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015 ― ワクガイ、かの者に鎧を作りけり ―

惑星外生命体こと私『リーパー』一匹と、【鉱亜人種(ドヴェルグ)】と呼ばれる種族の一人であり、【ドリュアタイ地下帝国】の住人にして帝国のお姫様、『ゾフィー・レアテミス・ド・ヴェルグ』女史一人、そして笑い方が若干特徴的な(気持ち悪い)醜鼻鬼族(トロール)】一体の珍道中は数日に及んだ。


私の予想では数時間かそこらで目的地に着くと思っていたが、【醜鼻鬼族(トロール)】たちの集落はかなり奥まった場所にあるらしい。


一応【醜鼻鬼族(トロール)】が先頭を歩き殿(しんがり)を私が勤め、レミテアス嬢をその間に挟むことで護衛隊列でトンネルを進むことにしたものの、辺りは依然として代わり映えしない光景が続く。


歩き始めて今日で三日。


行けども行けども薄暗い洞窟なため、時間の感覚がおかしくなりそうだ。


唯一の救いは私が装備している特殊装甲(パワードスーツ)に内蔵された時計機能だろう。


これだけは私が母船のAIに命じて搭載させた機能だ。


『原子周波数標準器』と呼ばれる、通称『原子時計』。百万分の一秒しかズレない正確なその時計の原理を応用したこの機能により、今が何日の何時なのかを正確に教えてくれる。


この惑星に落っこちて来たときに既に太陽らしき恒星の運行状況は把握していたため、あとはそれに特殊装甲パワードスーツが自動調整してくれた。


加えて、私と【醜鼻鬼族(トロール)】の大柄な体格組の体力はまだ有り余っているから良いとして、さすがにレミテアス嬢の肉体的・精神的疲労はピークに達し始めていた。


何せ【鉱亜人種(ドヴェルグ)】といえど、彼女は貴族の出身だ。


自身のこれほどの長距離を歩いたことなど、おそらくないのかもしれない。


何度か私の背中におぶさるように促してみたが、友の足を引っ張るような真似はしないと頑なに拒まれてしまった。


その代わり、一定の距離を移動した後はキチンと休息を取ろうという取り決めをした。


仮に高低差の激しい長距離移動をしたとしても、モンスターや野性動物の襲撃に即応するだけの体力を温存しておける。


反対に【醜鼻鬼族(トロール)】はフゴフゴ鼻を鳴らしながら、見知った道をズンズン奥まで突き進み、私たちの先導役となってくれていた。


彼曰く、【醜鼻鬼族(トロール)】は地下での暮らしが長い分、あまり目が良くないらしい。


代わりに嗅覚を視覚の代用とすることで、周りの状況や対象の認識を行なっているのだとか。


とまぁ、そんな珍道中が何事もなく進むわけもなし。


目的地に到着する間、とにかくいろんな地下世界のモンスターと遭遇(エンカウント)した。


まず一日目。


私が地下に来て最初に引き裂いた大ムカデと同じくらいの大きさの大蛇が現れた。


ニョロニョロとした体を鞭のようにくねらせ襲いかかってくる大蛇の口には蛍光色に光る鋭い毒牙が迫り来る。


私は、『向こう側(人間だった時)の世界』の出張先で部下と一緒に食べた『うな重』旨かったなぁと独り言を言いながら、サイドチェストと呼ばれるマッスルポーズをするように蛇の首を巻き込みつつ、筋肉の隆起と万力のような締め付けで蛇の頭部をブツリと裁ち切ってやった。


続いて二日目。


今度はゴツゴツした岩に擬態した蜘蛛だったが、これまたサイズがデカい。


身長順に並べるとしたら、【鉱亜人種(ドヴェルグ)】の姫さまの次に私、三番目に【醜鼻鬼族(トロール)】、そして最後に大蜘蛛だ。


私と【醜鼻鬼族(トロール)】に対しては食指が動かなかったのか、大蜘蛛の標的はレアテミス嬢だった。


向こう側(人間だった時)の世界』で見たことがあるタランチュラのような太い足をしてはいたが、それほど毛むくじゃらではなく、反対に光沢の有るつるりとした外骨格をしている。


