092-4 ― 【幕間】公国公女、未知と遭遇す ―
今回はいつもより長文となってしまったため、モニター越しにご高覧いただく際は、目を休ませながらご覧になって下さいますようお願いいたします。
―――そして現在。
全身がうっすらと透け淡い燐光を発している奇妙な女へ同行を促しつつ、設営した調査本部の軍用天幕の一つに私たち、『【ベルンシュタイン大公国】怪物体調査団』の姿はあった。
今回の一件におけるこちら側の主要関係者は計四名。
私こと『ソフィア・フィーネ・ベルンシュタイン』をはじめ、【公国軍大公家護衛大隊】から私を守護するべくあてがわれた護衛の『ヘルムート・メッサァシュミット少佐』、側付きにして私直属の私兵部隊【雪豹】の部隊長『レパルディナ・アンゾルゲ少尉』。
そして彼女の部下であり、今回の会談になくてはならない通訳担当の『クリスチナ・ナッティネン伍長』だ。
上座に座する私の左右をレパルディナと少佐がかため、反対に対面には奇妙な女の横に通訳係としてナッティネン伍長が座る形を取ることとなった。
また万が一、『不測の事態』に備えレパルディナの指揮する【雪豹】所属の者達が壁際をかため、さらに少佐が選抜し完全武装を整えた【法術兵士】の精鋭達も反対側で不動の姿勢を維持している。
「さて、お互い挨拶もすんだことだ。まずはこちらの質問に答えてもらいたい」
「……『ほんかん』が提示できる情報は可能な限り開示します、と」
私が発した言葉に対して、奇妙な女は若干首を傾け耳打ちするような仕草をしながら、女の隣に座っているナッティネン伍長を介して返答する。
とても奇妙な構図ではあるが、こうすることでしか会話が成立しないというのだからしようがない。会話ができる相手であっても、こちらに対して敵意むき出しで襲ってこられるよりずっとマシである。
それにしても可能な限り、か。
つまり目の前の彼女は、こちらに対して開示されない、いや、『開示できない情報』も保持していることになる。
願わくば、それが【公国】にとって不利益にならないことを。
「では差し当たって、互いの質疑応答から始めていきたい。私たちとしては貴殿が一体何者で、どこの国の所属なのかを知りたい。……ああ、それが先ほどの再現になるというのであれば、それについてはご遠慮願いたい」
ひとまず私は当たり障りのない質問から始めることにした。
「…………公女殿下のご配慮は重々承知しております。しかしながら、現在『ほんかん』と皆様との対話に関して若干の齟齬が発生している可能性がございます。つきましてはその改善を提案致します、と」
「というと?」
「現在、皆様の前にあるコレは、厳密には『ほんかん』ではありません」
彼女が目を伏せながら、自身の胸に手を置く動作をする。
その言動に違和感を覚えた私はそっくりそのまま彼女に問うた。
「それはどういう事だ? その物言い、まるで自身をモノ扱いしているように聞こえるが?」
「……肯定します。コレはあくまでも皆様と対話をする目的で作成した『人形』に過ぎませ……え? じゃあここにいる貴女は偽物って事ですか!?」
「ナッティネン伍長、通訳に集中しろ」
「あぅ……申し訳ありません、隊長」
突然の発言に、それまで通訳係に徹していたナッティネン伍長が思わず驚きの声をあげてしまったがゆえに、直属の上司たるレパルディナから軽い叱責が飛び、ナッティネン伍長が肩を落とす。
「……いや、ナッティネン伍長が驚くのも無理はない」
ナッティネン伍長同様、私も少なからず衝撃と驚きを受けていた。表情や声に動揺の色を見せなかった自分を称賛したいほどだ。
「公女殿下の仰る通り。だが人形にしては随分と人間くさい。先程から見ていたが視線の揺れや瞬きもしている。よもや、我らを謀るつもりではあるまいな?」
