機会はあるはず!
昨日は結局、毎日会いに行く約束は取り付けられなかった。でも、会いたい。
声が聴きたい、顔が見たい。何もかも今更なのに――止められない。
夢の中の俺も、こんな気持ちだったのか。
(……夢の中、と言えば)
くるり、と振り返ってもう一度ベルクアードを窺う
――ピクリ。とその眉が微かに動いた。
何だか見覚えがある。この屋敷とベルクアードに。もう何年も来た覚えがないこの場所と、今の、この、ベルクアード。
私が幼い頃はベルクアードだって少年だった。今はもう完全に――青年、と言った年齢だけど。
「カチャリ」
扉の押される音に、ベルクアードがぱっと屋敷へ振り返った。
「――殿下」
リリアルが屋敷から出てきた――って、
ちょっと執事! いるよ? 居留守?!
――取り乱し過ぎだから、少し落ち着こうかな……