何もかも願った先には謝罪の言葉も見つかりません
(もしかしたら。リリアルは、生徒会の仕事に追われる私を案じてくれていたのかもしれない)
視線の意味を考えながら帰路に着く。
此の所ずっと生徒会室に入り浸りだったから。人員不足が深刻過ぎて。
生徒会はどうしてこんなに人気が無いのだろう?
(私のせいでは無い。……と、思いたい……)
リリアルのみならず、皆からも嫌われてるとか辛い。
このままだと、後任が決まってからも手伝う事になりそうなんだけど。
リリアルに気にかけて貰えるならそれも良いか? と我ながら単純で。
自分でも呆れてしまう……。
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「見つかった」
(――!?)
アークの報告に"何をやってしまったんだ"と一瞬焦る。
(その言い方だと存在しない筈の犯人を見つけた、と聞こえるんだけど……)
犯人を探すふりが面倒になって、誰かに冤罪とか?
"まさか"と口に出したら睨まれて。
「貴様の中での俺の評価が如何なものか、よーーく、解った……っ」
アークが戦慄いている。
(拗ねてしまうかな?)
カインが口数少ない分アークの反応が嬉しくて、つい余計な口を利いてしまうんだけど。やり過ぎると殴られるから、引き際は肝心だ。
カインと言えば"そう難しくない"と、リリアルを不安にさせない方法にまるで心当たりがあるような?
私には全く思い当たらないが……騎士団の規律でも読めば解るのだろうか。
「ーーもういい」
ほら、とアークが投げやりに差し出したのは手紙。
「入っていたぞ」
どうやら生徒会宛に投書があったようだ。
また仕事が増えてしまった……。
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(弱ったな)
意識して力を入れていないと勝手に頬が弛んでしまう。
窓を見て己の顔を整える。これ以上幻滅されたくない。
(漸く……乗ってくれたんだから)
王家の馬車の中、リリアルと二人向かい合う。朝の学園への通学中。
どうにか"名ばかりの婚約者"を返上したくて。少しでも婚約者らしく成りたくて。
まずは、登下校を共に出来ないかと公爵家へ。
来てみたものの断られるか、不在だとはね除けられるか? 二択しか無いと覚悟していたのに。
「ご一緒させて頂きます……」
そう言って、リリアルが王家の馬車に乗ってくれた――
(夢なのかもしれない)
早くも感無量な夢見心地に酔う。
控えめに伏せられた瞼が、長い睫毛を主張していて。
……今日もリリアルが、綺麗だ。
「先日は失礼な態度を……」
謝ろうとする声に我に還って、遮るように謝罪する。
「いや、やはり悪いのは私の方だった。配慮が足りずに申し訳ない」
恐がらせてしまっていたとは気付けなかった、とは言い訳だ。だから言い逃れはしない。
「殿下――」
私を見上げるリリアルの瞳が、まだ不安げに揺らめいている。
(名ばかりの婚約者なら。私の身に何かあっても悲しませる事はないだろうと思っていたのに。まさか不安にさせてしまうなんて)
「昨日は、その……アルミナ様と……何を、っ、いえ……」
何でもありません。と濁す言葉に、
「昨日?」
リリアルには伝わっていなかったのだと知る。
確かに。王子相手に説教したとは言い難いだろう。
(さて、どう説明したものか)
視線をさ迷わせた窓の外、視界の隅に写ったのは
(あれ、は)
校舎裏に隠れるように移動する彼と、その後ろに――
「殿下?」
「着くぞ」
リリアルが呼ぶ声と、カインの到着を知らせる言葉が同時に聞こえて。途端。
――ガタン。
車内が揺れて体勢を崩す。
窓に身を乗り出してしまっていたから、だ。反省している。
……だから、怒らないで貰えないだろうか?
座席の上、押し倒した彼女の。……あろうことか、心臓、部分に。
手を置いてしまった、事をーー
「――っっ!!」
――どぉんっ!
――がつっ!!
声にならない悲鳴をあげるリリアルに、どーん、と思い切り突き飛ばされて。
座席に頭を強打する。
「……」
――がしょん、
ぎぃぃ――。
そんな状況なのに"何事も無かった"と言わんばかりに、通常運転なカインが扉を開けて"降りろ"と合図を送ってくる。
これが騎士の鋼の精神力か、って本当?
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「お探しの物はございますか?」
放課後。
一日中ずっと宥めて機嫌をとって、何とかリリアルが落ち着いてくれた……。
"図書館に行きたい"と言うので一緒に向かうと、手伝いをするフェネトールの姿が。
いつも誰かを手伝っている。根っからの善人なのだろう。
「殿下には、此方が宜しいでしょう?」
リリアルが私に本を選んでくれた――
心浮き立つままに受け取ると、その表紙には。
"相手の気持ちの察し方"
"鈍い貴方は今日で卒業"との副題付き。
(これは……)
まだ怒っている、と言う事か……。
「王子殿下はお優しいですから……心配になるのですね」
"良くない志の者も、心を隠して近付きますから"とフェネトールが声を潜める。
(やはり、今朝のあれは)
「フェネトール。何か困り事があるなら、遠慮なく話すと良い」
犯人役を演じた事で厄介事に巻き込んでいるのではないだろうか?
「――っ」
目を見開いて驚く彼の様子には、確かな動揺が見える。
彼が今朝一緒にいたのは、アークの報告にあった人物。
鉄扇の持ち主、だった。
(変に誤解されていたりしたら)
「本当に、王子殿下はお優しい……」
胸を押さえ、苦し気にしながらも笑顔を作る――?
「私などに時間を割いていては、大切な方をお待たせしてしまいます」
ーー言いたくない、か。
(しかし、何も無い訳は無い)
生徒会宛の投書が不穏過ぎたから。
鉄扇の持ち主が"そう"とは決め付けられない。けど。
"騙されるな"
"フェネトール・グレインは偽善者"
誰かが彼に。
"悪感情"を、持っているーー





