何もかも魔法頼みじゃ愛しい彼女は振り向きません
注意:残酷描写
"そんなに――王子が良いのか?
こんなに……想っているのに?
眼鏡を握り潰した拳から
血液が滴り落ちる
それを見せつけながら迫る
ボクを、選びなよーー
"ねえ? こうなりたくないでしょ?"
捻れ折れ曲がった眼鏡に口付ける。
まるで、そう言うように――"
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(――っ)
授業中。今朝の夢を思い出して身震いする。
胸焼けに似た不快感が込み上げて、気持ちが悪い。
リリアルを目で追う――癒やされたくて。
休憩の間はずっと、アルミナ嬢といる。
……そんなに一緒に居たいのだろうか?
同性相手にまで嫉妬してしまいそうな、自分自身をもて余しながら、一日を終えた。
帰りがけに生徒会に顔を出して、引き継ぎを確認する。
以前、リリアルを探しに行った二年生校舎で。居場所を教えてくれた親切な男子学生が、引き継ぎ相手の新生徒会長だった。
変わり過ぎていて、気付けなかった。
真面目で物静かな眼鏡男子と言った印象が、眼鏡を外して人懐こい笑みを湛えた表情はもう、全く別人だった。ーー恐いくらいに。
ーーサリドマイド・トルーエン伯爵子息ーー
彼がこうなってしまったのは、多分。私のせい、だろう……。
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校舎を出るともう既に――薄暗い。
冷えた空気に感覚が冴える。
校舎横の休憩場に誰かいる。
制服が洋袴だから、女性だ。
(――まさか)
「――殿下」
どうしてこんな時間まで残っていたのか、寒そうな様子のリリアルに制服の上着を掛ける。
「リリアル。園内とは言えこんな時間に女性が一人でいるのは、危ないよ」
ーーそれに、体を冷やしてはいけない。
そう伝えると、申し訳ございません、と謝るリリアル。
多分ベルクアードが何処かにいるだろうけど。
(校舎内までは入れないだろうから、リリアルに護衛をつけた方が良いかもしれないな)
考えていると、リリアルが地面に詭こうとしてる――!?
「申し訳、ございません」
慌てて阻止すると、項垂れたままもう一度謝罪の言葉が。
「昨日の……件、では、殿下に落ち度など御座いませんでした」
と言うリリアル。
――いや、落ち度だらけでは?
それに、女性の方から謝らせてしまうなんて、情けなくて……男として最早底辺だろう。
謝らないで欲しい。
昨日の件だって……。
「私が勝手に部屋に入って、いきなり手を掴んで。更に不躾に顔を覗き込んだりしたから――」
そう言うと、二人同時に顔から湯気が。
――お顔を、治さないのですか? と聞かれて頷いた。
贖罪とは言わなかったけど。
消えてしまうものでは、やっぱり足りないし。
治させて欲しくてリリアルの手を取ると――引き抜かれてしまった。
……嫌でも、少しの間は我慢して欲しい。
痛そうなのか、嫌そうなのか。目を閉じて口元を引き結ぶ――?
「それでは、私も治さないで下さいませ」
再び目を開けたリリアルの表情は凛としていて――
言い含めるのも忘れて、魅入ってしまった・・・・・・・・・