やはりこの場に彼、メッサァシュミット少佐を連れてきて正解だった。歯に衣着せぬ物言いはあれど、こちらの考えを憚ることなく発してくれるのは非常にありがたい。とはいえ互いの不和を生み出しかねる発言に対しての窘めは必要だろう。
「少佐、それはいくらなんでも言い過ぎだ。彼女に対して失礼だろう」
「……はっ、出過ぎた発言でありました。貴殿にも謝罪する、この通りだ」
私の言葉が予定調和ということを察してくれたのか、少佐は発言を取り消す。
「……お気になさらず、と」
しかし、彼女は意に介さない素振りのまま会話を続けた。
続いて彼女は先程の少佐の発言に関して回答した。
曰く、『人形』に一定の『不規則な揺らぎ』を持たせることで、対峙した相手が不快さや不気味さといった感情の軽減を図っているのだという。
ちなみにその『揺らぎ』とやらを解除した状態での会話も見せてくれたが、なるほど……。
呼吸や筋肉の弛緩による体のフラつきが一切なく、瞬きもせず、空間のただ一点のみしか見ていない状態というのは奇妙な違和感というよりは、不安感を伴った薄気味悪い印象を受けた。
まぁ、私たちがそれを理解すると、彼女は今まで通りの反応に戻ってくれたわけだが。
「しかしそうなると貴殿『本人』は何処にいるのか? あの物体の中に住まいでもあるのか?」
「……いいえ、公女殿下。『ほんかん』は既に皆様の目の前に、と」
彼女の返答に私は無意識に眉根を寄せていた。
「申し訳ないが、私には貴殿と謎かけをする時間はないのだ。そもそも我々の前にいるのは『本人』ではない、発言したのは他ならぬ貴殿であろう?」
「……いいえ、公女殿下。謎かけでもなければ嘘偽りでもなく」
その刹那、彼女は音もなくスッと立ち上がる。
彼女が突然立ち上がったことで、壁に沿って立たせていた者たちに緊張が走り、少佐の部下たちに至っては抜剣や抜杖姿勢で次の動きをうかがう者までいる。
だが当の本人はこちらの警戒態勢に臆することなく『ある一点』を指差したまま微動だにしていない。
「? …………ッ!? ま、まさかそんな!? き、き、貴殿は……」
私は最初、その動作に意味を見い出すことができずにいたが、ある考えに行き着いた瞬間、思わず私自身も立ち上がってしまっていた。
それはあまりにも現実離れした考え。あまりにも荒唐無稽な発想。もしもこんな非常識な考えを他者に話して聞かせたところで、寝物語にはちょうどいいだとか、話し半分に聞くだけで十分だとかと一笑されておしまいに違いない。
だが私は常識では考えられない『それ』を払拭する言葉を持ち得てはいなかった。
後ろで豪快に倒れる椅子の音にすら気付かず、ましてや関心すら持てない程に。
「殿下!? いかがされたのですか!?」
私の思いがけない行動にレパルディナが心配そうに私の様子を窺っている中、『ある一点』を指差したままの彼女が発した言葉をナッティネン伍長が狼狽気味に通訳し始める。
「……皆様のいう『本人』とは、空より落ちてきたあの『怪物体そのもの』にございます……って、えええぇぇぇ―――ッ!?」
通訳をし終えて数秒後、事の異常性に気がついた素っ頓狂なナッティネン伍長自身の声が天幕に響き渡った。
◆◇◆◇◆
会談は、一方的なものになるかと思われたが実際は全く違い、ある程度こちら側が考えていた落としどころに落ち着いた。
理由は大きく分けて二つあったと思う。
一つは相手が非常にこちらに対して真摯な態度であったこと。想定では向こうが強気に出てくるのをのらりくらりと躱しながら解決の糸口を探るはずであった。
しかし相手はこちらの情勢を理解しているかのような寛容な反応を示し、実現不可能な要求は何一つ提示してこなかった。逆にこちら側の要求に対し、【公国】側より有利になるような助言の提案すらしていた感さえあった。
曰く、「自分――彼女の言葉を借りれば、『本艦』か――が有する権限では『要求』と呼べるものはひどく限定されており、こちらに対して要求することに『旨み』がない」のだとか。
