何もかも願った先には謝罪の言葉も見つかりません
"いつの日も変わらない
空気のように側にある
私の護衛は
少し鈍くて
会話が下手で"
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「生徒会役員総選挙?」
顧問から言い渡されたのは、役員選挙の掲示物作り。
その内容を確認していたら、総選挙の文字が。
……会長も選び直しなのか。
サリドマイドが停学、いや。休学して一月近い。
屋上でカイン像に敷かれた後遺症か。
記憶の一部を失った彼は、未だ学園に出て来ない。
彼の幼馴染みの配慮で、屋上の件は"彼の独擅場の事故"として――
結果、自主停学と処理されていた。
「クロムナード、君も生徒会の手伝いから解放されたいだろう?」
顧問が気遣ってくれるけど。私としては、サリドマイドに全て負わせて何もしないで居たくは無いから。
生徒会の手伝いは罪滅ぼしの意味もあるんだけど。
代々先任の指名制だった生徒会長も"この際選び直そう"そう言う事だった――
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「クロム殿下」
出来上がった掲示物を貼りに、他の学年校舎へ向かう途中。
アルミナ嬢に声を掛けられ、校舎裏。
「リリアル様を不安にさせないであげて下さい」と。
噴水広場での一件の後、リリアルは震えていたのだと教えられて。
「あんな風に身を危険に晒して。見守る側がどんなに恐いか解りますか?」
静かに憤るアルミナ嬢に、二の句も告げず押し黙る。
「婚約者として"王族の方の矜持に添いたいのに"と悩んでいます」
ちゃんと、心も。護ってあげて下さい。気丈に見えても、リリアル様だって普通の女の子なんですから――
そう言い残してアルミナ嬢が立ち去って行った。
(リリアルが、恐がっている?)
確かに命のやり取りは恐ろしいものだ。
優しい彼女を悩ませてしまったのか……。
きっと真面目だから……そう"すべき"だと考え込んでしまうのだろう。
「リリアルの身も心も護ることに、厭う気持ちは微塵も無いが」
しかし"不安にさせるな"と言われても、どうすれば良いのか……?
"私を信じて欲しい"などと言える間柄には成れてはいない。
「形ばかりの"嫌われ婚約者"には、些か難易度が高いのでは――?」
掲示物を小脇に。額に手を当てて困り果てる私の隣に、
「……」
無言のカイン。
相談役には適さない相手だと解ってはいるけど、励ましの言葉の一言くらいあっても良いと思う……。
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「王子殿下――此方へ」
各学年の校舎等へ、カインと共に掲示にまわっていたら。サリドマイドの幼馴染みーー
"フェネトール・グレイン子爵子息"
が手伝いを申し出てくれたので、護衛を解いてカインと二手に別れる。
アークが居ない分捗らなくて困っていたから、とても助かる。
掲示板多すぎだろう……。
(一学年の校舎内だけで二桁とか。本当に全てに掲示する必要があるのだろうか?)
アークは噴水広場の犯人捜しに奔走中。絶対に見つからない相手を捜す、ふり。
鉄扇を投げたのは他ならぬアーク本人だし、逃げた犯人役はフェネトール。
鉄扇は銅像の再利用(勿論銘は潰してある)だしね。
いつまで続けるのか、ほとぼりが覚めるまでとは……覚めるのか?
「フェネトール、君には世話になってばかりだ」
掲示物を貼り終えて、手伝いの感謝を伝える。
「いえ、私など……何の役にも、立てませんから……」
謙遜し過ぎな恐縮ぶりに"もっと堂々として良いのに"と心で呟く。
グレイン氏は元は侯爵。"見合った成果を出せていない"と持っていた二つの爵位の内一つを返上し、今は子爵を名乗っている。
(謙虚なのは、父親譲りか)
「サリドマイドとの一件でも、噴水広場での事でも、君の機転で助けられた。謙遜する必要はない」
少し強めに言ってみる。
「……分不相応な、お言葉で……」
より萎縮させてしまう結果になる。
(何とか自信をつけさせたいと思うのは、ただの自己満足だろうか……)
――完遂だ。と言ってカインが戻って来たので、とにかくお礼を伝えて"解散"となった。
「フェネトールの謙遜過多は筋金入りだ……」
「……」
半歩下がって歩く、隣の反応は無い。
「サリドマイドが休学中なのに、会長まで選び直す総選挙とはどうなのだろう?」
「…………」
やはり無い。
何処までも我が道を行くカインに薄目を向けつつ、三年の校舎に戻る。
中に入る間際。ふと休憩場から視線を感じて振り返ると、
目が合ったのは。
「リリアル?」
馬車に乗り込んだ直後、窓の中から此方を見ていて。
視線が合った事に気付いた彼女の口許が"で、ん、か"
――そう動いた気がする。
(間違いなく、私を、見ていた)
リリアルが、私を……目で、追って――?
(ただ何か用があっただけかもしれないけど。それでも……)
走り去る馬車を見送りながら、気にしてくれた事への喜びを噛み締めているとーー
「そう高難度では無い」
カインが急に話し出して驚く。
(何が? 何について話していたんだった?――いつの返事?!)
本当に。いつも突拍子ない私の護衛は、こんな調子で振り回してくれる。
まったく。身体より、寧ろ"情緒の方を"護って貰いたいものだとは高望み過ぎ・・・?
かな・・・・・・(溜息)





