何もかも終わった後では前世の記憶が役立ちません
「本当に、申し訳ない――」
膝をついたまま頭を垂れ謝罪する。
「――っっ!?」
困惑して息を呑む。大変に混乱している様子が空気を伝ってこちらまで届く。
「いけません! 殿下!」
リリアルが跪いて「私」の手を取る。
「お立ち下さい! 王族の方がその様に地に両の膝をついて謝るなど、あり得ません!」
お止めください、と言うリリアル。でもまだ声が震えてる。
「私が、したいから、させてくれないだろうか?」
(いや、俺が、謝りたい。王子としてではなく人として、最低な事をした)
「口述のみならば、如何様にも仰れますね」
流石は切れ者執事"口だけか"と罵ってきた。
「王族の発言が責任を伴うことは解っている。しかし、先程の言は――撤回させて貰いたいと思う」
「先程の――と、仰いますのは?」
完全に解っていて聞いてくるのは当然。ハッキリ言えってことだろう。
「婚約は破棄しない。――勿論。リリアル嬢に断られないなら、だけど」
「……その様な、ことは……」
「……」
口ごもるリリアルの後ろで"断れないのは当たり前だ。何言ってるんだ?"
と、執事の目が言っている。
(王族、だもんな。リリアルは真面目に頑なに。こんな目に合ってもなお王子に三行半を叩きつけたりしない。否、出来ない。ああ、結婚はしていないからその表現はおかしいか)
――ん? 三行半って、なんだ?
「――」
自分の頭に聞き慣れない単語が浮かび一瞬考え込んでしまって、リリアルの言葉を聞き逃してしまった。
「よろしいでしょうか?」
「あ、すまない、もう一度言ってもらえないか?」
「婚約破棄の件、少し考えさせて頂く事はできませんか?」
――もう、棄てられたようなもんか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
執事も驚いていると思うんだけど、表面上は変わらない。流石公爵家の執事。
俺はもうあわてふためいて取り繕うこともできない。一人称も"俺"になるよ、そりゃあ。
やや暫くうんうん唸って絞り出した答えは――
「毎日、謝罪に行く」
「困りますわ」
「困らせたくはない。でも――毎日会って、話がしたい」
「そんな……」
今更。そう言う言葉がピッタリな表情で俯くリリアルに食い下がる。
「表面の怪我は治せても、内面の傷は光魔法では癒せない」
リリアルが、はっとして顔を上げる――その瞳にはくっきりと指の跡が残る赤い頬が映っているのだろう。
「もうし―、!」
謝ろうとするリリアルの前に掌を揚げてやんわり制止する。
そうすると繋いだままだった手にリリアルが気づいてしまう――が。離さないよ。
リリアルの右手を、自分の左の頬に引き寄せ触れさせる。
驚いて離そうとする手を逃さず光魔法を発動させる。
リリアルは闇属性で、俺は光属性。相反する属性でも使い用でより良い効果が得られることもある。
そお、こうやってーー
赤い跡は無かったものになった。実は口の中も切れてたけど。しっかり治った――いや、怪我をする前に戻った。
本当は、俺は魔法が下手でいつも失敗ばかりだったんだけど。何か頭にこうすれば上手く行くかも? みたいなイメージが浮かんで出来ちゃったよ。
ーーうん? 執事に本当に半殺しにされてたらどうするんだったかって? そりゃあ表面上だけでも何とか治して取り繕うよ。それが"罰"なんだから。
それがない今はどんな罰が降るのかはリリアル次第だ。最有力候補はリリアルからの婚約破棄――自業自得過ぎて、――キツイ。