戦後間もない国とはいっても、その言葉尻に私は少々憮然としたがそれはそれ。むしろ戦後処理がいまだ続いている我が国がこれ以上頭を抱え、腹の痛みに煩わせられなくて済むことを喜ぶべきだろう。外交において個人の感情を前に出すべきではないことを理解しているため、私はその感情をきちんと飲み下すことに成功した。
二つは現段階で相手側の『謀』を思わせる言動が一切なかったことだ。
これについては本当に、まるで他国との外交のための話し合いをしているのと何ら変わりはなかった。
当初こそ、それほどまでに対等の立場にないということかとも思ったが、それに関しては向こう側が『決して嘘をつかず、事実のみを話さなければならない』という制約があるため、とのことであった。
とはいえ、何もかもが全てこちらの想定内で済んだわけではなく、むしろそっちが私の懸念材料を大いに増やしてしまっていた。
(まさか相手が【普人種】ではなかったこと、より厳密に言えば生物ですらなかった事、か。まさか意志を持った道具と会話をする日がこようとは。さて、一体どうしたものか……)
彼女――こちらとの会談で向こうが使用した人形が女性だったため、今後は女性として扱うと両者の間で取り決めた――が『もたらした情報』は余りにも人智を越えた代物であった。
彼女の言によれば、「自分は星を渡る船」なのだという。
最初、私がそれを聞いた時には自身の耳を疑った。
さらに本来であれば船員なしで航行が可能で、操舵手を兼ねている艦長が一人いれば十分なのだそうだ。
しかし船体は現在、大きく損壊している状況であり自力での移動ができず、そのためこの場所から退去することが不可能である。
仮に今後の航行に深刻な支障をきたしてしまい、それでも無理に動こうとした場合は積載している燃料に引火し爆散、大惨事を引き起こしかねない。
なのである程度の応急修理が完了するまで、しばらくこの地での逗留を許可してほしいと言ってきた。
『一時的な逗留』、彼女からの要求らしい要求はそれだけであった。
全くもって荒唐無稽であること甚だしい。空に浮かび、星を渡り、ましてや『意思を持つ船』などあまりにも突拍子もない話である。
だいたい、風を受ける帆はおろか、船員も操舵手もいないのに一体どうやったら船が動くというのか。
少なくとも私が知っている限り、船には小型の漁船ですら船頭や船員が必要であることは周知の事実だ。残念なことに我が国は内地であるため海軍こそないものの、海の向こうにある【ディフレッテン諸国連合体】へと外交のため何度も足を運んだ経験もあってか、船に関連することの一切はすでに頭へと叩きこんである。
外洋への長い航海ともなれば船の最高責任者の『船長』や船の現在位置を測りそれに則った航海計画を策定する航海士の存在は必須。
また乗員の健康状態を気づかい、不測の事態時には即応が求められる船医を乗せないわけなどありえず、果ては大勢の甲板員の疲れた心と身体、そして胃袋を満たす司厨長だって重要な人材の一つだ。
だが彼女の機嫌を損ねて、あの『【イェストリア連山】を消し飛ばした攻撃』をされたら本末転倒だ。
ゆえに私は一先ず、逗留に関してのみ許可を出し、その代わり何らかの見返りがあると嬉しいといった旨の話を匂わせてみた。
政治的な判断に疎いのか、それともこちらの意図を完全に把握しているかは定かではないにしろ、幸いなことに彼女もその件に関して――彼女の有する権限の範囲で可能な限り――こちらの意向に沿ってくれるそうだ。
だが、彼女の方から各国の調査団を招いてはどうかという提案されたときには驚きを隠せなかった。
本来であれば、これほどの高度かつ人智を超えた超技術をもつ存在ならば、自身の存在を秘匿してほしいとか、自身とこれ以上関わらないでほしいとか、とにかく自分の存在を表舞台に出さないようにするはずである。悠然と天高くそびえたち、今まで不変と思われてきた【イェストリア連山】というあの大山の一部を消失せしめた『力の一端』を誇示し、自身という存在を神聖なものへと置き換えることだって決して不可能な事ではないだろう。