周りの瓦礫を自分の体に粘着性の糸で接着することでほぼ完璧に周囲の風景に同化しており、さらにツチグモやハエトリグモのように俊敏な動きで狙いを定めた獲物(レアテミス嬢)目掛けて奇襲を仕掛けてきた。


醜鼻鬼族(トロール)】の嗅覚ですら捕捉できなかったのか、一度はレアテミス嬢が大蜘蛛に捕まえられてしまった。




まぁ、私の友人に手を出したのだ。情けをかける必要もあるまい(ビキビキ。




私は容赦なくブレード状の外殻の付いた尻尾を使って、レアテミス嬢のシミひとつない首筋に突き立てんとしていた蜘蛛の毒牙を切り飛ばすと、外骨格の間に存在する節ごとに、八本の足をすべて折り取ってバラバラにしてやった。


反撃のつもりか、大蜘蛛は何度か強靭かつ硬質的な糸を飛ばしてきたものの、『非常識な存在(ワクガイ)』である私の尻尾の能力の前には無駄無駄無駄無駄ァッ、な行為でしかなかったわけで……。


とりあえず、かなりの長さの糸を確保したところで移動手段を絶たれ身動きのとれなくなった大蜘蛛を仕留めるとともに、バラバラにした蜘蛛の足はその日の食材となり果てた。


一先ず私がそこらの岩を板状に加工し、レアテミス嬢が持っていた火打ち石でもって、【醜鼻鬼族(トロール)】が集めてきた地下世界の植物の枯れ枝に火を起こし焼き料理をすることにしたのだった。


鍋や大量の水があれば茹でても良かったが、そこまでの贅沢をしなくても焼き蜘蛛の足は絶品だった。


捕食される一歩手前までいったレアテミス嬢は、最初こそ(いと)うていたものの、ひとたび口にした後は無言のまま蜘蛛の剥き身を頬張り続けていた。


蜘蛛の剥き身は『向こう側(人間だった時)の世界』で就業していた際、出張先の北海道で食べた蟹のような味わいで、なおかつ非常に濃厚な味だったため、私はとても満足したひとときを過ごす事が出来た。


そして三日目の今日。


今まさに私達と対峙しているのは吸血コウモリの大群だった。


私が不用意に尻尾の先端にあるブレード状の外殻で明かりを付けてしまったがために、天井に張り付いていた吸血コウモリの群れを刺激してしまい、そのコウモリたちに襲われている状況だ。


レアテミス嬢を守りながら私がどう対処しようか悩んでいると、先導役を買って出てくれた【醜鼻鬼族(トロール)】が、あの爆音のような雄叫びをあげた。


吸血コウモリの群れは突然発生した、衝撃波のごとき咆哮になすすべなく揃って失神したらしく、一気に仕留めることができた。


だが今回はこちらも無傷とはいかず、前衛を務めていた【醜鼻鬼族(トロール)】はコウモリからの吸血攻撃を多量に浴びてしまい、ご自慢の再生能力が著しく低下していた。


どうやらあの驚異的な再生能力は、体内のエネルギーを消費することで得られる新陳代謝の一種なようだ。


まぁこんな道半ばで死なれても寝覚めが悪い。私達は急遽、再生能力の衰えた【醜鼻鬼族(トロール)】用の簡易的な軽装備を即席で作成することとなった。


材料はこれまでの道のりで得られた『食材』から剥ぎ取ってとっておいたモノだ。


まず、一日目に出くわした大蛇から剥ぎ取った堅く艶やかな鱗の付いた皮を使って、腕を守る『大袖(おおそで)』の部分を。


次に胴体を守る『胸板(むないた)』の部分は、二日目に私の友人に狼藉を働いた大蜘蛛の頑強な胸部を。


武骨な感じになりはしたものの、少々物足りなさを感じた私は細部の意匠に先ほど仕留めた吸血コウモリの羽根や頭部をあしらうことで、いかにも強そうな雰囲気を持たせる事にした。


