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何もかも魔法頼みじゃ愛しい彼女は振り向きません

 "恋に悩む者はいつだって真剣で

 だからこそ盲目で

 時に誰かを傷付けたりする

 それは皆に平等で

 一度のみとは限らずに――"


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 噴水広場の銅像の隣。

 噴水に背を向けて硬貨を投げ入れる。

 "ぱちゃん"

 その音に心が踊る。……喜んでる場合か。


 周囲を窺うと"王子もやるんだ"と驚いた様子で、皆がこちらを見ている。

 ーー見せ場は整った、かな?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「学園長の銅像が怖い」

 投書が生徒会に寄せられて。

 様子を見に来てみたら、笑顔で教鞭を振るう学園長の像の頭部にーー鉄扇が突き刺さっていた。……確かに怖い。

 しかし、本当に恐いのはこうなった経緯だったけど。


 以前から、噴水への異物投棄が問題視されていて。

 私の代でも、生徒会で注意喚起はしていたものの……とうとう周囲を危険に晒す様な事が起こってしまった。


 元は噴水へ投げ入れるのは硬貨。

 後ろ向きで入れられると恋が叶うのだとか。

 実に、可愛らしいまじないだ。


 それがいつの間にかこんな物まで投げ込まれる事態に。

 入らないからなのか、硬貨など少額は持ち合わせていないからなのか。

 ……金属であれば、何でも良い訳ではないだろう?



 停学中のサリドマイドの後始末。

 生徒会の仕事とアルミナ嬢への悪い噂をなんとかしよう、と。側近達に相談して、同時解決を思い付く。


 必要なのは、見せ場と役者と信憑性。

 それと協力者があと一人。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私の背後の噴水に、何かが投げ入れられる。

 噴き上げられた水に弾かれた"それ"が偶然吹いた強風に煽られて――


「ザシュ」

 私の元へ斬りかかる。


「ぽとり」

 落ちたのは、飾紐(リボン)に括られた、私の髪。


 甲高い悲鳴を皮切りに、どよめく周囲。


「殿下!」

 カインに制止されながら叫ぶリリアルへ。笑顔で無事を伝えると、後ろを振り返る。

 地面に突き刺さったそれ――鉄扇を引き抜いて掲げ、皆に問いかける。


「これは、噴水に投げ入れるのには向かない。と私は思うがどうだろう?」

 周囲の空気が張り詰めても、こうでもしないと危険が伝わらないと思って。


「私は髪で済んだけど、次は皆の身を危険に晒すかもしれない。今後は、投げ入れるのは硬貨だけにしておいて欲しいな」


 放課後のこの時間。

 迎えの馬車を待つ人の波が収まるまでを、この場所で過ごす者も多い。

 向かい側の中央棟の前にも、沢山の生徒達が列を成す。

 風魔法に乗せて。そちらにも、届くように。


「恋に悩む気持ちは私にも解るが……」

 役者達――生徒達に向けて、言う。


「アルミナ・ブローライト男爵家令嬢とリリアル・オクタール公爵家令嬢への噂は、知っているだろう?」

 一人一人に、語り掛けるように。


「あの噂は、違うだろう?」

 悪いのは、私だろう?


「全ては私の行いの悪さ故に起きた事だ。二人には何ら落ち度は無い」

 皆に向けて懇願する。


「どうか"正しい事実"を、伝えては貰えないだろうか? 皆の口から、今この場へ居合わせなかった生徒達にも。噴水の件も、噂の事も」

 王子が言っていた。それだけできっと充分だから。

 信憑性ならこの髪で、足りるだろう?


 喧騒はやや暫く続いたが、やがて迎えの馬車が到着した順に帰って行った。


(さて、リリアルに説明をしないと)

 姿を探すと――へたり。座り込んで放心している?!


「リリアル!」

  大丈夫かと傍に走り寄ると、

「また……無茶をなさったのですね」

 はっと気付いたように言う。


「万が一軌道がずれていたら、お怪我どころでは済まなかったのですよ?!」

 リリアルが、凡そ初めて見る必死な表情で私を叱る。


 ベルクアードの風魔法だから、安心だったと信用していたと、そう言ったんだけど。

「殿下にとって私の言葉など……風より軽いものなのですね……」

 そう言う瞳には涙が浮かんでいて。


 身体を冷やしてしまうからと、抱き起こそうとする私の腕を振り払って。

 リリアルは自力で立ち上がり、そのまま歩いて行った……。


 追い掛けようとする私の前にはアルミナ嬢が。

「私が行きます」

 止められてしまって。


 (私はまた、間違えてしまったのだろうか?)


「だから、先に説明をしろと言っただろう」

 溜め息混じりにアークが言う。


「刀身より出でし――錆び」

 カインまでも、何か言っている。


 ここまで怒ると思ってなかった。

 魔法で皆を欺く様な事をしたからだろうか?

 友人想いのリリアルなら許してくれるだろうと……甘えていた。


  寒いのは短くなった髪のせいか、また嫌われてしまったと血の気が引いたからなのか。


  リリアルが座り込んでいた場所に、暫く私も膝をついていたーーー


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