にもかかわらず、他国の調査団を招かせようとする彼女の意図を私は図りかねていた。
彼女は私の気持ちを察してくれたのか理由を話してくれた。
秘密というのは、当事者がどれだけうまく隠したと思っていても、いずれどこかから必ず漏れてしまうもの。
であれば、各国の調査団にも合同で徹底的に、納得いくまで調査してもらうことで、『前触れもなく、突然空から降ってきた巨大な石と金属の塊』という結論を共有してもらって方が【公国】の不利益は最小限に留まるのでは、ということだった。もちろん彼女の側も『自身の体内』ともいえる艦内の全てを明かす愚行をする気はなく、重要な区画はすでに偽装作業に着手しているとのことであり、重要な事実はあの会談の場にいたごく少数の人物にのみに時機を見て公開するつもりであるらしい。
なるほど。それならば【公国】も痛くもない腹を探られることもなく、最悪、知らぬ存ぜぬで押し通す事が出来る。
私は彼女の提案を飲み、それに沿う形で【公国】側は動く意思を伝えた。
さて、問題はココからで、『彼女を逗留ことで得られる、こちらへの見返り等に関する件』について、彼女からいくつか条件を提示された。
それは我々に開示できる情報には制限かけられるというものであり、制限の解除には彼女を操艦し現在行方不明とされている艦長本人から直接の制限解除の指令を受けなければならないらしい。
その制限というのは次のような場合に発生するという。
一つ、彼女が、彼女を建艦した生命体とは別の『未知の知生体』が接触してきた場合、その者達が厭戦気質を持っていること。
一つ、なにかしらの意思疎通が可能で、なおかつ代表者にある程度高い交渉能力を有していること。
一つ、そして何よりも、対象の知生体が『文明と呼べるだけの文化水準』を保持していること。
当たり前ではあるが、彼女の存在は我々の常識を根底から覆しかねない。さらに彼女の保持する知識は、与えた知生体の文明水準を数段回引き上げることも容易なのだそうだ。
だが、どれほど効果の高い妙薬でも使い方を誤れば途端に致死性の毒薬と化す。
そのため、彼女自身がその知生体と意思疎通をはかり、先の条件に当てはまり、なおかつ信用に足る存在だった場合にのみ、その文明水準に相応した情報のみ開示するのだという。
ともかく、ひとまずは今回の調査に関する一件の道筋の終わりは見えた。あとは適宜修正を加えながら、といったところだろう。
長時間に及ぶ会談が終わり、すでに辺りは夜の闇に包まれ、この辺りを住みかとする動物たちはすでに巣穴で深いまどろみの中にあるはずだ。他国の為政者たちがどうであるかは知らないが、流石の私でも日をまたぐほどの公務に準じたことはなかった。
「だからといって、なぜこのような事になってしまったのだろう……」
私は思考の海から戻り、後ろを振り向く。
「それでそれでっ!? その『ジンさん』って人は【不思議なオイルランプ】を手に入れることが出来たんですか!?」
そこには寝巻き姿で枕を抱えながら目を煌めかせるナッティネン伍長の姿と、さらには会談相手である『彼女』の姿があった。
『彼女』と伍長がどんな会話をしているのか、それを知る術を私は知らない。が、公務外の会話をしているのは誰の目から見ても明らかだった。
『…………………』
「ふぁあああ……。よかったぁ、一時はどうなるのかってヒヤヒヤでしたぁ」
私からの線が飛んでいることに全く気付いていないのか、伍長は『彼女』の会話に逐一反応しては様々な表情をみせていた。
幼少時より私の傍仕えであった頃から表情を一切崩すことがなかったレパルディナが指揮する影の組織とも称される【雪豹】唯一の新参者だからか、伍長は個性がひときわ目立っている。