ちなみに各鎧の縫い付けとつなぎ止めには、大蜘蛛から大量に(奪い)取ったしなやかかつ硬質な糸を使用した。


レアテミス嬢が言うにはこの蜘蛛糸はかなり強靭であるらしく、彼女の小指ほどに束ねただけでも金属の刃物で切り裂くことは困難で、さらには耐火性も高いのだと言う。


向こう側(人間だった時)の世界』でも、蜘蛛の糸は鋼鉄の約五倍の強度を誇り、その伸縮率にいたってはナイロン繊維の二倍、さらには三百℃の熱にも耐えうるという、破格ともいえる驚異の性能を保持していた。


聞いた話によれば、普通の蜘蛛が生成した蜘蛛糸を鉛筆ほどの直径に束ねただけでもジャンボジェット機を吊り下げることが出来るのだとか。


さて、私は大蜘蛛の蜘蛛糸を束ねたものをさらに()り合わせ強靭な糸を作った。


さらに、尻尾の先のブレード外殻の能力を使って慎重に開けた開けた各パーツの穴へと通して行く。


こうすることで各部に『()()』が生まれ、防御力をプレートメイルのような鎧の耐久性にのみ頼ることなく、衝撃をいくらか分散させることが出来、なおかつ着用者の動きの妨げづらくするのだ。


そんなこんなで、何回か【醜鼻鬼族(トロール)】の(ビール腹のような)体を、大きな蜘蛛糸を巻き尺の代わりに使って寸法を測り、彼の体にジャストフィットするように鎧の各部を調整。


最終的に、日本の戦国時代に登場するような足軽(あしがる)のような鎧が完成した。


醜鼻鬼族(トロール)】に着心地はどうかと尋ねたところ、非常に動きやすいらしく腕をブンブン振り回したりして、意外なことに高評価だった。


まぁ所々()()ぎなため、形が少々不格好なのはこれが試作一号であるからということで、是非ともソコのところは目を瞑ってもらいたい。


ひとまず、私はその鎧を『Mk‐Ⅰ(マーク・ワン)』と名付けることにした。


洞窟の中、有り合わせの材料から作ったため軽装にせざるを得なかったが、いくら不格好でも(アーマー)(アーマー)なのだからこの名をつけるのはある意味では王道だろう。


ところで、この鎧の作製には実のところ、丸二日もの時間を要した。


なぜそんなに時間が掛かったかというと、私がこの星で得た最初の友人であり【ドリュアタイ地下帝国】の姫君様であらせられる『ゾフィー・レアテミス・ド・ヴェルグ』女史が要因である。


『妾に製作の様子を見せてくれんかのぅ』と、言われたので快諾してしまった私にも責任はあるだろう。


しかし、彼女は私の鎧製作の過程を目を皿のようにして逐一(ちくいち)観察しては、なぜソコはバラバラに作るのか、どうしてココにはソレが必要なのか、その行程にはどんな意味があるのかといった質問の嵐を次々とぶつけてくる。


そのたび、一々説明のための時間を割かなくてはならかったのだ。


鎧が完成した後も、その形状の物珍しさからか、鎧を隅から隅まで舐め回すようにじっくりねっとり観察し続けた。


まぁ、ファンタジー世界において比肩するものがいないほどの冶金(やきん)技術を持つドワーフ、いや【鉱亜人種(ドヴェルグ)】という種族の(さが)なのだろう。




……ただ、そのせいで【醜鼻鬼族(トロール)】本人に鎧を着せ終わるまで三時間半掛かったことだけ、改めて付け加えさせてもらいたい。

ここまでご高覧いただきありがとうございます。

誤字脱字ならびにご指摘ご感想等があれば、随時受け付けておりますのでよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い [気になる点] 悠長にし過ぎでは? 地上にある飛行船が人の手に渡る可能性が大きいのに地下でダラダラ探検ごっこは主人公の考えが分からん。
2021/10/30 10:11 ✌︎('ω')✌︎
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