何もかも魔法頼みじゃ愛しい彼女は振り向きません
急に謝り出した私に、混沌とする周囲。
驚愕に息を呑むもの、唖然とするもの、冷やかな視線を送る(だろう)ものとーー
「なんで」と言うリリアルの、声?
言葉遣いに少しの違和感。しかし、深く考える事は出来なかった。
「――ちっ」
"馬鹿が"と呆れた様に言う言葉と舌打ちと、直後に胸ぐらを掴まれて。
"立て"と、ぐいっと勢い良く引き上げられる。
殴られるのだろうと思ったのに、合わされた視線の先――金色を帯びた藍色の瞳――に憎しみの色が見えない……?
すぐに手を離され、
「王族が、無様な姿を晒すな!」
怒られてしまった……。
「クロム殿下」
アルミナ嬢が気遣わしげに声を掛けて来る。
「申し訳ない。ずっと謝罪もせず逃げ回って……」
そう言う私に首を横に振り、
「やっとお話しできて……嬉しかったです」
彼女は静かに……笑った。
(私は本当に最低だ……)
「申し訳、ございません」
男らしさの欠片もない自分に嫌気が差していると、何故か隣でリリアルが謝っている?
しかも先刻までの私と同じ体勢で――!?
驚いて起こそうとすると押し退けるように、掌を眼前まで伸ばされて、制される。
「婚約破棄は致しません。殿下の御側に……居たいのです」
――お許し下さい――
「リリアル様?!」
こぼれ落ちる黒髪が、地につくのも構わずに伏すリリアルの姿に。アルミナ嬢が慌てて顔を上げるよう懇願する。
「リリアル様が謝ることなんて、何も無いです!」
――と。
私の心情も相当に入り乱れて。
"一生大事にする!!"
そう、危うく叫び出すところだった……。
そんな場合じゃないのに。"そばに居たい"と言う言葉が、嬉し過ぎて。
(……王子が地に額をつけて謝るとか馬鹿なの?)
――知っているか?――
(気の強い女性程、馬鹿な男を選ぶそうだ)
困りすぎて青くなるアルミナ嬢と、頑なに座り込むリリアルの懐柔。
自分の感情の制御で手一杯だった私は、奥の二人が何を話していたかなど気にする余裕も無く。
(やっぱり土下座は、危険な行為。間違いない)
一人見解を深めていた……。
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(そう言えば)
何か忘れているような……?
辺りを見回すと、何故か一体の彫像。
「!」
"彫刻カイン"が佇んでいた――!
これ……どうすれば良いのだろう?
流石に拳で叩き壊すとか、物騒過ぎるかなーー?