ちなみに、そのレパルディナと残りの【雪豹】の隊員たちは交代で仮眠をとりつつ、この天幕の周りに身を潜ませて有事に備えてくれている。
『………、………………………………………』
「え? あぁ、そうですね。目的はそのオイルランプを欲しがってたお爺さんに届けなくちゃ、ですもんね」
『………、…………………………………………………………?』
「もちろん覚えてますとも! その不思議な洞窟は、最奥に眠る秘宝の力で造られているんです!」
『……………………。………………』
「えへへ~。これでもわたし、子供の頃から物覚えは良い方なんで……あれ? でも一番奥にあったのって今ジンさんが持ってるオイルランプなんじゃ?」
『…………。……………………………』
「えぇ!? つまり、その洞窟を支えていた【法力】が維持出来なくなっちゃったってことじゃないですか!?」
『………………………。『…………………………! ………………………』、…』
「で、でもでも! ジンさん、今までみたいにパパパッて脱出できたんですよね、ね!?」
枕がシワだらけになるくらいキツく抱えながら、伍長が詰め寄ったものの『彼女』は目を伏せて何かを呟く。
『…………………………』
「そ、そんなぁ!? 続きは明日の夜なんて、あんまりですよぅ! 気になっちゃって眠れなくなっちゃいます! あとちょっと、ほんのちょっとだけお話ししてください!」
『……………。……………………………………………、……………………………………』
「ちゃんと眠れたら明日は今日よりも長く!? ほ、本当ですか!?」
『……………………………………………………』
「もちろんですっ! 明日も通訳係を頑張りますから、よろしくお願いしますね!」
「ようやく終わったか?」
私が声をかけると伍長と話をしていた『彼女』が臣下の礼を取る。
「あッ! 姫様ごめんなさい! 姫様の護衛任務を先輩から任されているのに!!」
「いや、それは構わない。お前にはそこの彼女との『通訳』も兼任させているのだからそちらを怠ってくれなければそれでいい」
「姫様ぁ……」
「ただ、私もそろそろ眠らないと明日の公務に支障が出る。だから部屋の明かりを消させてほしい」
本来、この世界に生きる者は日の出とともに起き出し、日の入りとともに夕食を取ったらさっさと寝てしまう規則正しい生活を行なっているものがほとんどだ。
それでも日の入り後の暗がりで作業するためには、実際にロウソクやランプに火を灯すか、【蓄法石】と呼ばれる【法術】を込めることのできる【法石】を使った非常に高価なランタンを用いるしかない。
つまり、灯火を用いた暗所での作業は『光熱費』がかさむ行為であり、そんなことをしてまで起きているのは夜勤の者か、富裕層の一部に限られる。
とまぁ、長々と語ってはみたが何を言いたいのかというと、眠いからさっさと寝たいのだ。
二十一年生きてきた中で私が夜遅くまで起きていたのは、戦時中の士気高揚のための見回りや野戦病院での負傷兵の安否確認といった限られた場合のみであった。
それでも日を跨ぐ時間まで起きていたことは稀有であり、今まさにその新記録を樹立している。
『…………、…………。……………………………………………』
「それでは、公女殿下。また明日お会いしましよう、と」
ナッティネンが『彼女』の言葉を訳す。
「ああ、こちらこそよろしく頼む。お互い気を引き締めていこう」
『……………………、…………』
彼女が頭を下げると、その姿がおぼろげになり霧散する。
それは彼女が『自身の身体』がある湖に戻っていった証拠でもあった。
「……行ったか」
「そのようです。姫様」
伍長が頷くと私はあくびを一つする。
「さぁ、明日も激動の一日だ。英気を養うとしよう」
「それではお休みなさいませ、姫様」
「ああ、お前もな。おやすみ」
そういって私たちはそれぞれ宛がわれたベッドへと潜り込み眠りにつくのだった。